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(・・・ということで、黒龍会の本拠地に乗り込むことになりました。)
部屋に戻ると、ザグレド(猫)の中にいたグレンさんに先程までの会談の内容を話した。
(予想されたとおりの展開ですな。)
(なので、黒龍会の融合者と戦いに備えて、融合者であるグレンさんから助言を貰えませんか?)
(そうですな、、、美姫さんと樹君であれば融合者に対しても後れを取らないと思いますが、融合した悪魔の能力については注意が必要ですな。)
(了解。やはり隘路はそこですか。)
(悪魔の能力は厄介ですからな。ザグレドのように結界を張るだけの能力であれば問題ないのですがな。)
(うっせー。オレの能力は戦闘には不向きな支援用なんだよ。)
ザグレドが出てきて即座に反論する。
(負け惜しみ。)
(ワシもザグレドを貶している訳ではない。日光に潜伏していたころはザグレドの結界を有効活用させてもらっていたしな。)
(黒龍会の融合者とやらが持つ悪魔の能力も、ザグレドのように支援用じゃったら楽できるのじゃがのう。)
(それはないでしょうね。)
(そうじゃろうのう。例え支援用じゃったとしても、もう少し戦闘にも活用できるような能力じゃろうからのう。)
エレナ様と美姫も会話に参加してきた。
(エレナ様まで、、、)
(創造神様は天界を平和な楽園にしようとされておられたからのう。ザグレドのように竜族のほとんどは支援用の能力をもって生まれてくるのじゃ。)
(そうだったのですか。知りませんでした。)
(いや、ザグレドは知っておけよ。)
ザグレドのあまりの無知さに、本当に元竜族なのか疑わしくなってくる。
(では、魔族に攻撃用の能力が多いのは何故でしょうか?)
(魔族は竜族から変容する際に、竜族の精神エネルギーを奪うために能力も攻撃に向いたものに改変されることが多いようなのじゃ。)
(エレナ様が以前話して下さったように『固有設定値の種類を柔軟に変更できる仕組みが仇となった』のですね。)
(そうじゃ。じゃから、魔族との戦闘に赴く竜族には固有設定値の種類を変更して能力を攻撃用に変えたり、”装備”という形で新しい力を竜族に与えたりしたのじゃ。)
(であれば、オレの能力も攻撃用に変えて頂けないでしょうか?)
(ザグレドはグレンと融合してしまったからのう。それは出来ん相談じゃし、同じ理由で新しい能力も与えてやれんのじゃ。)
(そうですか、、、無念。)
(それは悪魔と融合した融合者にも言えるのでしょうか?)
(そうじゃ。魔族は倒した竜族や他の魔族が持つ能力値の一部を奪えるが、人間と融合してしまえばそれも出来なくなるじゃろう。)
(それは今後のことを考えると安心材料ではありますね。)
(それでも、圭一らが開発した誂え物の超越種魔獣薬によって融合者が増えると世界中に混乱が広がるでしょうな。)
(同感。誂え物の超越種魔獣薬を作るのに半年程度と長い調整期間がかかるのは、せめてもの救いですね。)
(人体は複雑な構造をしておりますからな。安全性を確保するためにそのくらいの調整期間がかかるのも無理ないでしょうな。それから、調整期間は適合率と違って改善することは難しいでしょうな。)
(その超越種魔獣薬に対する適合率も、誂え物を使ったとしても4割に満たないのも救いではありますね。)
(人間の精神は肉体に宿るからのう。人間の細胞に魔獣の細胞を模擬させ、それによって精神エネルギーの塊である魂の形を変容させる、という2つ段階を必要としたのじゃろう。しかし、それではそれぞれの段階で拒絶反応が出て適合率が下がってしまうのは当然じゃ。)
(細胞の模擬段階と魂の変容段階のそれぞれの段階の適合率を徐々に引き上げ、6割にまで到達することに成功したようですが、掛け算で効いてくるので全体とすると4割に満たないですから。)
(美姫のお父さんは、その適合率4割の賭けに勝ったのか。)
(そのようね。超越種魔獣薬を使うことによる副作用もあるだろうから、先に使用した人の状態を見極めて使用したのだろうけれど。)
(ともあれ、まずは美姫さんと樹君が対しなければならない融合者への対策を考えないといけませんな。)
(そうじゃのう。それについてはワレに――――)
そうエレナ様が言いかけた時、
(エレナ様、お仕事の時間です。)
シィルさんがエレナ様を呼びに現れた。
(シィルか。お主はいつも、これから、という時に来よるのう。)
(私にはその様なつもりは毛頭ありません。さぁ、戻りますよ。)
(嫌じゃ。天界に戻りとうないのじゃ。)
(エレナ様のお気持ちは聞いていません。)
シィルさんはエレナ様を美姫から引き剥がしにかかったようだ。
(ちょ、待つのじゃ。)
(駄目です。エレナ様がいない間の様子はギレナが録画しておいてくれるのですから、後でそれを御覧になられればいいだけのことではないでしょうか。)
(録画では面白さが半減するのじゃ。やはり、生で観戦しなければ臨場感がでないのじゃ。)
(だから何ですか?エレナ様の趣味よりお仕事の方が大事です。)
(ワレの楽しみを取り上げようとするとは、シィルは鬼じゃ。魔族じゃ。アンポンタンじゃ。)
(そんなことを言うのはこの口ですか?)
(い、痛いのじゃ。)
それを聞いて、シィルさんが青筋をたてつつ笑顔でエレナ様の頬を引っ張っている図が頭に浮かぶ。
(精神エネルギーに触れずに痛みを感じさせるなど、シィルは卑怯なのじゃ。)
(何とでも仰って下さい。これでもまだ戻りたくないと仰いますか?)
(戻る。戻るから、その手を放してほしいのじゃ。)
(分かりました。最初から素直にして下されば、私もこのようなことを済むのです。)
エレナ様もとうとう観念したようだ。
(それでは、ギレナ。エレナ様がおられない間のことを頼みますよ。)
(承知しましたのジャ。)
(ワレは絶対に戻ってくるのじゃ。)
どこかで聞いたことのあるような台詞を残して、エレナ様はギレナと入れ替わってシィルさんと天界に戻っていったのだった。




