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竜の女王  作者: M.D
2173年秋
594/688

13

 ホテルに着くとキャサリンさんは玄関広間で待っており、そこで指示された部屋に荷物を置いた僕たちは向かった。


「疲れているところ申し訳ないわね。お詫びと言ってはなんだけれど、甘い物を用意したから自由に食べて頂戴。」


 机の上にはチョコレート菓子やケーキが並んでいる。


「ありがとうございます。TimTamも用意して下さったのですね。パースに来たら絶対に食べようと思っていたので、嬉しいです。」

「こっちの蜂蜜ケーキも美味しいわよ。」


 キャサリンさんに促されて、珠莉は蜂蜜ケーキを口にした。


「甘くて美味しいです!このケーキに使われている蜂蜜はジャラハニーですか?」

「えぇ、そうよ。良く分かったわね。」

「普段食べている蜂蜜の味とは全然違ったので、そうではないかと思ったんです。」

「ジャラハニーは西オーストラリア固有のユーカリ種であるジャラの木の花の蜜を蜂が集めた蜂蜜だから、独特の味がするわ。それから、ジャラの木は2年に1度しか花を咲かせないから、ジャラハニーは希少なのよ。」

「そうだったのですね。パースに行ったら買ってきてほしい、と言われていたので、お土産として買って帰ります。」

「だったら、蜂蜜は加熱すると栄養分が失われてしまうから、家で食べる時にはこのケーキみたいに非加熱の蜂蜜を染み込ませて使うか、匙で掬って直接食べるのがお勧めよ。」

「はい。そうします。」


 珠莉はキャサリンさんと話しながら、ケーキをパクパク食べていたのだが、


「夜も遅いから少しにしておかないと太るよ。」

「はい、、、」


 美姫に諭されて、名残惜しそうに最後の一口を味わっているようだった。



「ここに来てもらった理由を説明するわね。」

「はい、お願いします。」


 キャサリンさんは表情を改めて話し始める。


「結論から言うと、美姫と珠莉が妖精石ダーナから精霊の祝福を受ける儀式の実施は承認されたのだけれど、それに反対する家系もあって、儀式を妨害をしようと企んでいるようなの。だから、反対派が2人に危害を加える可能性に対して注意喚起をしたくて、この場を設けさせてもらったのよ。」

「そのようなことになっていたのですか。」

「えぇ。それもあって、2人がパースにいる間は此方かレダが側に付いているようにするつもりだけれど、常時一緒にいられるわけでもないから、その時は出来ればホテルの部屋にいてほしいのよ。パース魔法軍にはホテルの警備を増強するようお願いしてあるから、反対派もホテルに踏み込むなんて愚はおかなさいでしょうし。」

「分かりました。そこまでして頂いて、ありがとうございます。」

「いいのよ。こちら側の都合で迷惑をかけるのだから。」


「しかし、珠莉が危惧していたような精霊の祝福を受けた者を一族に加えようとするのではなく、反対派は私たちに精霊の祝福の儀式自体を受けさせないようにしようとしているのですね。」

「そこは此方たちの読みが甘かった、と素直に認めざるを得ないわ。妖精石ダーナに認められる者がいなくなってもいい、と考えているなんて思いもしなかったから。」

「死なば諸共の精神なのかもしれません。」

「そうね。近年、精霊に愛される者を全く輩出できていない家系なのに、マックフィールド一族というだけで優遇を受けてきたから、それを他の者に取られるのが許せないのでしょう。困ったものだわ。はぁ、、、」


 キャサリンさんは溜息をつく。


「一度手にした利益を手放したくない気持ちは分からなくはない気がする。」

「それに、自分だけが損をするより全員が損をした方が、まだ気持ち的に楽なことも理解できます。」

「比較論よね。人間って、他人が得をするより自分が損をする方がずっと苦痛に感じるらしいし。」

「同意。しかも、それが自分の努力では如何ともしがたいものだったら尚更だ。」

「そうなったら諦めて別の道に進んでもいいような気もします。」

「利益が大きすぎて諦められない人もいるのよ。私たちが精霊の祝福を受けることに反対するマックフィールド一族の人たちもそうなのでしょうね。」


「だからと言って、美姫と珠莉に危害を加えていいことにはならないわ。」


 僕たちの話を聞いて、キャサリンさんは思い出したように憤った。


「それには注意をするとして、精霊の祝福をどのように授かるのかと思っていたのですが、そのための儀式があるのですね。」

「えぇ。儀式といっても、特別なルビーを持って妖精石ダーナに祈りを捧げるだけね。妖精石ダーナから精霊の祝福を受けると、光が降ってくるような現象が起きて、その特別なルビーが精霊石に変わって精霊魔法を使えるようになるの。」

「精霊石は元がルビーだから赤いのですか?」

「それは分からないわ。精霊石は私たちから常に吸っている魔力が途切れると使い手がいなくなったと判断し、精霊石としての機能を停止してルビーとそっくりの宝石になるのだけれど、それがルビーなのかどうか壊して検査することもできないから。」

「そうだったのですね。」

「妖精石ダーナも精霊石と同じ姿形をした涙型の赤い宝石なのだけれど、こちらはルビーの美しさに魅入られた妖精がルビーと融合をして妖精石になった、と伝えられているわ。」


(エレナ様、妖精石は元はルビーだったのでしょうか?)

(どうなのじゃろうのう。実験に使った宝石はイアフが試行錯誤をして造ったものじゃから、ワレは委細を承知しておらんのじゃ。)

(それって、上役としてどうなんでしょう?)

(エレナ様は八竜王としてしなければならないことも多かったでしょうから、実験の全ての工程に関わることは出来なくても無理ないですな。)

(グレンの言うとおり、ワレは忙しい故、細かい事に構っておられんのじゃ。)

(・・・そういうことにしておきます。)


「マックフィールド一族ではない私が、その特別なルビーをもらっても良いものなのでしょうか?」


 儀式にルビーを使うことを知った珠莉が申し訳なさそうに言う。


「大丈夫よ。マックフィールド一族は使い手のいなくなった精霊石としてルビーを管理をしているだけで、所有権は精霊に愛されている者にある、とされているの。だから、珠莉が遠慮する必要はないわ。」

「分かりました。」

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