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年が明けて僕たちも2年生になり、講義を受けるために大学に行くと構内は学生で溢れていた。
「おぉ!凄い人の数だ。」
「これは最初だけで、すぐに講義を受けに来る学生は減るのよね。」
「同感。その理由を『大学生は遊ぶのが性分』と言っていた人もいたけど、実際には映電で講義を受ける学生が増えるからだったんだ。」
「そうね。大学生は社会人になるまでの猶予期間、なんて昔に言われたこともあるけれど、今は卒業要件が厳しくなってるから、私たちの周りに遊んでいる人はあまりいなかったと思う。」
建物の中に入っても、人の多さは変わらない。
「でも、出席が必須の講義以外は映電で講義を受ける方が楽だから、学生が大学に来なくなるのは分かる気がする。つまらない講義なんかは特に。」
「研究が忙しくて明らかに準備不足でやる気なさそうな先生の講義を私もつまらなく感じたよ。」
「そんな先生は単位を簡単にくれるから、逆に狙い目ではあるけど。」
「樹はそういう情報を仕入れて、後期は狙って受けていたよね。」
「佐野が『お前たちは魔法軍の仕事もあって大変だろうから』って教えてくれたんだ。美姫もなんだかんだ言って、そのお相伴に預かってたし。」
「ふふふ。佐野君は要領よく単位を稼いでいるのは印象どおりね。」
「魔法軍では僕たちも昇進して鍛錬以外の仕事も入るようになったから、4年生を飛び級して大学院に進むためには効率的に単位を取らないと。佐野によると、次の講義も出席は必須だけど単位が取りやすくて人気なんだそうだ。」
教室に入ると既に結構な人で埋まっているところからして、佐野の話は本当のようだ。
「もう前の方の席しか空いていないね。」
「やる気のない学生ほど後ろの席に座るから。佐野と中田も後ろにいるし。」
「ヒロポンは、、、いないみたい。適当にあそこに座りましょう。」
「了解。」
空いている席に座ると、先生が入ってくるまで皆が興じている雑談が耳に入ってくる。
「研究室配属について話している人が多いっぽい。」
「2年生になると研究室に仮配属になって、今日はその研究室に行く初めての日だからかな。樹は魔工研(魔法工学研究室)にしたのよね?」
「肯定。永利先生が放してくれるとは思えないし、実験室を利用させてもらいたいから。美姫は魔物研(魔法物理研究室)だっけ?」
「うん。魔力結合理論の完成させるのが目標。」
「だったら、研究室も隣だから、上手くいけば共同研究が出来るかも。」
「そうね。これからもよろしく。」
「こちらこそ。」
午前の講義が終わり、午後になってそれぞれの研究室に向かう。
「それじゃね。」
美姫と別れて魔工研の研究室の中に入ると、
『魔法工学研究室へようこそ』
と書かれた横断幕が張られており、
「樹君、よく来てくれたわ。」
パンッ!
永利先生が待ってましたとばかりにクラッカーを鳴らした。
「・・・あの横断幕は何ですか?それにクラッカーまで用意して、、、」
「樹君を歓迎する気持ちを現そう、と思ったんだけれど、駄目だった?」
「否定。そうして下さったのはうれしいのですが、そこまでしなくても良くないですか?」
「だって、哲也は博士課程へ進まず卒業してしまったし、来てくれるのは樹君だけだろうし、樹君が魔工研へ配属を決めてくれなかったら、学生がいなくなって研究室が無くなってしまうのよ。そうなったら、私も次の仕事を探さないといけなくなるし、そんな面倒なことはしたくないのよね。」
(結局、自分のためか、、、)
(人間とは元来利己的な生き物なのですな。)
グレンさんはエレナ様と銃型補助具の改良をしようと、僕についてきたのだ。
「それに、樹君が魔法軍から借りてきてくれる補助具が魅力的なのよ。それを解析できたおかげで、新たな法則は見つけられなかったものの、論文を1本書けたから樹君には感謝しているの。だから、これからもお願い。」
「了解。今日も新しい銃型補助具の試作品を借りてきていますが、どうしますか?」
「本当に!?解析してもいいのね?」
「肯定。開発部の人達も『永利先生の第三者目線での解析結果が役に立つ』って言ってましたし。」
「ありがとう!早速だけれど、今から実験室に行きましょう!」
永利先生は即座に僕の腕をとって、一緒に実験室に連れて行こうとする。
(なんて自分の欲望に忠実な人なんだ。。。)
(彼女は典型的な研究者ですから、研究のことで頭の大半が占められていて、研究以外はどうでもよいのでしょうな。)
(前から少し懸念していましたが、僕は永利先生と上手くやっていけるか心配になってきました。。。)
(大丈夫ですな。研究材料さえ与えておけば、こちらから干渉しない限り放っておいてくれそうですからな。)
(成程。開発部の人達のように、必要な時に知識が豊富な永利先生を上手く使えば良いのですね。)
(そうですな。)
「永利先生、分かりましたから、腕を放して下さい。ここは研究室の中だからいいですが、これが外だったら僕たちの関係を怪しまれますよ。」
「そ、そうね。」
慌てて僕から離れる永利先生。
「そういう意味では歓迎会も無しの方がいいわよね?」
「肯定。永利先生と僕の2人きりだけだと、ママ活と思われかねませんから。」
「・・・樹君がそう言うなら残念だけれど歓迎会は無しにしましょう。」
そう言う永利先生の表情には喜色が含まれているように感じられる。
「全然残念そうでないのですが?」
「私はあまりそういう会合は好きではないの。そんな暇があったら研究をしていたいのよね。樹君も同じじゃない?」
「肯定。」
「良かった。私たちは馬が合いそうね。ふふふ。」
永利先生は嬉しそうにまたしても腕を組んできた。




