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黒龍会の本拠地に踏み込んでから1ヶ月後。魔法軍にて、
「本日付で独立中隊に着任となりました市原恭介中尉であります。宜しくお願い致します。」
「本日付で独立中隊に着任となりました惣流珠莉少尉であります。宜しくお願い致します。」
恭介さんと珠莉が敬礼して着任の報告をし、
「着任ご苦労様。こちらこそ、よろしく。」
「歓迎。」
美姫と僕が返礼をする。
「かしこまった挨拶はこのくらいにして、座ってゆっくり話をしましょう。美沙の紹介もしたいし。」
「「はい。」」
「美沙もこっちに来て。」
「はい。小官は独立中隊所属 小野美沙准尉であります。宜しくお願い致します。」
美沙が恭介さんと珠莉が敬礼して自己紹介する。
「美沙、硬いよ。」
「しかし、御二方は小官よりも階級が上ですから、けじめは必要です。美姫様も軍の高官と話されるときにはそうされるでしょう?」
美沙は独立中隊に配属になった後、美姫のことを”美姫様”と呼ぶようになっていた。
「そうだけれど、たまにはいいじゃない?ここには私たちしかいないのだし、今日は2人が着任して独立中隊の隊員が増えて目出度い日なのだから。美沙だって、独立中隊の隊員が増えて嬉しいでしょ?」
「はい。恭介中尉が着任されて小官の負荷が減るのは有難いのですが、、、」
「そのことについて、美姫様にお話があります。」
恭介さんも美姫のことを”美姫様”と呼ぶようになっており、
「恭介さんも硬い。」
「美姫様の武勲と引き換えにしてまで小官を魔法軍に戻された理由をお聞かせ頂けないでしょうか?」
美姫の言葉を無視して話を進めた。
「そのことについては樹とも相談したのですが、恭介さんには私たちの参謀として働いて貰うのが
一番良い、という結論になったからです。それに、今までは美沙がほぼ1人で事務処理なんかをしていて負担が大きかったので、恭介さんが独立中隊に来てくれると助かるんです。」
「しかし、美姫様の武勲と小官では釣合いがとれないのではないでしょうか?」
「そんなことはないですよ。私たちは昇進が速すぎる、と私たち自身が感じてしまたから、言い方は悪いですが、恭介さんを利用させてもらったのです。」
「同意。昇進が速いせいでやっかみも多かったですし、丁度いい言い訳にもなりましたので。」
「そうですか。美姫様が小官を魔法軍に復帰させて上に、まさか昇進までさせるとは思っていませんでした。」
「恭介さんは黒龍会の情報を探るために潜入していた事になっていますから、昇進はその功績を讃えて、という建付けです。」
「なので、恭介さんの魔法軍復帰と昇進は一式なのです。」
「そうだったのですか。」
「魔闘会の時のことも、恭介さんが自分のことを黒龍会に怪しまれないようやむを得ず行ったことになっていますから、お咎めはありません。」
「その責は、居なくなった真夏さんに全部負ってもらうことになっています。」
「美姫様と樹大尉が高校生2年生の時の実習にご一緒させて頂きましたが、その時には既に小官が利用されていることに気づいて今日までの絵を描いておられたのでしょうか?」
「私たちもそこまでは先を見通せていませんでしたよ。」
「肯定。思い付いたのは黒龍会の事件の後処理をしている途中ですから。」
「それでも素晴らしいです。この御恩は小官の変わらぬ忠誠をもって返させて頂きます。」
そう言って、恭介さんが頭を下げ、
「小官も美姫様から頂いた御恩に必ず報いることを誓います。」
珠莉も頭を下げた。
「珠莉まで、、、」
「小官が精霊魔法を使えるようになったのは美姫様のおかげですから。」
「えっ!?そうなのですか?」
珠莉の言葉に美沙が驚く。
「はい。美姫様のところにパース魔法軍のキャサリン少佐が来られた時に、小官が偶然居合わせたことがきっかけだったのです。あの時にキャサリン少佐と出会っていなければ、小官が精霊魔法を使えるようになりませんでした。」
「そんなことがあったとは、知りませんでした。」
「しかし、凄いですね。今までパース魔法軍だけに限られていた精霊魔法使いが、ここに2人もおられるのですから。」
「小官もそう思います。美姫様に至っては、2つの魔法系統の魔法を使える上、更に精霊魔法まで使えるのですから、神がかっているとしか思えません。」
恭介さんと美沙が話題にした美姫の方を見ると、
「そうです。美姫様は人類史上最高に神々しい方なのです。そんな美姫様を崇め奉らない者などいるでしょうか?いえ、いません。否、いてはいけないのです。そのため、私は美姫様の素晴らしさを世界のあまねく場所に伝えるべく――――」
後ろに立って控えていた和香が、何故か美姫を褒め称え始めた。
「和香軍曹も変わった方ですね。」
和香を視界に入れながら恭介さんがそう小声で呟き、
「和香のことは気にしなくていいですよ。基本、無視でいいです。」
「美姫様酷い!でも、そういう冷たい美姫様も素敵です。」
いつものような美姫と和香の掛け合いがあったところで、
「ハハハ。独立中隊は楽しいところですね。」
「ふふふ。小官もそう思います。」
ようやく恭介さんと珠莉の堅苦しさも幾分かマシになったのだった。




