07
「樹、準備できた?」
「肯定。いつでも大丈夫。」
「それじゃ、行きましょう。」
遺跡探索へ出発の日、和香が運転する車で空港へ向かう。
「こんなに頻繁に海外に行くことになるなんてね。」
「同意。去年、初めて飛行機に乗った時には思いもしなかった。」
「美姫様と樹様による活躍の場が世界に広がっている証左でしょう。」
「それでも、私たちはまだ大学生になったばかりよ。もう少し後でも良かったと思うの。」
「同感。魔法軍にも入ったばかりだし、展開が早すぎる。」
「そうですね。そのせいで私の対応も後手後手にまわってしまっていましたが、漸く美姫様と樹様の海外遠征についていける手筈が整いました。そもそも、侍女を同行させずに美姫様を海外に行かせていた今までがおかしかったのです。」
和香の言葉どおり、紆余曲折あって和香も遺跡探索についてくることになったのだった。
「国防軍でもお供をつれて行くのは少将以上の将官だけだし、私はまだ大尉で佐官にもなっていないのよ。」
「国防軍内の地位は関係ありません。美姫様は美姫様であって、龍野家当主である亜紀様の養女であり、いずれは龍野家当主となられるお方なのです。国防軍上層部もそのことを分かっていながら私を同行させなかったのは論外です。」
「樹がいるから問題ないと考えたんじゃない?」
「樹様は美姫様の伴侶となられるのですから、樹様をお供とするのは以ての外です。しかし、国防軍上層部がそのような判断しかできない脳タリンの集まりであるからこそ、つけいる隙もあるのですが。」
「つまり、和香を連れて行くように雄平大将に言わせたのは、和香自身?ううん、左衛門さんかな?いずれにしても、あまり国防軍に圧力をかけるのは良くないよ。」
「ちょっと何を言っておられるのか分かりません。」
「どうしてよ!分かるでしょ!」
和香のとぼけ方が漫才師のそれであり、美姫の突っ込み方も同様だ。
「それから、私たちについてくると危険が伴うよ?」
「前にも申しましたが、美姫様がおられるところならば例え火の中水の底、私はどこへでもお供致します。危険な場所なら尚更、美姫様のお側に私がいるべきなのです。」
「私を庇って怪我をするようなことはしないでね。」
「それは無理な相談です。私は美姫様をお守りするためにお側にいるのですから。」
「・・・。」
(和香は強情だから、こうなったら何を言っても無駄なのよね。東京にいる時ですら、私の側にいたいからって魔法軍や治安維持軍に紛れ込むくらいだから。)
(だから、そういう状況にならないように気を付けるしかないけど、強敵が出てきたらそんなことも言ってられないだろうし、和香には出来るだけ僕たちの近くにいないようにしてもらわないと。)
(そうよね。遺跡探索にはヒューストン国防軍が開発中の運搬機で荷物を運ぶらしいから、それの守りを任せて私たちから遠ざけるしかないかもしれないね。)
(それが一番だと僕も思う。)
空港に着くと、和香が全ての手続きを行ってくれたため、僕たちはただ通り過ぎるだけで飛行機に搭乗することができた。
(和香が全部やってくれるから楽チンだった。)
(樹はそうでしょうね。今回は魔法理事国以外の国に行くからか、私の方は書類審査なんて名ばかりで機械の癖に質疑応答でカマかけまでしてきて一段と厄介だったよ。でも、それ以外はほとんど何もしなくて良かったから助かったのは確かね。)
(これに慣れてしまったら、和香がいなくて自分で手続きをしないといけなくなった時にアタフタしてしまいそうだ。)
(そうね。和香に頼りきになるのは良くないかも。)
(和香はそうはさせてくれないだろうけど。)
(それが問題なのよね。和香は私が何もしなくていいようにするのが自分の仕事だと考えているのよ。)
(まるで貴族のお嬢様と侍女みたいだ。)
(ほんと、いつの時代を生きているのよ、って感じよね。)
美姫の隣に座っている和香を見ると、何やら情報端末にメモ書きのようなことをしているので、きっとミセシメ会の会報に載せるためなのだろう。
「和香は海外に行ったことあるの?」
「はい。美姫様の侍女となる前に、どうしても現地で情報の確認を取らねばならない仕事があり、何度か渡航した経験があります。」
美姫に問われた和香が情報端末をサッと隠して答える。
「だから空港での手続きも手慣れていたのね。」
「はい。それに、これから向かう先の調査も行っていますので、美姫様のお手を煩わせるようなことは致しません。」
「無理してそこまでしなくていいよ。」
「いえ。美姫様のことを思って行動することが私にとっては無上の喜びですので。」
「そ、そう。」
(いつにもまして和香の愛が重いよ。)
(初めて一緒に海外に行くから、和香も張り切っているんじゃない?)
(そんなに気負う必要なんて全くなくて、普通でいいのに、、、)
飛行機が離陸した後、和香は美姫さんの介添えを乗務員には任せず自ら行っていたが、
「私の望みとしては、美姫様には最上級のお席に座って頂きたいのですが、魔法使いの習わしがありますので、せめて最上級のお世話を受けて頂くべく私が行っております。」
というのが、その理由らしい。
(そういえば、ヒューストンに行った時にも、麻由美さんは魔法軍司令長官でありながら最後尾の席に座っていた記憶がある。)
(特別に取りつけた上級の席で、機内食も私たちより豪華だったけれど。)
(・・・美姫としては思うところがあったんだ。)
(ううん。全然。)




