02
「・・・精霊の祝福を受けられたとは、美姫様はどこまで高みに登っていかれるのでしょうか、、、」
「このままいけば、冗談ではなく、本当に美姫様が世界を支配なさることも可能なんかもしれませんね。」
「そうですよ。人間のみならず精霊にも認められるなんて、至上最高の存在である美姫様以外に世界を愛で満たして平和にできる者はいるでしょうか?いえ、いません。」
僕の話を聞いて口々に美姫を称賛する3人。
「しかし、珠莉様まで精霊の祝福を受けられたとは思いもしませんでした。キャサリン少佐が美姫様に会いに来られた時に急遽、私の代わりに珠莉様がパースに行かれることに決まったのは、そのためだったのですね。」
「正解。」
「これで精霊魔法が使える魔法使いが東京魔法軍に2人も誕生したわけだけれど、美姫様はともかく、珠莉さんも魔法軍では大事に扱われるでしょう。」
「それに引き換え、そこら辺に転がっていそうな普通の森林君は精霊の祝福を受けられなくて残念だったわね。ぷぷぷ。」
僕のことを馬鹿にしたように笑う竜胆さんだったが、
「美姫様も珠莉様も樹様を慕っておられるため、樹様はそのことを利用して御二人を操ることも出来るのですから、樹様は影の支配者型なのかもしれません。」
「そういう意味では、樹君は、大昔にとある帝国の王家に連なる女性たちを手玉にとったデカい坊さんみたいな感じなのかしら。」
「確かに、平々凡々で無害な雰囲気を醸し出している森林君は意外にもそっち方面は優秀なのかもしれないわね。もしかして、いつしか私も森林君に手籠めにされてしまうの?えっ、そうなの?」
和香や花梨さんの言葉を聞き、竜胆さんは僕のある一部を見つめて変な妄想をし始めた。
「否定。」
「即座に否定するとか、どうしてよ!?体型も維持できているし、そんなに悪くないと思うんだけれど?それに、森林君は上尾愛のファンなんでしょ?」
「肯定。でも、僕は上尾愛の中身が竜ちゃんだと知――――」
「竜ちゃんって言うな!」
竜胆さんは怒りだすが、
「上島副会長のことは脇においておいて、今日は皆に報告しなければならないことがあります。」
和香はそれを意に介さず話題を変えた。
「遂に、パースにミセシメ会の正式な支部を置くことが決定しました。はい、拍手。」
パチパチパチパチパチパチ
僕を除く3人が拍手をする。
「目出度いですね。」
「パースは今まで仮支部でしたから。正式な支部が発足したということは、支部長が決まったのですね。」
「えぇ。美姫様のパースでの活躍を目の当たりにされたキャサリン様が、潮流に乗り遅れまいと決断して下さったようです。」
「・・・。」
「樹様、どうされましたか?」
「ジョージさんの時と同じだな、と思って。キャサリン少佐も、どうしてこんなうさん臭い会の支部長なんか引き受けたのか、、、」
僕のふとした疑問に、
「うさん臭いとは何事ですか。ミセシメ会は、非公式ではありますが、歴とした美姫様の同友会なのです。怪しくとも何ともありません。」
「そうよ。樹君もミセシメ会の特別顧問なのだから、悪く言うのは良くないわ。」
「脳ミソが目玉よりも小さいダチョウのように、森林君は現実逃避で地面に顔を埋めて見たくない物を見ないでいるだけ。しかも途中で何をしていたのか忘れてしまうくらい脳が小さくて深く考えられていないわ。」
反論の嵐で3人は答えた。
その後も3人は一晩中、ミセシメ会の存在意義やパースでの美姫の行動について語り続け――――
「もうこんな時間。美姫様の朝食をお作りしないといけないから、お開きにしましょう。」
朝日が差し込むころになって和香が立ち上がり、
「そうですね。まだまだ語りつくせないけれど、残りはまたの機会にすることにします。」
「それでは私たちはお暇しましょう。」
花梨さんと竜胆さんも立ち上がった。
「待って下さい。まずは僕が外を確認します。」
玄関の扉を開けて美姫の部屋がある方向を見るが誰もいない。
「今なら大丈夫です。さっさと帰って下さい。」
「何が大丈夫なのかな?」
声がする方向を見ると、コンビニの袋を下げていることから建物の玄関口から来たであろう美姫が立っていた。
「・・・美姫、おはよう。こんな朝早くからコンビニに買い物?」
「うん。樹の部屋にお客さんが来ているみたいだから、飲み物でも差し入れようと思って。」
美姫がコンビニの袋の中を見せる。
「それは有難いことなのですが、魔法軍での書類仕事が溜まっており、早急に片づけてしまわないといけないことを思い出しましたので、小官は失礼致します。」
「私も1限にある講義の準備をしないといけないのだったわ。」
花梨さんと竜胆さんは逃げるように帰ろうとしたが、
「それって嘘よね。2人の分も飲み物を買ってあるから、一緒に飲みましょう。」
「「・・・はい。」」
笑顔の美姫に撃沈して僕の部屋に戻ってきた。
(それにしても、どうして僕の部屋に3人がいることが美姫に露見したのだろう?)
と、疑問に思いながら美姫に背中を押されて僕も部屋に戻ったのだが、
「ザグレド、朝ご飯よ。今日はお礼に高級猫缶を買ってきてあげたよ。」
「ニャー。」
皿に入れられた猫缶の中身を嬉しそうに食べるザグレド(猫)を見て犯人が分かった。
(美姫に密告したのはザグレドだな?)
(そうニャ。樹の部屋に女性が来たら報告するよう美姫から言われていたニャ。)
(普段世話をしている僕を裏切るのか?)
(長い物に巻かれているだけニャ。美姫を怒らせると怖いし、従っていればこうやって高級猫缶を買ってきてくれるニャ。)
ザグレド(猫)の内通によって、僕たちがそれから延々と美姫からお小言を聞かされ続けたのは言うまでもない。




