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竜の女王  作者: M.D
2170年春
70/688

19

「樹君、申し訳ないけど、またヒロポンを背負ってやってくれない?」

「そのくらいならお安い御用。」


 佐伯さんを背負って元来た道を戻る。


「魔獣はすごい迫力だった。もちろん魔獣に狙われて恐怖したのも初めてだったけど。」

「ふふふ。私が見た時は父がそばにいたからあまり怖くなかった記憶があるよ。」

「その時もあんな大きさだった?」

「うーん。あまりよく覚えてないけど、大きかったような気もする。」


「魔獣は今回みたいに体を大きくする個体ばかり、とうわけではありませんから、美姫さんが見た魔獣が大きくなくても不思議ではありませんな。」

「黒猫がしゃべった!」


 美姫さんが抱えている黒猫を見る。


「この猫と同調したので、しゃべれるようになったのですな。」

「そんなことが可能なんですか?」

「声帯模写は悪魔の基本技能の一つですから、ザグレドの能力を使えば何てことありませんな。」


「先程もそうでしたけど、グレンさんは魔獣について詳しいんですか?」

「魔獣の生態については高校の授業でそのうち習うと思いますな。ワシは研究機関で魔獣の研究をしている者に知り合いがいましたので、普通の魔法使いと比べると少し詳しい程度ですな。」

「高校で習う範囲内なんですね。知りませんでした。」

「魔獣による被害の抑止も魔法使いの使命の一つですから、その生態も魔法使いとして知っておくべき知識ですな。」


「やっぱり魔獣の研究ってされているんですね。」

「もちろんですな。魔獣の弱点が分かれば魔獣討伐の際の犠牲も少なくできますし、魔獣の発生原因を突き止められれば、魔獣の絶対数を減らすことも可能ですからな。」


(魔獣の発生原因が悪魔とはまだ分かっておらんのかのう?)

(えっ!?魔獣って悪魔が原因だったんですか?)

(そうじゃ。)

(魔獣が自然発生したと考えるよりは、悪魔によって作られた考えるほうが自然ですな。)


(ということは、魔獣は悪魔の使い魔が野生化したもの?)

(美姫さん、悪魔は魔獣を作り出したりはしないのですな。)

(エレナ様は魔獣の発生原因が悪魔だと、言っておられましたが。)

(ワシもザグレドと融合して知識を得ていますから、悪魔が魔獣を意図的に作り出したのではないことは分かっています。悪魔も動物を使役することはありますが、野に放ったりはしないのですな。)

(そうなんですか。)

(しかし、悪魔が魔獣の発生に関わっているとは思っていましたが、本当にそうだとは。)


(エレナ様、悪魔と魔獣はどう関係しているんですか?)

(そうじゃのう、、、その説明をする前に、悪魔が人間を襲うのは精神エネルギーの塊である魂を奪うため、というのは知っておるじゃろう。)

(はい。)

(人間の魂を奪う際に、ただ魂を奪うのではなく、人間の精神エネルギーを高めてから魂を奪った方がより大きな精神エネルギーを奪えるのじゃ。)

(そのほうが効率的だからな。悪魔の常識だ。)


(人間は興奮したり恐怖したりすると精神エネルギーが高まることを利用するのじゃ。悪魔が人間の恐怖を喚起させるような見た目をしているのも、その理由の一つじゃ。それに、サキュバスという悪魔を美姫や樹も知っておろう。)

(夢の中で誘惑して魂を奪う悪魔ですね。)

(そうじゃ。サキュバスは人間を興奮させて精神エネルギーを高めてから魂を奪う悪魔じゃ。しかし、人間を興奮させたり恐怖させたりすると言っても限度があるのじゃ。)

(確かに。)


(そこで、強制的に精神エネルギーを増加させる呪いを人間に放つことができる中級魔族の登場じゃ。呪いで人間が耐えられる限度以上に精神エネルギーを増加させ、精神が壊れる寸前で魂を奪うことによって、興奮させたり恐怖させたりするよりも遥かに大きな精神エネルギーを得ることができるのじゃ。)

(オレには無理な芸当です。)

(中級魔族以上にしか扱えん呪いじゃからのう。そして、強制的に精神エネルギーを増加させられても精神が壊れない人間もおるし、更にその状態を子供に受け継がれるよう呪いによって偶然に遺伝子が変容した人間もおるのじゃ。)

(それが魔法使いだと。)

(そうじゃ。他には、鬼や吸血鬼と呼ばれるような、肉体も変化してしまった人間もおるようじゃ。しかし、今はほとんど残っておらんということは、子孫を残す力が弱かったのかもしれんのう。)


(魔族の呪いを受けた人間が魔法使いや鬼になったように、魔族の呪いを受けた動物が魔獣になった、ということですか?)

(美姫は理解が早くてよいのう。ただ、動物の精神エネルギーは人間と比べると微々たるものじゃから、悪魔が動物を狙って呪いを放つことはないのじゃ。中級魔族が放つ呪いは強力すぎて、人間だけでなくその周囲にいた動物も巻き込まれた、というわけじゃ。)

(とんだとばっちりですね。)



 高速思考で会話しているうちに林から出て、ホテルの前に戻ってきた。


「佐伯さんを下ろして、目を覚まさせたほうがいい?」

「そうね。このまま樹君に背負われてホテルに戻るよりは、そのほうがいいかも。」


 佐伯さんを美姫さんに預ける。


「ヒロポン、起きて。」


 美姫さんが佐伯さんをゆすって覚醒を促す。


「う・・・。」

「ヒロポン、大丈夫?」

「美姫、、、どうしてここに?」

「ヒロポンが帰ってこないから探しに来たのよ。そうしたら、倒れているヒロポンを見つけたの。」

「そう。猫ちゃんにお肉をあげていたら眩暈がして、、、」

「それで、倒れてしまったのね。なかなか帰ってこないから心配したんだから。でも無事でよかったよ。」

「ありがとう。」


「夕方のあの件で緊張して疲れてたんじゃない?」

「樹君も、どうしてここに?」

「美姫さんから連絡を受けて、一緒に佐伯さんのことを探しに来た。」

「そう。樹君もありがとう。」


「猫ちゃんは?」

「あそこで毛づくろいをしているのがそうじゃない?」

「お腹がすいて弱ってたみたいだけど元気になって、よかった。」

「さぁ、ヒロポン、戻ろう。」

「うん。」

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