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竜の女王  作者: M.D
2170年春
76/688

25

「な、なんだってー!」

「どうしたの、樹君。」

「寮長さんが融合者だったなんて、驚かない方がおかしいくない?」

「樹君の驚き方は変よ。」

「それは、お約束というか、なんというか。」


 今は寮の管理室で、寮長と話をしている。


「寮長は、エレナ様や僕たちのことについてはザグレドからすでに聞いているんですよね?」

「えぇ。私が融合者だと知っている人は学校内でも限られているから、樹君が驚くのも仕方ないわ。」


(美姫さんはあまり驚いていないみたいだったけど、寮長が融合者だと知ってたりする?)

(寮長から悪魔の気配を感じる、って入寮時にエレナ様から教えてもらっていたけど、融合者だとは知らなかったよ。)

(僕には教えなかった、ということは、寮長が融合者だと知って驚くところを見たかった、というところか。)

(樹君はエレナ様のことを悪くとらえすぎよ。)


(そうじゃ。樹はワレのことを疑いすぎじゃ。)

(実際はどうなんですか?)

(・・・。)

(正解なんですね。)


「あなたたちが魔獣を連れ帰ってくるなんて、私も驚いたのよ。しかも、その魔獣に悪魔が憑いているし。」

「寮長もザグレドが魔獣だとよく分かりましたね。」

「ザグレド、あなた魔獣だったの?」

「オレは魔獣ではない。」


 この部屋には猫がしゃべっていることを疑問に思う者はいないらしい。


「この黒猫の名前もザグレドなんです。」

「そうなの?どっちでもいいけど。」

「よくないだろ!」


「夜に寮の見回りをしていたときに、魔獣を見つけたときはびっくりしたわよ。」

「オレのことは無視ですか。そうですか。」

「私は治安維持軍のにいたこともあるから、魔獣との交戦経験も結構あるのよ。それで、動物を見て、魔獣かそうでないか、なんとなく見分けがつくようになった、というわけ。」

「それで襲ってきたのかよ。もし魔獣じゃなかったらどうするんだ?」

「その時はその時よ。魔獣の疑いがあったから事前対処した、ってことにするわ。」

「ひでー話だな。」


「魔獣の能力ってピンキリだから、もし魔獣が強力な能力を発動したら最悪私の方が死んでしまう可能性もあるじゃない。だから、魔獣に対する時には能力発動前に全力で、っていうのは治安維持軍にいたことのある将兵にとっては常識よ。」

「なるほどな。でも、この猫の精神エネルギーを吸収しておいてよかった。ピアリスの攻撃をギリギリで防げるだけの防壁を張れたんだからな。」

「私もまさか猫から悪魔が出て来て防壁を張るなんて思いもしなかったわよ。あ、ピアリスっていうのは私が悪魔だった時の名前ね。表向きの名前は桐谷晴海なんだけど、私が悪魔だった、って知ってる人達の前ではピアリス、それ以外では晴海、って呼んで頂戴。ザグレドがいるのに、私だけ人間の名前で呼ばれるのも変な気分だから。」

「分かりました。」


「それで、そのあと反撃してこないから不思議に思っていたらグレンさんが話しかけてきたの。ザグレドも人間に主人格を奪われるなんてねぇ。」

「うるせー。オレはピアリスを消滅させてしまった方がいい、と思って反撃しようとしたんだが、グレンに止められてしまったんだよ。」

「それは攻撃を受けた時の感触からピアリスが融合者ではないかという疑いを抱き、そうであればここでの戦闘は我々にとって危険だと判断したからですな。」

「私も、あの時はこれ以上は危険だと、脳内で警報が鳴り響いていたわ。」


「ピアリスさんが融合者だと疑った理由は何なのでしょうか?」

「悪魔の影響が色濃く出る融合者の精神エネルギーの波動は悪魔のそれと同じく無秩序に近いものなのですな。それに対して、魔人の基礎は人間ですので、精神エネルギーの波動は完全に不規則ではないため、融合者との区別は可能なのですな。」

「私もあの時は精神エネルギーの波動を偽装してなかったしね。」

「精神エネルギーの波動の偽装なんて可能なんですか?」

「悪魔というか、下級魔族にとっては必須技能みないなものよ。竜族の攻勢は苛烈だったから、精神エネルギーの波動を偽装することで竜族に成りすまし、難を逃れる方法が編み出されたの。ザグレドも精神エネルギーの波動を偽装できるでしょ?」

「オレも下級魔族だったから当然できるさ。でもバレるときには簡単にバレるけどな。」


「こちらに争う意思のないことを素性を明かして話したところ、ピアリスもあっさりと自分が融合者であることを認めたため、事後承諾になってしまい申し訳ありませんが、エレナ様の名前を出して説得することにしました。」

「私に危害を加えない、というんだったら融合者同士で戦闘してもいいことなんて何もないから、グレンさんとの話し合いに応じることにしたのよ。」


(ワレの名前を出すべきではなかったのじゃが、今回は致し方あるまいのじゃ。)

(お許しありがとうございます。)

(じゃが、今後はワレの存在をあまり知られぬよう、ワレのことは何があっても話さぬようにするのじゃ。)

(承知しました。)

(だから、エレナ様だったら許してくれる、と言っただろう。エレナ様は我々にとっては太陽のような存在なのだ。先の第9次聖魔大戦においても――――)


 またザグレドの病気が始まったが、皆無視である。


「エレナ様のことは他言無用でお願いします。」

「分かったわ。」

「ありがとうございます。」


「でも、美姫さんがエレナ様と魂の結合をしているなんて、さっき会うまで信じられなかったわ。」

「ピアリスさんもエレナ様のことをご存じだったんですか?」

「エレナ様を含め、八竜王様のことを知らない竜族はいないわよ。まさかエレナ様が地球に降りてきていらっしゃるとはね。私も最初は疑ったけど、エレナ様の精神エネルギーの波動を確認したら、信じざるを得なかったわ。」


(他の王領の領民であったピアリスがすぐ気付いたというのに、我が王領の領民であったザグレドが気が付かんとはのう。)

(重ね重ねお詫び申し上げます。)

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