02
「乾杯!」
「「乾杯!」」
店に入って飲み物が出てくると、諒太さんの掛け声とともに杯を合わせた。
「どうして諒太が仕切っているのかしら?」
「店を選んだり俺がこの会合の幹事みたいなものなんだから、いいだろう?」
「その諒太が選んだ店が居酒屋とはね。」
「不満があるのだったら、店の種類を伝えた時に言ってほしかったな。」
「こういうお店の存在は知っていたけれど来たことがなかったから、良い経験だと思えば問題ないわ。」
「そうかい。」
「征爾は居酒屋に来たことがあるの?」
「従者同士の付き合いで何度か。こんな高級なところは初めてだけれど。」
「そう。それじゃ、征爾の方が詳しいのだから、私にいろいろ教えて頂戴。まずは、お品書きの内容からね。これは――――」
直ぐに出てくるものは諒太さんが最初に頼んでいたが、麗華さんは征爾さんと次に何を頼むか仲良く話し始めた。
「征爾さんの言うとおり、このお店は居酒屋にしては高級っぽいですね。」
「個室で雰囲気もいいですし。」
「美姫さんや麗華さんを連れてくるんだから、場末の汚い飲み屋はマズいだろう。」
「賛同。僕も遠慮したいです。」
「諒太さんはそういったところに行かれたことはあるんですか?」
「いや、俺に居酒屋を教えてくれた先輩も、お勧めしない、と言っていたし、二の足を踏んでいる。」
そうこうしていると、
「失礼致します。」
店員が注文品を持ってやってきて、
「こちらが”実演付き1000回混ぜた納豆”になりますので、これから混ぜさせて頂きます。1秒間に10回かき混ぜますので、100秒お待ち下さい。」
そう言って納豆が入った器に何やら機械を差し入れる。
ウィィーーン
機械が納豆をかき混ぜ始めると、みるみる納豆の粒が無くなり滑らかになっていく。
「面白いですね。」
「はい。当店で人気の商品で、ほぼ全てのお客様が注文されます。」
「そうなのですか。食べて美味しいだけでなく見て楽しめるのなら、人気が出るのも頷けます。」
「ありがとうございます。完成しましたので、どうぞ召し上がって下さい。」
小匙で掬って自分の小皿に取り、一口食べる。
「鰹出汁が効いてて美味しい。」
「納豆って言われないと分からないね。」
「そうだろう?俺も初めて食べた時には驚いたんだ。」
「納豆臭さもあまり感じられないから食べやすい。」
「えぇ。これなら私も食べられるわ。」
皆、口々に感想を言いながら食べていると、あっという間になくなった。
「諒太にしては趣向を凝らした店を選んだわね。」
「その言い方だと、貶されているのか褒められているのか分からないな。」
「麗華にとっては称賛しているつもりなんだ。」
「そ、そうよ。諒太には感謝してほしいわ。」
(麗華さんもこのお店を案外気に入ったみたいね。)
(同感。もっと気取った感じなのかとも思ったけど、堅苦しくなくて丁度いい。)
それから、銘々好きな物を注文して食事をしながら近況を話し合ったのだが、
「そうそう、諒太はあのチンチクリンと婚約することになったのだったわね。」
麗華さんが爆弾発言をした。
「ぶほっ!麗華さんは何故それを知っているんだ?まだ、内々でしか話をしていないのに。」
「あら?やっぱりそうだったのね。諒太の母親が最近頻繁に桐生家に出入りしている、との報告があったから、そうじゃないかと思ったのよ。」
「しまった、、、カマかけだったのか、、、」
諒太さんは項垂れる。
「それじゃ、諒太さんは本当に華恋ちゃんと婚約することになったんですね。」
「あぁ。華恋が高校を卒業したら婚約が発表されるはずだ。」
「おめでとうございます!」
「ありがとう。」
祝言を受けた諒太さんは恥ずかしそうだった。
「目出度いことなのに、諒太さんはあまり嬉しそうではないですね。」
「この歳で婚約とか早すぎると思わないか?それに、婚約が発表されたら、やっかみも込めて有る事無い事言われるようになるだろう?」
「有る事の代表例は、諒太さんがロリコ――――」
「それ以上言ったらシバく!」
「「ハハハ。」」
久しぶりに諒太さんの素早い突っ込みを聞いて、皆、笑う。
「そう言う麗華さんと征爾さんはどうなんだ?」
「ん?私たちの場合は征爾次第かしら。でも、征爾も私の想像以上の速度で成長しているから、そう遠くないうちにお母様を説得できると思うわ。」
「俺も麗華に見限られないよう精進するよ。」
「私が征爾を見棄てるわけないわ。一生一緒にいるつもりだから覚悟しておきなさい。」
(やっぱり麗華さんは変わったね。)
(同感。今の征爾さんにデレデレした姿は、昔の周りに対してツンツンしていた麗華さんからは想像できない。)
楽しく時間はあっという間に過ぎ、店を出る時に、
「たまにこうやって食事する機会を作ってもいいかもしれないな。」
「諒太が永久幹事をするのだったらいいわよ。次も私を楽しませるような店を探しておきなさい。」
「なんでだよ!」
「次は俺が幹事をするよ。」
「征爾さんは分かっていますね。それじゃ、お願いします。」
と、諒太さんと麗華さんと征爾さんが言っているが聞こえた。




