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竜の女王  作者: M.D
2173年秋
587/688

06

「それでは、キャサリン少佐は特級魔法使いなのでしょうか?」

「違うわ。あくまで”神話級”の魔法具の一部を使用できるだけだから、普通に上級魔法使いよ。」

「上級魔法使いでも十分凄いですが。」

「美姫だって、主と呼ばれる空鮫を討伐したんだから上級魔法使いになることが決まっているんでしょう?お互い様よ。」


「樹様も上級魔法使いになることが決まっているんですよね?」

「肯定。」

「それなら、この部屋にいる4人のうち3人が上級魔法使いだなんて、私だけ場違いな感じがします。」


 珠莉が恐縮すると、


「珠莉も精霊に愛されているのだから、妖精石ダーナから精霊の祝福を受けられれば上級魔法使いになれるわよ。」


 キャサリンさんがとんでもないことを事もなげに言った。


「私が精霊の祝福を受けられるのですか!?」

「えぇ。そのことを美姫に伝えるために今日ここに来たのだけれど、珠莉にも十分資格はあるわよ。」

「では、是非お願いします!」

「即答してくれるのは嬉しいけれど、精霊の祝福を受けるかどうか決めるのは、この後の話を聞いてからにしてほしいの。」

「どういうことですか?」

「人間が精霊に指示を出すことができる、なんて奇跡のようなことを何の代償もなしにできると珠莉は思うのかしら?」

「・・・そうですよね。」


 珠莉の表情が天国から地獄に落とされたように変わる。


「具体的にはどのような代償なのでしょうか?」

「美姫も精霊の祝福を受ける資格があるから知っておくべきね。答えとしては、精霊魔法を使うたびに命が削られるのよ。」

「・・・嫌な代償ですね。でも、少しであれば人生が短くなっても許容できると思いますが、”代償”というからにはそんなことはないと?」

「えぇ、そうよ。精霊魔法を使い続けた者は、ほとんどが40台半ばまでに亡くなっているわ。」

「では、キャサリン少佐も?」

「えぇ、そうでしょうね。此方はこれまで精霊魔法をかなり使ってきたから、もう少し早いかもしれないわね。」

「「・・・。」」


 キャサリンさんの告白により応接室を沈黙が支配した。


(精霊魔法を使うと寿命がガッツリ減るのか。)

(結構重い代償よね。でも、精霊魔法を使うと命が削られる理由は何なのかな?)

(その前に、そもそも命って減るものなのだろうか?)

(そうね。生命力とか言われることもあるけれど、ミーちゃんを見ていると精霊がそれを対価として得ているとは思えないよね。)

(だったら、不摂生な生活をすると早く亡くなることが多いのと同じとか?)

(嫌な例えだけれど、樹の言うように精霊魔法の行使による負担が少しずつ体に蓄積されていって、結果的に人生が短くなるのかも。)


(それは違うのじゃ。)


 エレナ様が美姫の案に異を唱える。


(エレナ様は精霊魔法を使うと寿命が減る理由をご存じなのですか?)

(だとしたら、僕たちが話をしているときに、すぐに教えてくれた良かったのに。)

(だまらっしゃい!教えてやろうと思ったのじゃが、樹がいらんことを言うから話す気が無くなったのじゃ。)


(エレナ様、そうへそを曲げずにお願いします。)

(・・・美姫がこれから関わるかもしれないことでもあるしのう。樹へのお仕置きは確定として、美姫のために話してやるのじゃ。)

(ありがとうございます。樹も余計なことは言わないようにね。)

(了解。)


 勿体つけつつ、エレナ様は真相を話してくれるようだ。


(美姫は動物によって寿命が違うのは知っておるじゃろう。)

(はい。一般的に体が小さい動物は寿命が短くて大きい動物は長いです。)

(それは細胞の代謝速度で説明ができるのじゃ。代謝が速ればエネルギーを多く生成して活発に活動できるようになるが、その分だけ消耗も激しくて長くは活動できないのじゃ。)

(確かに小さい動物ほど素早く動く印象があります。)

(そして、あ奴が精霊を使役する際に、爆発的に代謝が速くなって多量のエネルギーが生成されたのをワレは見逃さなかったのじゃ。)

(つまり、精霊魔法を使うと代謝が速くなるから寿命が短くなるのですね。)

(そうじゃ。精霊石とやらはそうやって生成されたエネルギーを吸収し、エネルギー準位を遷移させることによって精霊を使役するための波動を発しているようなのじゃ。)


(でも、代謝が速くなると、どうして寿命が短くなるのでしょう?)

(それは、地球上の生物は酸素を利用してエネルギーを生成しておるのじゃが、酸素は反応性が高いため生物にとっては毒でもあるからじゃ。)

(太古の地球は嫌気性の生物ばかりで、シアノバクテリアが酸素を作り出すとその多くが絶滅してしまった、と聞いたことがあります。)

(更に、代謝によって、より反応性の高い活性酸素が発生し、蛋白質を酸化させて細胞の機能を損なわせてしまうのじゃ。そして、人間のように複雑な体を持つ個体は、ある程度以上の機能が損なわれると、修復よりも新たな個体を産み出す方が費用対効果が良くなるのじゃ。)

(その分岐点が寿命で、代謝が速くなると分岐点が早く訪れるんですね。)

(そうじゃ。)


(だとすると、逆に、代謝を遅くできれば寿命を長くできるのか。)

(そうね。でも、そうしたら動きも遅くなるから、代謝の速い敵に狙われたら逃げ切れなくなるよ。)

(美姫の言うとおり、地球における動物の寿命の長短は、個々の動物が生存競争に勝ち残るために最適化をはかってきた結果と言えるじゃろう。食物連鎖の下位におる動物は上位の動物に捕食される可能性が高いから長生きしても無駄なのじゃ。それだったら、エネルギーを沢山使って捕食されないよう素早く動き、捕食される前に多くの子孫を残すように進化した方が生存競争に有利になるじゃろう?)

(そうですね。食物連鎖の上位にいる動物は捕食される心配が少ないので、長く生きて体も大きく出来るのですね。)

(そういうことじゃ。)


 エレナ様は過去に精神エネルギーの生成量が多い個体群を生み出だそうと試行錯誤したことがあっただけに、この手の話には詳しいようだった。

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