13
嵐が収まってから皆で甲板に出ると、幽霊島の全景が自分の目で確認できた。
「凄い。」
「そうね。」
ブウンッ
「あっ!今、島の一部が歪みませんでした?」
「えぇ。出現したばかりで存在が安定していないのかもしれないわね。」
(エレナ様は今の現象についてどう思われますか?)
(次元の接点と幽霊島は、まだ完全には重なっておらんのじゃろう。)
(それなら、幽霊島へ行くのはもう少し待ってからの方が良いでしょうか?)
(いや、島が歪んで見えるのは、島自体ではなく人間の認識の問題じゃから、もう大丈夫なのじゃ。)
(では、早速上陸準備をします。)
調査船から小船を海上に降ろして運搬機を積み込んだ後、
「真夏さん、何処から上陸しますか?」
「予定通り、ここから北北東の方角にある小船が接岸できる場所に向かいましょう。」
「そこが施設の緊急出口に一番近いんでしたね。分かりました。」
僕たちも小船に乗り込み、真夏さんが指定した場所へ小船を走らせる。
「うひょうー。幽霊島が間近に見えるんよ。」
「いつもながらに、緊張感のないクソエロじじぃね。」
「私なんて不安で仕方ないのに、ロジャー教授は平気なのですね、、、」
「珠莉君とは年季が違うからなんよ。つまり、経験の差なんよ。」
「クソエロじじぃは元から緊張感がぶっ壊れているだけでしょうに。」
順調に進んで岩で囲まれた小さな砂浜に近づくと、同じような小船とボロボロの大きな帆船が見えた。
「小さい方が緊急脱出用の船ですか?」
「そうよ。動かさないと痛むから、暇な時にこれで釣りに行ったこともあったわね。」
「大きい方は海賊船だったりしますか?」
「えぇ。難破した海賊船のようね。中に入って調べた時には宝石や金貨とか、積んでいたであろう財宝を少し見つけたし。全部調べた訳ではないから、まだ残ってるのもあるんじゃないかしら?」
「そうなん!?小生も海賊船の調査をしたいんよ!」
真夏さんの言葉を聞いたロジャー教授が目を輝かせ、小船を降りてボロボロの海賊船へ向かおうとするが、
「許可できません。」
「そうです。ロジャー教授はこの島に来た目的を忘れていらっしゃるようですね。」
美姫と和香に止めれていた。
「ちょっとだけ、先っぽだけでいいんよ。入っちゃいかん?」
「そういうことを言うから、クソエロじじぃって言われるのよ。そんなクソエロじじぃは放っておいて、私たちだけで研究施設に向かいましょう。」
「小生を置いていこうとするなんて、百合子君は酷いんよ。」
「自分勝手したいのなら自己責任で。当然のことでしょう?」
「・・・分かったんよ。」
百合子さんに冷たく突き放されて、未練を残しながらもロジャー教授は海賊船の調査を諦めたようだ。
「でも、本当に難破した海賊船があるなんて、ここはバミューダトライアングルと言われる魔の海域だけありますね。」
「あの海賊船も、幽霊島が現れる際に起きる嵐に巻き込まれ、波にもまれて幽霊島に流れ着いたんじゃないかな。」
「それで、幽霊島が消えると海賊船も忽然と消えてしまって誰にも発見されなかった、と。成程です。」
珠莉は伝説が本当であった理由に納得していた。
「海賊船の乗組員はどうなったんでしょう?」
「幽霊島に上陸して生活していたみたいよ。研究施設を造るために島の調査をした時に、崩壊した住居跡を見つけたと言っていたから。」
「それじゃ、生き残れなかったんですね。」
「未知の伝染病にやられたのかもしれないわ。当時は抗菌薬もなかったから、蔓延すると、そこで終了よ。住居跡には海賊船から持ってきたと思われる宝石や金貨もあったけれど、病気になってしまったらそんな物は何の役にも立たないわよね。」
「その時に見つけた宝石や金貨はどうしたん?」
真夏さんが言った『宝石や金貨』という単語にロジャー教授が目ざとく反応する。
「全部売っぱらって、研究施設を造る資金にしたらしいわ。だから、残っているのは海賊船の中にある分だけね。」
「そうなん?だったら尚更、、、やっぱり、止めておくんよ。」
ロジャー教授は続けて『海賊船を探索したいんよ』と言いたかったのだろうが、百合子さんに睨まれて断念した。
「さて、美姫様、降りる準備を致しましょう。」
「そうね。」
和香が器用に小船を操って砂浜に着け、幽霊島に上陸すると、
「これから森を抜けて施設の緊急出口に向かう訳だけれど、事前に話しておいたとおり、施設の周囲は侵入者を見つけて排除するために石像が徘徊しているわ。」
真夏さんが島の状況について説明する。
「その石像は、真夏さんの悪魔の分体が操っているんですよね?」
「えぇ。だから、侵入者とみなされない私が先行して安全を確保するから、その後をついて来て頂戴。」
「分かりました。」
「では、真夏さんに先導してもらうとして、エリドゥ遺跡の時と同じように、何かあったら和香は運搬機の防御機構を起動してロジャー教授の保護を。」
「承知しました。」
「百合子さんは後詰めをお願いします。」
「分かったわ、美姫少佐殿。」
こうして、僕たちは研究施設へ向かうべく、陣形を組んで森の中に入っていった。




