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竜の女王  作者: M.D
2174年春
661/688

12

 翌日、フロリダの港を出た僕たちは、魔獣を掃討しながら幽霊島が現れるという海域まで辿り着いた。


「樹、またここにいたのね。」


 甲板で海を見ていた僕に美姫が声をかけてくる。


「肯定。幽霊島が現れる前兆を見てみたいと思って。」

「その時には突然嵐になるって噂だから、こんなところにいたら危険よ。」


「そうです。海もかなり時化るそうですし、船が大きく揺れるので、中に入っていた方が安全です。」

「もし、樹が海に落ちて溺れたら、私が人工呼吸をしてあげるわ。」


 珠莉と百合子さんも甲板に出てきたようだ。


「もう、百合子さんは、またそんなことを言う。」

「でも、僕たちだったら、嵐が来たとしても平気だと思う。」

「そうですね。私たちには守ってくれる人たちがいますから。」

「正確には人ではないけれど。」


 4人で並びながら海を眺める。


「平和ね。」

「肯定。ずっとこんな穏やかな時間が続けばいいのに。」

「私もそう思います。これが決戦の前でなければどんなに良かったのか、と。」

「だったら、終わった後に休暇をとって、フロリダでゆっくりしましょう。」

「百合子さんにしてはいいことを言いますね。」

「賛成。」

「砂浜で海を見ながらのんびり過ごすのも良いですね。」

「その時には、珠莉のわがままボディを樹に見せつけないとね。」


 百合子さんが珠莉に向ける嫌らしい視線をチラリと見て、海の方に視線を戻すと海鳥が目の前を通り過ぎた。


「あっ!」


 海鳥の向こうの空が一瞬光ったと思うと、風が強くなり、何もなかったところに雲が出来始める。


「これは!?」

「幽霊島が現れる前兆じゃない!?」


 雲は上方に向けて急速に発達し、積乱雲を形成していく。


(そろそろのようじゃのう。)

(はい。巨大な体積を持つ島が現れるのですから、押しのけられた空気が上昇して雲を作っておるのでしょうな。)

(ヴァロ様にもこの光景を見せてあげたかったわ。)

(ワレが思いっきり自慢してやるために、わざと呼んでおらんからのう。ヴァロ様の悔しがる顔が目に浮かぶのじゃ。)


 人外たちも、この光景を興味深く見ているようだ。


「波も高くなってきましたね。」

「えぇ。そろそろ中に戻った方が良さそうだから、樹、行くわよ。」

「もうちょっと。」


(そうじゃ。ワレらがいれば危険などありはせんのじゃから、樹だけでもここに残しておくのじゃ。)

(駄目です!全員一緒に戻ります。)


 僕に同調したエレナ様だったが、美姫の強い口調に渋々承諾し、僕たちは船の中に戻った。



「皆、いい時に戻ってきたんよ。」


 ロジャー教授の言葉に船の窓から外を見ると、大粒の雨が降り出しており、波が船体を叩きつけている。


「外はあんなに荒れているのに、船はあまり揺れていませんね。」

「それは、この船が強力な機械式の免振機構を備えているからなんよ。」


 美姫の質問に、ロジャー教授が情報端末に船の構造を出して説明してくれた。


「最近は電子制御が一般的なはずなのに、この船は機械式なのには理由があるのですか?」

「幽霊島が現れる前には電子機器が不調になる、と聞いて、幽霊島に行くためにわざわざ改造してもらったんよ。」

「そうだったのですか。ありがとうございます。」


「確かに、観測用計器はどれも機能していないみたいだわ。」

「これだと幽霊島が現れる瞬間は撮影できませんね。」

「残念。」


 後で映像でも確認できないのは不本意だ、と思っていると、


(樹は幽霊島が現れる瞬間を見たいのかのう?)


 エレナ様から想定外の問い掛けがあった。


(肯定。でも、エレナ様がそんな事を聞くときには僕に良からぬことが起きることが多いので否定しておきます。)

(今回は樹には負担をかけることはないのじゃ。)

(それなら肯定です。)


(うむ、ザグレド、ワレらはお主の視線を共有する故、お主は樹の体から出て、甲板で幽霊島が現れるのを見届けるのじゃ。)

(オレが、ですか!?)


 突然無茶振りザグレドは困惑気味だ。


(結界を張れば見つからないであろう。)

(別にオレではなくダーでも良くないでしょうか?)

(エレナ様の命令なのだから、つべこべ言わず行きなさい!)

(そうじゃ。ザグレドはワレの言うことが聞けないのかのう?)

(・・・分かりました。)


 ガレリアとエレナ様から責められたザグレドは、不承不承、コッソリと僕の体から出て看板へ向かう。


(ザグレドさん、ちょっと可哀想だったかな?)

(否定。あれがザグレドの役回りだから。)


 しかし、そうは言っても、ザグレドおかげで幽霊島が出現する神秘的な様子を見ることができたのも確かなので、戻ってきた際に慰めておいた。

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