07
コンコンコン
「失礼します。今よろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ。」
病室に入ってきたのは妖艶な雰囲気をまとった婦人と、その執事と護衛と思われる男性2人だった。
「美姫ちゃん。お見舞いが遅くなってごめんね。」
「亜紀様!?」
「しばらく見ないうちに大きくなったわね。」
「お久しぶりです。亜紀様はお変わりなく。」
「あら、お世辞でも美姫ちゃんがそう言ってくれるのは嬉しいわ。」
龍野さんは婦人と知り合いのようだ。
「お忙しいと聞いていたので、来て頂けただけでも嬉しいです。」
「いいのよ、美姫ちゃんは麻紀の一人娘ですもの。私の姪みたいなものなんだから、お見舞いに来ない方がおかしいわよ。」
「ありがとうございます。」
「それより、検査の結果、体に異常はない、って聞いたけれど調子はどう?」
「今のところは問題はないみたいです。」
「良かったわ。でも、不思議ね。美姫ちゃんは今までずっと体が弱かったでしょ。それが突然元気になるなんて。」
「私も驚いています。父がしてくれていた治療が上手くいったのかもしれません。お医者様も驚いていました。」
(あれ?美姫さんを治療したのはエレナ様じゃなかったっけ?)
(樹君以外の人にエレナ様のことを信じてもらうことは不可能だから、私が良くなったのは父の治療のお陰、という事にしようとエレナ様と話をしたの。)
(成程。)
「圭一の治療がどんなものだったのかは知らないけれど、それが功を奏したんだったら何よりね。でも、突然圭一が行き先を告げずに美姫ちゃんを連れ出してから会えてなかったし、圭一にどこにいるのか聞いても教えてくれなかったから、ずっと会いたいと思っていたのよ。」
「亜紀様、圭一様のことはあまり、、、」
執事風の男が口を挟さむ。
「そうね。ごめんね、美姫ちゃん。警察とは別に龍野家の方でも圭一を捜索しているから心配しないで。すぐ見つかるわ。」
「ありがとうございます。父なら多分大丈夫だと思います。」
「圭一は大戦の英雄だものね。きっと大丈夫よ。」
「それから、今までのこととかお話したいことがあるんだけれど、時間がないから美姫ちゃんの今後のことについて先に伝えておくことにするわね。」
「はい。」
「純一から聞いたと思うけれど、圭一がいない間、美姫ちゃんには東大附属高校の学生寮に入ってもらうことになったの。」
「亜紀様にはお手数をおかけして申し訳ありません。」
「いいのよ、このくらい。実際には左衛門に任せてあるだけだから。本当は学生寮なんかに入らずに我が家に住んでほしかったのだけれど、『本家筋以外の人間を住ますなんてとんでもない』という人たちが多くて。ごめんね。龍野家当主なのに悔しいわ。」
「私のことを心配してくださるだけで十分です。」
「そう言ってくれると助かるわ。」
えっ!?
(あの人が龍野家当主?)
(そうよ。)
(どこかのお金持ちの奥様だと思っていたけど、まさか龍野家の当主だったなんて。。。)
「それで、美姫ちゃんはもう魔力検査は受けた?」
「はい。」
「純一、魔力検査の結果はどうだったの?『まだ一度も受けさせていない』って圭一が言ってたけれど。」
「検査の結果、亜紀様が予想されたとおりの魔法系統でした。また、素晴らしい魔力量をお持ちかと。」
「そう、、、やっぱり麻紀と圭一の娘ね。美姫ちゃんの能力は私が思った通りだったのね。」
「はい。圭一様が魔力検査を受けさせなかった理由が分からなくもないです。」
「魔法の腕輪への適正ね。」
「はい。『田舎で療養させたい』というのが圭一様の表向きの理由のようですが。」
「圭一の意向はどうあれ、美姫ちゃんは無事合格で来年から東大附属高校に編入できるのね?」
「はい。」
龍野家当主である婦人は安心したような顔をしている。
「亜紀様。」
「美姫ちゃん、どうしたの?」
「森林君も魔力検査をもう一度受けさせてあげて頂けませんか?」
龍野さんが先程と同じことを今度は亜紀様に頼んだ。
「彼はもう魔力検査は終わってるんじゃないの?」
「森林君の検査結果がどうだったのか私には分かりませんが、森林君には僅かに魔力があると思うのです。」
「どうしてそう思うの?」
「分かりません。だけど、そう感じるのです。」
「まあいいわ、美姫ちゃんがそう言うなら。純一、彼も検査してあげなさい。」
「はい。分かりました。」
「亜紀様、そろそろ。」
執事風の男が口を再度口を挟む。
「そうね。会議を途中で抜けてきたから、もう戻らないと。美姫ちゃん、高校に入学したら一度我が家にいらっしゃい。ゆっくり話がしたいわ。」
「わかりました。」
「森林君。」
「はい。」
突然話しかけられて声が裏返ってしまって変な声が出た。
「あなたが崖から落ちたことは不幸だったけれど、そのおかげで美姫ちゃんを見つけることができたわ。ありがとう。」
「いえ、そんなことは。」
「お礼としてここの入院費と、もし魔力検査に合格したら高校3年間は龍野家が責任をもってお世話させてもらいます。」
「そこまでして頂かなくても。」
「いいのよ。私がしたいだけだから。それにこの病院の入院費は高いわよ。」
「そ、そうですか。では、お言葉にあまえて。」
「そうよ。人間素直が一番よ。」
「じゃあね、美姫ちゃん。今度は我が家で。」
「来て頂いて、ありがとうございました。」
名残惜しそうにしながら亜紀様達は帰っていった。