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竜の女王  作者: M.D
ミセシメ会5
647/688

02

「・・・それで、普段はこの場でどんなことを話しているの?」


 少し立ち直った美姫が頭を押さえながら聞くと、


「会報へ掲載するため、私がお側にいられない時の美姫様の勇姿について樹様から聞き取りをしております。」

「会報に載せられる情報は限られていますが、ここで樹君が余すことなく語ってくれる美姫様の大奮闘は他では得難いものなのです。」

「その後は美姫様に関することであれば何でも心ゆくまで語り合い、そこで自分の知らなかった雅馴閑麗な美姫様の魅力を再発見するなど、有意義な時間を過ごしております。」


 和香、花梨さん、竜胆さんは普通に答えた。いや、そこは誤魔化そうよ。


「はぁ、、、如何わしいことをしていると思ったら、全然そんなことはなかったのね。。。」

「何度もそう言ったはずだけど、、、」

「そうです。樹様とは破廉恥なことをした覚えが一切ないと、命を懸けても断言できます。」

「そもそも、美姫様の信奉者である私たちが、美姫様の伴侶となる樹君に手を出そうと考える余地などないことは美姫様もお判りでしょうに。」

「そのとおりです。栄養素の少ないユーカリの葉を食べ、ユーカリの葉に含まれる青酸を分解するためのエネルギーを温存すべく1日の内20時間くらい寝ており、更に起きているときもその毒で酩酊状態のコアラのように頭が回っていない森林君となど有り得ません!」


 毎度のことながら、僕を貶めるために正誤の怪しい無駄知識をぶっこんでくる竜胆さん。


「皆の意見は分かった。それじゃ、いつもの様に話をしてみて。最終判断はその後に下すから。」

「承知しました。では、上島副会長、今日の議題をお願いします。」

「はい。今日は、黒龍会の一件で真夏元中尉を追いかけて行った後での美姫様の華麗な活躍を愚鈍な森林君に語ってもらうことになっています。」

「それまでの美姫様の獅子奮迅ぶりについては流川会長からの手記として既に会報に掲載されていますから、次号ではその続きとして樹君から語られた虎嘯風生が載せられる予定です。」


「そうなのです。今回も美姫様が一番輝いていたであろうところを見られなかったのです。あぁ、空を飛べない自分が恨めしい。。。」

「流川会長は美姫様の健闘の一端でも見ることが出来たのですから良いではないですか。私などは黒龍会の陰陽師どもを掃討する側に回されていて、美姫様の影すら見れなかったのですから。」

「そうです。私なんかは魔法使いでも何でもないので、そもそも論として魔法軍の作戦に参加できないのですよ。どこぞの時空にいるリ〇・ミ〇メイのように歌の力を戦いの支援に使えるようにならないかしら。」


 それはいつぞや僕が考えていたことに似ていた。


(そう言えば、竜胆さんは歌うことによって声に含まれる支援格をのせた精神エネルギーを増幅できるのだったよね。)

(ザグレドが『ヤックデカルチャー!』とか奇声を発しながら出てきたこともあったっけ。)

(だから、今ほどの竜胆さんの思いつきも出来なくはないんだけれど、実現しようとすると難しいと思う。)

(同感。)


「では、美姫様と樹様が真夏元中尉を追いかけて行かれたところからお話しして頂きたいのですが、樹様、よろしいですか?」

「了解。」


 それから、美姫が時節補足を入れながら、真夏さんを捕らえたところまで話をした。


「素晴らしいです!思っていた通り、美姫様の追補があると、樹様だけから得られる内容と雲泥の差があります。」

「そうですね。樹様の語りからは美姫様の心情など分かりませんから推し量ることしか出来ませんでしたが、それを直接聞かせて頂けるのですから、これ程有難いことはありません。」

「龍野副会長のおっしゃる通りです。今までの無味乾燥な森林君の話とは真逆の興味津々な話であったことは私たち以外の会員にも届けるべきでしょう。なので、次回の会報では美姫様のお言葉を中心にまとめる方向でどうでしょうか?」

「上島副会長の案に賛成です。」

「私もです。しかし、美姫様のお言葉だけでは流れが会員には伝わらないのでは?」

「そこは森林君の話を使って私の方で上手くまとめますので、美姫様の最初の発言から検証していきましょう。・・・」



 その検証が終わってからも延々と美姫を讃えるような3人の会話は続き――――


「もうこんな時間。美姫様の朝食をお作りしないといけないから、お開きにしましょう。」


 朝日が差し込むころになって和香が立ち上がり、


「そうですね。まだまだ語りつくせないけれど、残りはまたの機会にすることにします。」

「それでは私たちはお暇しましょう。」


 花梨さんと竜胆さんも立ち上がった。いつもはこの後、美姫に見つかりお叱りを受けるのがお決まりだったが、もう既に美姫は隣にいる。


「今日は美姫様も最初からおられるので、2人も朝食を一緒に食べていきますか?」

「おぉ、そうですね。これまでは上島副会長と2人で喫茶店で味気ないモーニングを食べていましたが、美姫様と朝食をともに出来るのなら、この上ない喜びです。」

「私も是非お願いしたいです!」

「では、美姫様のお部屋に移動しましょう。」


 いそいそと僕の部屋を出ていこうとする3人だったが、


「これって、このまま私の部屋で朝食を食べる流れ?私は一言も許可してないのに?」

「肯定。」

「ちょっと待ちなさい。」


 美姫にそれを止められた。


「3人とも私が数時間前に言ったことを覚えていないようだから、理解できるまで話してあげるね。」

「「「・・・。」」」

「分かったら返事して。」

「「「はい。。。」」」


 3人とは違い珍しく僕は美姫のお小言を聞かされずに済み、和香が朝食を用意することが出来なかったため、コンビニでパンを買ってきて食べたのだった。

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