08
「パース魔法軍のキャサリン少佐がいらしていたのね。」
キャサリンさんが出て行った後、亜紀様が入れ替わりでお屋敷に戻ってきた。
「はい。私と直接話をしたかった、とかで。」
「交流会に関してかしら?自ら敵情視察とはキャサリン少佐も大胆ね。」
亜紀様は呆れた様子だ。
「それで、キャサリン少佐から聞いたのですが、私も交流会に参加することになるのでしょうか?」
「美姫ちゃんにはまだ連絡がないのね。私のところに魔法軍から美姫ちゃんと樹君の交流会参加要請が来ていたから許可したのだけれど、もしかして参加したくなかったりするのかしら?」
「いえ、そういう訳ではないのです。」
「そう。美姫ちゃんと樹君は今年に入ってから2回も海外に行っているから、もう嫌になったのかと思ったけれど、そうじゃないのね?」
「はい。でも、こう頻繁に海外に行くことになると『魔法使いには海外渡航に制限がかけられている』というのが嘘のように思えてきます。」
「ふふふ。あれは自国の魔法使いが他国に捕らえられたり取り込まれたりするのを防ぐためにあるのよ。美姫ちゃんと樹君にはその心配がないから、海外渡航制限はないに等しいわね。」
「そうだったのですか。」
(亜紀様はサラッと僕も交流会に参加するようなことを言わなかった?)
(言ったよ。樹も私と一緒にパースに行けるから嬉しいでしょ?)
(・・・肯定。)
「珠莉ちゃんの検査結果はどうだったのかしら?」
何となく帰りそびれていた珠莉を見て、亜紀様が問いかけた。
「極軽度の過剰魔力症で、特に異常はないそうです。」
「そう。良かったわね。」
「はい。”楯系”魔法使いの私に亜紀様が検査の許可を出して下さったおかけです。感謝致します。」
「いいのよ。珠莉ちゃんは樹君の未来のお嫁さんなのでしょう?だったら身内も同然だから、他にも困ったことがあったら言って頂戴。私が出来ることならしてあげるから。」
「はい。ありがとうございます。」
(亜紀様にとっては珠莉と僕が結婚するのは既定路線なのか、、、)
(良かったね。)
(美姫さんの今の発言には全然心が籠っていないように聞こえました。)
(同感。冷え冷えした感じだったし。)
(そんなことないよ。・・・って、いいことを思いついた!)
(何でしょうか?)
(珠莉をパースに連れていく方法とか?)
(そう。珠莉も交流会に参加できるようお義母様に手を回してもらえないかと思って。)
(私がパースに行くのが難しいことは分かっていますが、そこまでして頂くのは心苦しいです。)
(でも、確かに交流会に参加できれば珠莉にも海外渡航の許可が出る。)
(でしょ。まずはやんわりお義母様に聞いてみるね。)
「でしたら、お義母様、珠莉のことでもう1つご相談させて頂いても良いでしょうか?」
「何かしら?」
「珠莉を交流会に参加させてパースに連れていきたいのですが、良い方法はないでしょうか?」
「理由を聞いてもいいかしら?」
「それはキャサリン少佐から止められているのでお義母様にもお教えできませんが、珠莉がパースに行くことができれば自然とその理由は明らかになると思います。」
「そう。キャサリン少佐絡みなのね。もう1つ聞くわ。珠莉ちゃんがパースに行くことは龍野家の利になるのかしら?」
「将来、珠莉が樹と結婚して龍野家の影響下に置くことができれば必ずや。」
「・・・分かったわ。私から雄平さんに頼んで、、、と思ったけれど、そんなことをしないでもいい方法があるわ。」
ふと視界に入った和香を見て、亜紀様が何か思い付いたようだ。
「どんな方法でしょうか?」
「珠莉ちゃんが和香の代わりに、侍女として美姫ちゃんと一緒にパースに行けばいいのよ。」
亜紀様のとんでも発言を聞いて、
「私が美姫さんの侍女として、ですか!?」
「そんな。。。私は美姫様と一緒にパースに行けないのですか!?」
珠莉と和香が同時に驚き嘆いた。
「お義母様、いい案だと思います。」
「でしょ。これであれば参加者の変更申請だけで済むから、追加で珠莉ちゃんを交流会にねじ込むよりも断然簡単よ。」
美姫が亜紀様の案に合意し、珠莉が和香の代わりとなることが決まったことで、
「美姫様の侍女枠は私が苦労して手筈を整えたものなのに、どうしてこんな小娘にとられないといけないのでしょうか?」
和香は珠莉のことを小娘と言ってしまうほど動揺激しく泣き崩れたが、
「和香、お願い。この埋め合わせはするから。」
「・・・美姫様がそこまで言われるのなら私は構いませんが、どのような補填をして頂けるのでしょうか?」
「私に出来る範囲なら何でもいいよ。」
「何でも、、、ぐふふふ。美姫様にしてもらいたいことがありすぎて、どれにすべきか悩みます、、、ぐふふふ。」
美姫から提案を受けて直ぐに立ち直った和香は、あれやこれやと妄想をし始めた。
「美姫ちゃん、和香が壊れているけれど、大丈夫?」
「・・・『私に出来る範囲』と言ったので、問題ないはずです。」
「それならいいのだけれど。和香が美姫ちゃんの前でも平然と本心を現すようになったのは2人の間の垣根が取り払われたから、と喜んでいいのかしら、、、」
和香のことを見る亜紀様は、開いた口が塞がらないといった感じだ。
「あの、私が和香さんの代わりにパースに行って本当に良いのでしょうか?」
「肯定。亜紀様がそう言われたのだから、決定だと思っていい。」
「そうよ。でも、その分だけ龍野家に貢献してもらうことになるから覚悟して頂戴。」
「はい!ありがとうございます!」
こうして、珠莉も一緒にパースに行くことが出来るようになったのだった。




