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パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
ロンドンで陽菜さんに教えてもらったとおり、食屍鬼の頭と心臓を吹き飛ばす。
(食屍鬼には魔導弾が通じるみたいだ。)
(だったら、後は私に任せて。)
ドゥンッ!パンッ!
美姫が巨大な魔導弾と小さな魔導弾を食屍鬼に向かって撃つ。
(これは爆裂魔導弾!)
ボンッ!
ビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッビシッ
戦闘にいる食屍鬼の手前で小さな魔導弾が巨大な魔導弾にぶつかると、巨大な魔導弾は小さな破片に分かれて食屍鬼に向かう。
「うー、うー。」
「うー、うー。」
複数の食屍鬼を同時に討ち取ったが、美姫とエレナ様にしては珍しく撃ち漏らしもあり、まだ食屍鬼の数体は健在だ。
(美姫、小さめにもう1発撃つのじゃ。)
(はい。)
ドゥンッ!パンッ!
ボンッ!
ビシッビシッビシッビシッビシッビシッ
2度目の爆裂魔導弾は正確に食屍鬼の頭と心臓に叩き込まれ、全ての食屍鬼を行動不能にした。
「美姫様、素晴らしいです!」
「いやはや、見事なんよ。」
「これが噂に聞く爆裂魔導弾なのね。」
美姫の魔法を見た3人が感嘆の声をあげる。
(あっさり終わってしまった。でも、魔法の腕輪と銃型補助具に爆裂魔導弾の命令規則なんて入れてたっけ?)
(ううん。そこまでの容量はなかったから入れられなかったんだけれど、銃型補助具の補助演算装置を演算領域として使えるようにしてあったのよ。)
(それで僕の演算領域は使われなかったのか。ん?)
そこまで言って、ふと気が付いたことがあった。
(今までは毎回毎回、エレナ様が僕の演算領域を相談なしに突然使ってたけど、銃型補助具の補助演算装置を演算領域として使えるんだったら、今後は銃型補助具さえ美姫が持っていたらそんなことは無くなるわけだ。)
(そうよ。樹、良かったね。さっきのはそれを確かめるためでもあったの。1度目は爆裂魔導弾の演算量が銃型補助具の補助演算装置に収まり切れなくて途中で演算を打ち切ったから全弾命中とはいかなかったんだけれど。だから、2度目は『小さめに』ってエレナ様から指示があったのよ。)
(成程。撃ち損じるなんて美姫とエレナ様にしては珍しいな、と思っていたんだ。でも、1度目は僕の演算領域を使わずに途中で演算を打ち切るなんて、エレナ様らしくない。)
(銃型補助具の補助演算装置を演算領域として使う時に樹の演算領域を併用すると、同期をとる際に遅延が大きくて今はまだ使えないんだって。)
(”今は”という言葉が不穏に聞こえる。。。)
エレナ様だったら、絶対に僕の演算領域も同時使用できるように改良してくるはずだ。
(それに、試射をしている時には多数の的を用意することができなかったでしょ。だから、爆裂魔導弾を使ったときのデータを取るために、エレナ様から爆裂魔導弾が使える状況になったら積極的に使うよう言われていたの。)
(散乱魔導弾は無秩序に砕けた弾頭をばら撒くだけだけど、爆裂魔導弾は弾道の制御がいるから、銃型補助具に実装する際に模擬演算で動作を確認するために実機でのデータが必要だった、ってこと?)
(そういうこと。核実験が禁止された後の核兵器開発みたいなものね。)
「小生、動いている食屍鬼を生で見たのは初めてなんよ。」
「私もです。映像で見るとの実物を見るのでは全く違うわ。」
ロジャー教授と百合子さんは食屍鬼を気持ち悪がらず、むしろ積極的に観察をしていた。
「美姫様と樹様は、ロンドンで交戦経験がおありだったのですよね?」
「そうよ。あれ?私、和香にそのことを話したっけ?」
「あれだけ大騒動になれば、龍野家の方でも情報入手するのは容易です。」
「それもそうね。」
和香はあまり見たくないのか、目を背けて美姫と話している。
「美姫さんと樹君は食屍鬼にも冷静に対処出来ていて凄いんよ。」
「ロンドンでの経験がなかったら、頭と心臓を同時に潰さないと再び襲てくることが分からずに焦ってアタフタするところでした。」
「私は知識としては知っていたから、樹と美姫さんが知らなかったとしても教えてあげていたわ。」
「それにしても、この食屍鬼は何処から来たのでしょうね?」
「そうね。蠍の魔物みたいに寝座があるわけでもないだろうし、、、」
「この食屍鬼、以前の調査団の隊員だったみたいなんよ。ほれ、ここ見て。」
ロジャー教授が指す食屍鬼の服には、調査団の隊員であることを示す紋章が縫われていた。
「つまり、遺跡調査に来た隊員が食屍鬼にされて遺跡内を彷徨っている、と。」
「そうなると、調査団に参加していた上級魔法使いも食屍鬼になっていて、私たちに襲い掛かってくる可能性があるから、厄介ね。」
「それでも、美姫様の魔法で一網打尽だったのですから、蠍の魔物に襲われるよりマシかもしれません。」
「それが、そうでもなさそうなのよ。」
美姫が顔を曇らせる。
「そうなん?」
「あの食屍鬼には魔法使いが含まれていなかったようなのです。」
「斥候、というか、私たちの実力を見極めるための生贄にされたのだわ。こいつらを送り込んだ奴は少しは頭が回るようね。」
「であれば、やはりここで撤退した方は良いのでないでしょうか?」
「ロジャー教授はどうお考えですか?」
「小生は美姫さんと樹君の実力であれば、まだいけると思うんよ。」
「『まだはもうなり』とも言います。」
「そうね。でも、今は冷静な判断を下せないから、一晩じっくり考えた方がいいかもしれないわ。」
「私もそう思います。」
「それでは少し先に進んでから野営の準備をしましょう。」
不安を抱えていたせいか、この日は皆、夕食を摂った後にすぐ各自の寝袋の中に入ったのだった。
 




