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竜の女王  作者: M.D
2173年夏
565/688

19

「それじゃ、出発しましょう。」

「了解。」


 僕の魔力回復を待って、昼食後から再び歩き出した。


(それにしても、朝から酷い目にあった。。。)

(エレナ様にも困ったものね。私たちに試練を与えようと思われているのは分かるけれど、もう少しやりようがあると思うよ。)

(禿同。僕も毎回思う。でも、あれだけのことがあったんだから、今日はもう何もないと思いたい。)

(樹、それを言っちゃったら絶対に良くないことが起きるよ。)

(大丈夫。それは迷信だから。)

(今までの経験からして、そんなことないと思う。)


(だったら、どちらが正しいか確認してみよう。グレンさん、この先に先程のようなエレナ様が悪巧みに利用しようとしている場所はあるのでしょうか?)

(今のところはないですな。)

(ほら。)

(良かった。)


 グレンさんの答えを聞いて、美姫もざわついていた気持ちが落ち着いたようだ。


(グレン、それを言ってしまったら樹の鍛錬にならんのじゃ。)

(そう仰られますが、樹君の魔力量はまだ回復しきっておりませんから、しばらくは気持ちにゆとりを持たせてあげたいのですな。)

(感謝。ただ、あの時に魔力貯蔵具から魔力を引き出していたら魔力回復なんて気にする必要がなかったのでは、と思ったりもしてます。)

(それは分からないよ。この後で『魔力貯蔵具の魔力を使っていなければ』と思うような事態に陥るとも限らないし。)


(そうじゃのう。『人間万事塞翁が馬』じゃ。全てが終わった後にしか、その時に何が最善じゃったのかは分からんのじゃからのう。)

(だからこそ、その時に最善ではないとしても最良と思われる手を選択していくしかないのですな。そして、選択後に下した判断を悔やむより、次の手について考える方が建設的なのですな。)

(成程。あの時の判断は悪くはなかったと思うことにします。)

(そうね。魔力貯蔵具の魔力が必要だったのだったら、エレナ様やグレンさんが指示してくれるはずだもの。)


(じゃが、不測の事態もありえるからのう。樹は索敵をサボるようなことはしてならんのじゃ。)

(了解。でも、エレナ様がそう言うのを聞くと、後々何かありそうな気がしてきた。)

(ほら。樹も不安になってきたでしょ。)

(肯定。)



 しかし、蠍の魔物との再遭遇もなく、午後の探索は順調に続く。


「どこまで進んでも一本道だけれど、この通路はどこまで続くのかしら?」

「こうも変わり映えしない風景が続くと調べたいこともなくなって、退屈で小生も流石に飽きてきたんよ。ふわーっ。」


 後方から、百合子さんの不満の声が聞こえ、ロジャー教授は欠伸をした。


「これまでの感じからすると、穴を掘るための作業員を現場まで送り込むためだけの通路のようにも見えます。」

「だったら、落下壁や落下穴みたいな罠を設置したりしないんじゃない?」

「侵入者を防ぐために、罠はこの建造物が完成した後に作動させたのではないでしょうか?」

「そうね。通路を塞ぐのではなく罠を設置したのは、再び通路を使用するときのことを考えてのことかもしれないね。」


 和香と美姫はこの通路が作られた目的について話をしている。


「この通路が和香君の言うとおりの通路だとして、螺旋状に地下に向かって続く通路の内側に行くことができないことを考えると、小生たちは遺跡に入る入り口を間違ったのかもしれんのよ。」

「だとしたら、どうされますか?一度地上に戻って、別の入り口を探されますか?」

「どうやって別の入り口を探すの?闇雲に探して見つかるような所にはないと思うよ。」

「同感。入り口のある場所の目途が立っているわけでもないし。」

「つまり、この通路を進むしかないわけね。こう単調だと緊張感を保つのにも苦労するし、うんざりだわ。」


 皆、百合子さんと同じ思いだ。


「樹、やっぱりそこら辺の壁を叩いてみない?なんなら、私が魔導砲で壁を壊してもいいわよ。」

「百合子さん、何を言い出すんですか!?」

「そうなんよ。遺跡を壊すのはいかんのよ。」

「それに、昨日は百合子さんがそんなこと言いだしてから蠍の魔物と遭遇したんですから、あまりそういうことは言わないで下さい。」

「そうですね。『口は禍の元』と言いますし。」

「和香、それは使い方を間違っていると思うよ。。。」

「何よ。皆して私を貶して。」


 百合子さんは頬を膨らませて怒ったふりをする。


「百合子さんが変なことを言い出すのが悪いんです。」

「そうなんよ。百合子君は時節、力技で事態を解決しようとするところが玉に瑕なんよ。」

「でも、百合子さんの場合はそれが最良の選択であることが多いことも事実ですが。」

「樹様、ここは百合子様の擁護をする場面でありません。」

「和香さんは黙ってて。樹だけは私のことを分かってくれていたのね。嬉しい。」

「樹、百合子さんの味方するわけ?」

「樹君は短慮すぎると思うんよ。」

「矛先が僕に向いてしまった。。。」

「自業自得です。」


 などと言い合っていると、グレンさんが警告を発した。


(樹君、銃型補助具を構えるのですな。)

(また、蠍の魔物ですか?)

(考えようによってはもっと厄介な輩ですな。)


(後ちょっとで今日の探索は終わりだったのに。。。)

(樹の言葉と百合子さんの言葉によって必然的に起こってしまったのよ。私の方が正しかったでしょ。)

(反省。)


 グレンさん指示に従い、立ち止まって銃型補助具を構える。


「えっ!?本当に魔物がいるの!?」

「多分。嫌な予感的中です。」

「迎撃態勢!」


 美姫の指示のもと、皆が戦闘準備を整え終えた時、通路の先から複数の食屍鬼グールが顔を見せた。

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