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「修学旅行の飯はまずいと思ってたけど、意外とうまかったな。」
「あぁ、そうだな。東京シールドの外側の食事としては悪くない。」
部屋に戻った僕達は、風呂の時間までまったり雑談中である。
「その言い方がお坊ちゃんっぽいんだよ、斎藤。」
「そうなのか?」
「森林は高校からの編入組だから知らなかったのか。こいつの親父さんは内務尚書補佐官なんだよ。」
「それって偉いのか?」
「上から数えたほうが早いくらいには。知らなかったのか?」
「あぁ。」
「官僚になろうと思ってなきゃ、東京シールドの外側に住んでる者にとってはそんなもんだろう。」
「広瀬は知ってたのか?」
「もちろんだ。」
「そうか。」
「これからどうするよ。俺たちは2番目だから、あともう少しで風呂の時間だし、何をするにしても中途半端になりそうだ。」
「夕食の後すぐに風呂、というのも良くないんだがな。」
「大勢いるんだから、そうする他ないんじゃねーの。」
「24時間風呂に入れるのにか?」
「そこは修学旅行だから秩序だった行動を求められてるんだよ。」
「頭の固い考えは好きじゃない。」
「そういうなよ。暇つぶしにトランプでもするか?負けた奴が恥ずかしい話をする、ってことで。」
「そう言うのはなしで、普通にやろうぜ。」
「しゃーねーな。」
暇つぶしに始めた大富豪は意外と盛り上がった。
(樹君、今時間ある?)
皆と風呂に入りに行こうとしていたところに、美姫さんから連絡があった。
(今から風呂に行こうと思っていたから、時間はあるけど。どうしたの?)
(ヒロポンがいなくなったの。)
(いなくなった?)
(うん。ホテルの玄関近くに猫がいて、『その猫にお肉をあげる』って言って出て行ったきり、帰ってこないの。)
(玄関近くは探した?)
(うん。でもいないの。樹君、ホテルに入るときに猫を見なかった?玄関近くを探したんだけど分からなくって。)
(そう言えば、木の茂みに黒猫がいたような気がする。)
(それってどこ?)
(今から行こうか?)
(お願い。)
「すまん。少し用事を思い出したから、先に風呂に行っておいてくれないか?」
「何だ用事って。龍野さんか?」
「まぁ、そうだけど。」
「おぉ、いいぜ。男同士の友情よりも女のほうが大事だもんな。」
「佐野、お前何言っているんだ。森林、気にせずに行ってこい。」
「ありがとう。」
ホテルの玄関を出ると、美姫さんが待っていた。
「樹君、来てくれてありがとう。」
「猫はあそこの木の茂みあたりにいたんだけど、佐伯さんも猫もいないみたいだ。」
「ヒロポンがあのあたりにいたんだったら、探したらすぐ見つかるはずなんだけど、、、」
木の茂みの近くまで行くと、見えにくくなっているところに何がか落ちていた。
「佐伯さんって『猫に肉をあげる』って出て行ったんだったよね?」
「そうよ。」
「これって、その肉じゃない?」
「え、、、本当だ。ラップも落ちてる。でも、お肉が半分くらいしか食べられてない。」
「それに、この跡。微かに何かを引きずって林の中に入っていったように見える。」
「そう見えるような気もするけど、、、」
(その跡を追ったほうが良さそうですな。)
(ワレも同感じゃ。)
グレンさんとエレナ様が話しかけてきた。
(グレンさんも、エレナ様も、どうしてですか?)
(美姫さん、ザグレドが大きな精神エネルギーの存在に気が付きました。)
(おそらく魔獣じゃろう。)
(エレナ様もそうお思いですか?ワシも魔獣だと思いますな。)
(だとすると、早く見つけ出さんといかんのう。)
(魔獣って、どういうことですか?)
(先生に言って助けてもらった方がよくないですか?)
(いや、時間が惜しいのじゃ。ここはワレらで追ったほうが良かろう。)
(ワシもそう思いますな。樹君、美姫さん、魔獣の位置はザグレドが捉えていますので、早く追いましょう。理由は後から説明します。)
((分かりました。))
林に入って20秒程走ると、大きな動物の姿を見つけた。
(あれってもしかして――――)
(魔獣ですな。ザグレドがあの魔獣と同じ場所から佐伯さんの精神エネルギーを感知しました。)
(跡を追って正解じゃったのう。)
(気づかれないよう、ゆっくり近づきましょう。)
(はい。)
(グレン、ザグレド、結界は張っておるのじゃな?)
(はい。林に入る前からザグレドが結界を張っておりますな。)
(張ってある結界から樹の精神エネルギーだけを漏らすことはできるかのう?)
(特定の精神エネルギーだけを漏らすのはオレの力量では無理ですが、グレンが手伝ってくれれば可能です。)
(なるほど。ザグレドが張った結界を、樹君の精神エネルギーを使ってワシが内側から突き破るんだな。)
(そういうことだ。)
僕の精神エネルギーを使うのに、僕の了承などいらないらしく、勝手に話が進んでいく。




