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翌日の朝早く、僕たちはレダさんともに、美姫と珠莉が精霊の祝福を受ける場所へ車で向かった。
「今日はレダ中佐が護衛をして下さるのですね。」
「キャサリンは儀式の準備をしているからな。護衛が私では不安か?」
「いえ、そんなことはありません。」
「冗談だ。精霊魔法ではキャサリンに劣るが普通の魔法の扱いは私の方が上だから、3人を守ることくらいは出来る。もっとも、美姫であれば反対派など一蹴できそうだが。」
「レダ中佐は私を過大評価しすぎです。」
「そうか?私はそうは思わないが。しかし、私がいれば抑止力になるだろうから、余計な被害が出なくて済む。」
(レダ中佐の言う被害は、反対派の被害よね?)
(多分。僕たちが負けるとはこれっぽっちも思ってなさそうだし。)
(レダ中佐は反対派の人たちのことも気にかけているのですね。)
「反対派は『儀式を妨害をしようと企んでいる』とキャサリン少佐から聞きましたが、道中で襲撃はあるでしょうか?」
「奴らも馬鹿ではないから私も乗っている車に攻撃を行うようなことはしないだろう。だが、何かしらの行動は起こしてくるはずだ。」
「であれば、足止めでしょうか?」
「そんなところだろうな。そう言っているうちにお出ましになったようだ。」
前方を見ると道が封鎖されており、その前で車を止めると警備をしていた警官の1人が近づいてくる。
「東京魔法軍の方々が来られていますので、昨日よりこの先は通行止めとなっております。」
「パース魔法軍魔導騎士隊部隊長のレダ中佐だ。私はその様な話は聞いていないぞ。」
「そう申されましても、私共はここを封鎖するよう言われておりまして、、、」
「昨日から通行止め、と言っていたが、今朝、ここをキャサリン少佐が通ったはずだが?」
「いえ、本日は1台もここを通過した車はありません。」
「嘘だな。貴様、嘘をつくときに鼻孔が広がることに気が付いていないのか?」
「えっ!?」
警官は慌てて鼻を手で覆う。
「嘘だ。しかし、その仕草をするということは、嘘をついたことを認めるのだな?」
「そんなことは、、、」
「どうせ貴様たちは弱みを握られて汚れ仕事をさせられているのだろう?これから強行突破をするから、他の者にも『怪我をしたくなかったら離れている』よう言っておけ。」
レダさんの言葉に警官は僅かに悩んだが、同僚のもとに向かい何やら説明して離れていった。
「樹、車の前に魔導盾の展開を頼む。」
「了解。」
魔導盾を発動させると、レダさんはアクセルを踏み込んで封鎖を突破した。
「やっぱり、足止めしてきましたね。」
「あぁ。そのせいで時間を食ってしまったから速度を上げて急がねば、と私が思うだろう、と反対派の連中は考えたのだろうな。」
「どういうことですか?」
「あれだ。」
レダさんの指し示す道の先が光っているように見える。
「なんでしょうか?」
「油か何かを撒いてあるのだろう。速度を上げてそこを通過すると滑って路肩の木か岩に激突する、というわけだ。」
「道路の封鎖はあくまでこのための布石だったのですね。」
「そうだろう。反対派の連中はあの程度で私たちの足止めはできないことは分かっているはずだから。」
「姑息なことを考えますね。」
「そうだな。ここからは慎重に行かねばならなくなったのだから、有効な手ではあることは確かだ。」
しかし、それからは妨害もなく、パースから北に向かってしばらくして車は林の中に入っていき、少し開けた場所にある小屋の前でレダさんは車を止めた。
「ここですか?」
「あぁ。この先に洞窟があって、儀式はその中で行う。」
「ここに洞窟があるんですか?」
小屋の前に数台の車が止まっているのが見えるだけで、辺りには何もない。
「洞窟は地下にある。ついてきてくれ。」
レダさんに付いて行くと縦穴があり、石を積み上げて造られた狭い壁と地下へと続く階段が姿を現した。
「これが入り口ですか?」
「そうだ。古めかしい感じがするのは、20世紀初頭に造られたままだからからだ。」
「ゲームとかで出てくる地下遺跡へ続く階段みたいだ。」
「雰囲気のある入り口で、ワクワクしますね。」
「私は地下遺跡はもうお腹いっぱいかな。」
「禿同。もう、蠍の魔物にも食屍鬼にも遭遇したくない。。。」
美姫の発言からエリドゥ遺跡のことを思い出して少しゲンナリした。
「さぁ、行こう。入り口付近は暗いから注意してくれ。」
「はい。」
レダさんに続いて階段を降りると一瞬暗闇に包まれるが、直ぐに目が慣れて洞窟内が見えるようになる。
「洞窟の中はひんやりしてますね。」
「横に平べったい感じがして、洞窟というより地下にある隙間って感じがするけど。」
「そうね。鍾乳石が天井からぶら下がっているのは洞窟感があるけれど、ちょっと狭いよね。」
「直ぐに広くなる。」
レダさんの言うとおり、少し歩くと開けた場所に出た。
「ゲームに出てきそうな場所だ。」
「あの水溜まりからボスがザバーッって出てくるんですよね。」
「肯定。珠莉は良く分かっている。」
「もう、珠莉は樹の話につき合わなくてもいいのよ。」
「私もゲームをするのが好きですから、別に樹様に合わせているわけではないので大丈夫です。」
「そう。」
珠莉の返しに美姫は少しムスッとした感じになった。




