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翌日の朝、美姫と僕はヒューストンの駐在事務所に向かっていた。
「ゴメンね。無理言ってついて来てもらって。」
「無問題。でも、魔法理事国魔法軍会議の前にロンドン魔法軍司令長官と会談に同席してほしいと、昨日の夜に言われたんだって?」
「そうなの。魔法理事国魔法軍会議に同席することは以前から聞かされていたのだけれど、ロンドン魔法軍のポール魔法軍司令長官閣下からの断っての願いで、会議前の隙間時間に会談が急遽組まれたらしいの。」
「緊急に話し合わなければならないことが出来たとか?」
「私にも同席を求められたところから、その理由が私たちに関わることだとは思うのだけれど、幽霊島に関することだったら厄介なのよね。」
「同意。反対されないまでも、ロンドン魔法軍からも同行者を出したい、とか注文が付くのは嫌だ。美姫のお父さんに関わることだから、出来れば僕たちだけで行きたいし。」
駐在事務所では雄平大将と会談の事前打ち合わせを行ったのだが、
「えっ、単にお茶するだけですか!?」
会談の内容を聞いて、あっけにとられた。
「そうなんだ。美姫少佐と個別に対面で話ができる機会を逃したくない、というのが先方の言い分だ。」
「それだけのためにわざわざ会談の席が設けられるとは思えないので、何か裏がありそうなのですが、、、」
「幽霊島に関して聞きたいことがある、と考えるのが普通だろう。」
「私もそう思います。」
(不穏な感じなってきた。)
(そうね。何もないといいけれど、、、)
打ち合わせを終えて魔法理事国魔法軍会議が開かれる会場に向かうと、会場周辺は多数のヒューストン魔法軍に所属する魔法使いによって警戒がなされていた。
「樹も会場の警備を担当するの?」
「肯定。でも、昨日はロジャー教授に呼び出されて警備に関する最終打ち合わせには出られなかったから、予備的な役割に変更されたけど。」
「そのことについて樹の代わりに警備につくヒューストンの駐在武官から文句を言われたりしなかった?」
「ロジャー教授絡みだから向こうも不満を口にすることはできないみたいだった。その埋め合わせに会談の警備をさっき仰せつかったから、終わるまでは部屋の前にいるよ。」
「よろしくね。」
会場内にある会談が行われる部屋に着くと、ロンドン魔法軍司令長官は既に中で待っているそうだ。
「私たちも早めに来たのですが、先を越されましたね。」
「あぁ。開始時刻までまだ時間があるというのに、気が早いな。」
美姫と雄平大将はそう言って部屋に入っていき、僕は同じく会談の警備をするロンドン魔法軍の魔法使いと言葉を交わして扉の前に立つと、
ん?
それからすぐに、荷台を押してこちらに向かってくる和香が見えた。
「和香?どうしてここに!?」
「樹様、お疲れ様でございます。私は美姫様の侍女なのですから、私が給仕を担当するのは当然かと。」
和香に声をかけると、当たり前のことを聞くな、と言わんばかりの顔で部屋に入っていき、
「和香?どうしてここに!?」
部屋の中から、僕と全く同じ台詞で驚く美姫の声が聞こえてきた。
(はぁ、、、油断していたよ。飛行機の中に和香がいたことから、こうなることを予想すべきだったのに、、、)
(同感。でも、急に組まれた会談のはずなのに、和香はどうやって潜り込んだんだろう?)
(全く、和香の神出鬼没さには呆れてしまうね。)
給仕を終えて部屋から出てきた和香に訳を尋ねると、
「この会談を行うようポール様に進言したのは私ですから、その際に私も1枚咬ませてもらえるよう頼んだのです。」
斜め上の回答が返ってくる。
「どういうこと!?和香がロンドン魔法軍のポール魔法軍司令長官に進言したって!?その前に、和香はポール魔法軍司令長官と面識があったのか?」
混乱する僕に対し、
「はい。ポール様にはミセシメ会ロンドン支部の副支部長をお願いしておりますので、映電での会議で何度もお会いしております。」
和香は冷静に答えた。
「それから、私はミセシメ会の会長として、会員との会話を重視していますから、ヒューストンに魔法使いの方々が一堂に会するこの機会を逃すまいと、多くの会員との面談を設定しており、ポール様とは昨日に面談を行わせて頂きました。」
「飛行機を降りてから姿が見えないと思っていたら、そんなことをしていたのか、、、」
「その際に、ポール様はジョージ様とリリーナ様の結婚式で美姫様と初めて顔を合わされ、虜になったと伺いました。その時のことが忘れられず、美姫様と対面でのお話がされたいとのご希望でしたので、美姫様の予定が空いている今の時間の会談開催を進言させて頂いた次第です。」
「この会談は美姫の予定を把握している和香が原因か、、、というか、その事をここで話しても大丈夫なのか?」
隣にいるロンドン魔法軍の魔法使いの方をチラリと見ながら聞くと、
「はい。彼もミセシメ会の会員で、昨日はポール様と一緒に面談しましたから問題ありません。」
「つまり、この人も僕がミセシメ会の特別顧問とか怪しげな役職につかされていることも知っていると?」
「はい。そのとおりです。」
との和香の言に、隣人は親指を立てることで肯定の意を示した。なんてこった。




