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(亜紀様、ちょっと言いすぎじゃない?)
(そうよね。お義母様は恭介さんを煽りすぎよ。)
「それじゃ、美姫ちゃんと樹君、よろしくね。」
「分かりましたが、お義母様、恭介さんを焚き付けるのはおやめ下さい。」
「同意。僕たちだって悪魔の力を持つ恭介さんには簡単には勝てません。」
「貴様らも俺を見下すのか!許さんぞ!」
「あらあら、樹君、あまり火に油を注いじゃダメよ。」
亜紀様は自分のことを棚に上げて、僕を揶揄うように批判する。
「貴様らは俺に勝てると思っているようだが、余裕ぶっこいていられるのも今のうちだけだ!」
グゴーー!
恭介さんが再び魔導砲を放ってきたので、魔導盾を発動して受け流そうとしたところ、
(樹君、まずいですな!)
(グレンさん、それはどういう――――)
グレンさんの警告の意図が分からずにいると、
(やばっ!)
魔導盾と衝突した魔導砲が跳ね返されず魔導盾に沿って回り込んでくる。
(終わりなのか?)
新たに魔導盾を発動する時間もなく、覚悟を決めた時、
パシーッ!
美姫が発動した魔導盾によって魔導砲は方向を変えた。
・・・
(助かった?)
(そのようですな。)
(九死に一生。)
(美姫さんが魔導盾を発動してくれなかったら危険な状況でしたな。)
(禿同。)
(間に合ってよかったよ。)
(こんなこともあろうかと、美姫に魔導盾発動の準備しておいてもらっておって正解ジャった。)
美姫とギレナが声をかけてくる。
(感謝。)
(しかし、魔導砲の性質を変えてくるとは、口先だけでなく少しは頭が回るようですな。)
(はい。恭介さんの放った魔導砲の性質をギレナが看破してくれたおかげで、適切な魔導盾を選択することができました。)
(エレナ様が残された情報に基づいて判断しただけジャ。感謝はワレでなくエレナ様にするが良いのジャ。)
(どういうことですか?)
(樹君は、粘性流体の噴流が近くの壁面に引き寄せられたり、凸形状の壁面に接触すると壁面に沿って流れたりするコアンダ効果を知っていますかな?)
(否定。そもそも説明が難しくて理解できません。。。)
(椀に入った汁物をこぼしてしまったときに、汁が椀に沿って流れ落ちて手にかかってしまったことがありませんかな?)
(肯定。あれってコアンダ効果によるものだったのですか。)
(そうなのですな。他には飛行機の揚力を向上させるのに使われたりもしますな。)
(それで、先程の恭介さんの魔導砲が魔導盾に沿って曲がったのはコアンダ効果によるものだとグレンさんは言いたいのですか?)
(そうですな。普通の魔導力は粘性を持ちませんが、複雑な命令規則によって他の魔導力と衝突した際に粘性流体に似た性質を発現させることが可能なのですな。)
(初耳。)
(滅多に使われませんからな。というのも、複雑な命令規則を使うのであれば粘性流体に似た性質をを持たせるのではなく威力を上げるために使いたい、と考える”大砲系”魔法使いが大半ですからな。 )
(納得。)
(しかし、最小限の魔導盾で最大限の効果を発揮させようと考える”楯系”魔法使いと相対するときには有効な手段となり得ますな。)
(賛同。それで僕もやられかけましたから。)
(恭介は樹君が魔導盾で魔導砲を防いでいるのを一度見ておりますから、その時にこの方法を思い付いたのでしょうな。)
(恭介さんも色々考えて魔法を使っているのですね。)
(力に劣る弱者は頭を使って強者に勝たねばなりませんからな。)
(恭介さんも市原家の魔法使いだから、普段から弱者の戦法を考えていたのかもしれないね。)
(その恭介さんの魔導砲に美姫はどうやって対処したのか教えてくれない?)
(いいよ。といっても、ギレナの受け売りだけれど。)
(宜しく。)
(コアンダ効果って、噴流が粘性の効果によって周りの流体を引き込むことによって起きるのだから、同じ凸形状でも、面が丸ければ曲面に沿って流れるけれど、角ばっていたら剥離して曲がってこないの。だから、ギレナの指示で角ばった魔導盾を発動させたのよ。)
(樹は効率を最大限に上げるために、魔導盾を曲面にして強度を稼いでいるジャろう。それを逆手にとられたのジャ。)
(成程。してやられた。)
(これからも同じようなことがあるでしょうから、私たちはもっと魔法について学ばなければいけませんね。)
(そうですな。相手が放つ魔法について知っておらねば対処できませんからな。)
(ワレからもエレナ様にそのことを言付けしておくのジャ。)
(勘弁。そんなことをしたらエレナ様は悪知恵を働かせて嫌がらせのような鍛錬を強要してくるので、マジ止めて下さい。)
(ふふふ。でも、その方が対処力が上がっていいかもしれないよ。)
(それから、樹君は魔導盾の効率化についは既に免許皆伝状態ですから、これを機に魔導力を減衰させる等、魔導盾の機能化にも取り組んでもらいましょうかな。)
(了解。)
(その時には私にも教えて下さい。)
(勿論ですな。)
今日のことを良い教訓として、僕も精進に励むことにしよう。




