15
夕食時にホテルの廃墟でのことを話した。
「森林たちを残して逃げてしまって、本当にすまん。」
「俺も、悪魔の幽霊を見た瞬間にこれはダメだって感じて、気が付いたら走っていたんだ。」
「気にしてないから。」
「いや、俺も謝るよ。悪魔の幽霊があんなに怖いとは思わなかった。今でも思い出すと震えてしまうくらいだ。」
「なんだ、佐野、お前まだブルってるのか?」
「斎藤こそ、『お、俺をおいていくなーーー!!』って、ガクンガクンしながら走っていたじゃないか。」
「仕方ないだろ。あの時は逃げるのに必死だったんだから。」
「森林、佐伯のこと助けてくれてありがとう。改めてお礼を言うよ。」
「そうだな。俺たちは自分のことで精一杯だったから、佐伯のことを気にする余裕なんてなかった。森林と龍野さんがいなかったら、正直どうなっていたか分からん。」
「俺からもお礼を言わせてくれ。」
「当然のことをしたまでだけなんだけど。」
「その当然のことを俺たちはできかなったわけだし。」
「そうだな。」
「しかし、森林も龍野さんもよく悪魔の幽霊を見て逃げ出さなかったなぁ。魔法科の授業で悪魔への恐怖を克服する方法とか習ってたのか?」
「さすがに、そんな授業はないって。ただ、魔法使いは魔力に対する耐性だけはあるかもしれない。普通の人は魔力の扱いに慣れていないから、魔力の塊である悪魔に僕らよりも余計に恐怖を感じんだと思う。」
「なるほどな。」
「そういう事か。」
でたらめだが、信じてくれたみたいだ。
「結局、俺たちが逃げ出した後、どうなったのか教えてくれないか?」
「まさか悪魔の幽霊が襲ってきた、とかはないよな?いや、そうだとすると森林はもうここにないないか。」
「あの後は、佐伯さんが気を失って倒れたんだけど、悪魔の幽霊は僕らの周りをぐるっと回った後、ニヤッと笑ってすぐに消えてしまった。」
あの時のことを聞かれたときのために、美姫さんたちと事前に話し合って用意していた答えを言った。
「それだけ?悪魔の幽霊は何もしてこなかったのか。」
「あぁ。」
「そうか。逃げ出さなくても良かったのか。」
「そうと分かっていれば、俺も女子にいいところを見せられたのに。」
「佐野、お前はそんなことしか考えられんのか?」
「いいじゃねぇか。」
「それにしても、ホテルから出てくるのに時間がかかったように思うが。」
「佐伯さんのこともあるし、少しの間警戒していたから。」
「なるほどな。佐伯をおぶった状態で悪魔の幽霊に襲われたらどうしようもないから、すぐに行動しないというのは正解かもな。」
「あの状態でそこまで判断できるなんて、森林はすごい。」
「僕1人だと無理だったかもしれないけど、美姫さんもいたし、お互い励ましあったから何とかなったんだと思う。」
実際に僕は何もしていないし。
「龍野さんと2人きりか。うらやましい。」
「でも、悪魔に魂を食われるような状況なんだぞ。」
「それは嫌だな。」
「森林も怖かったのか?」
「あの姿を見て、恐怖を感じない人間はいないと思う。僕だって、めちゃめちゃ怖かったから。」
「それはそうか。」
「何にしても全員無事でよかった。」
「いい思い出にもなったしな。」
「『助けてーーー!!』って我先に逃げ出したことが、か?」
「う、うるせぇ。」
「しかし、今回のことで森林には借りができてしまったな。今後、何かあったら俺たちに言ってくれ。手伝えそうなことがあったら協力するから。」
「別にそこまでしてもらわなくてもいいよ。」
「森林は中学の時にはまあまあできるほうだったと思うが、東大附属の授業についていけているか?分からないところがあれば教えるぞ。」
「広瀬がそんなことを言うなんて珍しいな。」
「俺も森林には感謝している、ってことだ。」
「魔法科は普通科ほど筆記試験は厳しくないみたいだから、広瀬達に教えてもらわないといけなくなるようなことはないはず。」
「そうなのか?」
「魔法科は、高校を卒業したら国防軍に入る奴がほとんどだからな。脳筋が多いんだよ。普通科みたいに難しい試験をしたらほとんど卒業できなくなる。」
「ははは。そうかもしれないな。」
「でも、大学に進学する気になったらお願いしするかもしれない。」
「その時は任せてくれ。俺も森林に教えられるように準備だけはしておくから。」
女子の方も同じような話をしているみたいだった。
「美姫、助けてくれてありがと。」
「そうよ。龍野さん、ほんとありがとね。弘子を助けてくれて。」
「気にしないで。実際にヒロポンを助けてくれたのは樹君だから。」
「最初は頼りない感じがしたけど、森林君もやるときはやるんだね。うちの男子とは大違いよ。」
「そうよ。女子をおいて逃げ出すなんて。」
「茜、そう言うあなたも弘子をおいて逃げたじゃない。」
「そうだけど、、、あの時は自分の身を守ることしか考えられなかったの。」
「まぁ、私も3人をおいて逃げてしまったから、人のことは言えないわね。」
話をしているうちに、夕食の時間も、もうすぐ終わりだ。
「ヒロポン、もう食べないの?」
「うん。もうお腹いっぱい。」
「そっか。でも、お肉をラップで包んでどうするの?」
「ホテルの玄関近くにいた猫ちゃんにあげる。」
「猫なんていたっけ?」
「いた。」
「私もついて行こうか?」
「いい。わたしも高校生なんだから大丈夫。」
「ヒロポンを見てると母性本能をくすぐられるのかも。」
「美姫は私の保護者じゃない。」
「分かった。でも、気を付けてね。」
「うん。」




