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「父は黒龍会の幹部になって、何をしたのでしょうか?」
「ここからは、俺も又聞きになるから正確性は欠けるが、シュバルツドラッヘンから超越種魔獣薬の開発に携わった科学者を招き、適合率を上げられるよう投与者に合わせた誂え物の超越種魔獣薬の共同開発を依頼したようだ。」
「シュバルツドラッヘンに依頼した方もした方ですが、その科学者もよく東京に来る気になりましたね。」
「その科学者が提示した共同開発に関する条件を龍野教授が全て飲んだことで、来京を快諾したらしい。」
「条件を全て飲むなんて、父も思い切ったことをしましたね。」
「あぁ。龍野教授側にも利はあったからな。治験者として魔法軍から何人もの魔法使いを洗脳して黒龍会に取り込んだのだが、その内の数人が超越種魔獣薬に適合し、融合した悪魔の圧倒的な力によって黒龍会は龍野教授一派に乗っ取られてしまったのだから。」
「そうだったのですか。父ならそこまで見越していたのかもしれません。」
「それからというもの、黒龍会は龍野教授の指示によって動くようになり、誂え物の超越種魔獣薬の開発資金を調達するために表立った活動も多くなって世間にも知られるようになった。それとともに表社会との繋がりも強くなり、魔法使い御三家から裏仕事の依頼が来るまでになったのだ。」
「それが、私たちが実習で襲われたことにつながるのですね。」
「そうだ。あの時は、あわよくば悪魔と融合した魔獣を奪おうと研究所の外に出すよう工作したようだが、結局、魔獣の行方が分からなくなって回収はできなかったようだ。」
(当時は、ワンちゃんを研究施設の外に出すなんて大胆なことをする、と思っていたけれど、黒龍会の手引きだったなんてね。)
(同感。バイローは僕たちが回収して、今は亜紀様のお屋敷にいることも露見していないようだから、良かった。)
「黒龍会は『通常の組織であれば必ず僅かなりとも洩れる情報がなくて組織構成が全くつかめない』とお義母様から聞きましたが、表社会との繋がりが強くなったのに龍野家の情報収集部隊に補足されないなんてことは不可能だと思うのですが?」
「いくつか理由はあるが、龍野教授が黒龍会を乗っ取るまでは表立った活動は控えていたし、構成員に渡される情報も中枢には繋がらないようにされていた。龍野教授が黒龍会を乗っ取った後は、麻由美元大将閣下と融合した悪魔の能力によって真の情報が漏れるのを防いでいたことが大きいだろう。あの悪魔の真の能力は”人間の心の支配”なのだから。」
「そうだったのですか。そんな悪魔の能力を持った魔法軍司令長官が黒龍会側に立っているのであれば、情報が漏れてこないのも当然ですね。」
「それに、龍野教授は龍野家の人間なのだから、龍野家の情報収集部隊に大量の偽の情報を流して真の情報をその中に隠したりして自分たちのことを補足されないようにすることも可能だっただろう。だから、亜紀様も黒龍会の真の支配構造が分からず、その様なことを仰られたのだと推測する。」
「しかし、融合に必要な悪魔を黒龍会は何処から調達していたのでしょうか?私たちの実習の時のように政府が管理している魔獣や融合者を奪おうとしたのでしょうか?」
「いや、あの時は好条件が重なっただけだ。2人は『大戦時や大戦後に魔法使いに打ち取られたと思われていた悪魔や、いなくなったと思われていた悪魔のうち、少なくない数の悪魔が人間と融合するなどして消滅せずに生き残っている』ことを知っているか?」
「はい。もしかして――――」
「そうだ。まだ政府に見つかっていない融合者を騙して黒龍会に勧誘し、その融合者から引き離した悪魔を利用したとしても気が付かれることはない。」
「融合者であれば他の融合者を見つけることは可能だと思いますが、政府が探しても見つからないような融合者を黒龍会が先に見つけられるものでしょうか?」
「そこは麻由美元大将閣下から融合者の発見情報が黒龍会にもたらされ、国防軍に先んじて融合者を確保していたのだ。そして、発見が誤情報だったと国防軍内で処理されるから問題にはならない、という訳だ。」
「上手く考えられていますね。」
「それだけ龍野教授に先見の明があった、ということだろう。」
(麻由美さんが『上級魔法使い候補になった時に魔法使いとしての現役引退を宣言して、指揮官の道を進みだした』のは、このためだったのかもしれないね。)
(同感。そうだとすると、壮大な計画だ。)
(そこまでして圭一は麻紀を生き返らせたかったとは、狂気の沙汰じゃのう。)
(そうでなければ、こんなことは出来ないと思われますな。)
「最後に、ココさんたちと接触した花子さんとは何者ですか?」
「黒龍会における俺に残された数少ない部下の1人だ。花子という名前は勿論偽名だし、顔も偽顔で変えてあるから捕捉されることはない。美姫大尉が精霊の祝福を受けるのであればマックフィールド一族の誰が内紛を起こすと考え、その場合は美姫大尉の狙撃に利用するため、部下を先行してパースに渡航させておいたのだ。」
「それでは、空港で話しかけてきた時には、私たちが精霊の祝福を受けることを知っておられたのですか?」
「いや、あの時に確信に変わった。美姫大尉には上手く躱されたが、樹中尉の表情が真実であることを物語っていたからな。樹中尉はもう少しポーカーフェイスを学ぶべきだ。」
「了解。。。」
「さて、このくらいでいいだろう。2人はもう行くがいい。」
これで僕たちが聞きたいことは全部話したと思ったのだろう、豊中佐は僕たちにこの場を去るよう促した。
「止めは必要ですか?」
「俺を楽にさせてくれるというのか。美姫大尉は優しいな。だが、不要だ。」
「了解です。」
「では、さらばだ。」
「「ありがとうございました!」」
美姫と僕は豊中佐に敬礼をして、ホテルの裏口から外に出た。




