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竜の女王  作者: M.D
2173年夏
548/688

03

「それで、ロジャー教授が探索したいというエリドゥ遺跡はどのようなものなのでしょうか?」

「いいことを聞いてくれたんよ。小生もそのことについて話をしたいと思っていたんよ。美姫さんと樹君はギルガメシュ叙事詩のことを知ってるん?」

「はい。歴史の中でもっとも古い物語ですよね。」

「僕は名前だけ。」


「えっ!?樹はギルガメシュ叙事詩の名前しか知らないの?」

「百合子さん、普通はそうだと思いますよ。」

「いや、それはないんよ。」

「そうよ。アーサー王と円卓の騎士に肩を並べる世界的に有名な作品なんだから、あらすじくらいは知っているべきよ。」


 百合子さんとロジャー教授はともかく、美姫からも呆れられる。


「樹君のために、まずはギルガメシュ叙事詩のあらすじから説明するんよ。百合子君、よろしく。」

「分かりました。樹のために簡単に説明するわね。

 古代メソポタミアのウルクの王であるギルガメシュは英雄であり暴君でもあったのよ。ギルガメシュの横暴を嘆いた市民の声を聴いて、神は粘土からエンキドゥを作って対抗させようとしたのだけれど、激しい戦いの後にギルガメシュとエンキドゥは互いの力を認め合って友となったわ。その後、2人は森の番人フンババや聖牛グガランナなんかを倒すんだけれど、そのせいでエンキドゥは死ぬことになるの。

 エンキドゥの死によってギルガメシュは自らの死に対して恐怖を覚え、肉体の不死を求めて神から不死を与えられたウトナピシュティムに教えを請うための旅に出たわ。ギルガメシュはマーシュ山をぬけ、海を渡ってウトナピシュティムの住む島に辿り着けたのだけれど、不死を得られずにウルクに戻ることになるの。

 あらすじはこんなところね。詳しくはWebで。」


 百合子さんの説明で、何となく物語の大枠は把握できた。


「感謝。ギルガメシュ叙事詩は英雄譚なんですね。」

「そう。記録に残っているもっとも古い英雄譚よ。多くの写しが作られるくらい古代でも人気を博した作品だから、後世にも多大な影響を与えているわ。」

「例えば?」

「旧約聖書に出てくるノアの方舟っててあるでしょ。それの似た話がギルガメシュ叙事詩にもでてくるのよ。」

「えっ!?そうなんですか?ノアの方舟は旧約聖書独自のものだと思ってました。」

「どうも違うようなの。そのことが発見された当時は大きな旋風を巻き起こしたそうよ。他にもギルガメシュ叙事詩が原型と思われる話が世界各地に沢山あるわ。」

「成程。」


 そんな凄い物語を今まで知らなかったなんて、恥じ入るばかりだ。


(ギルガメシュ叙事詩のことは分かったけど、ロジャー教授が探索したいというエリドゥ遺跡とど繋がるんだろう?)

(エリドゥ遺跡は中東にあると雄平大将から聞いたでしょ。ギルガメシュ叙事詩は中東の古代メソポタミアの文学作品よ。)

(つまり、エリドゥ遺跡は物語に出てくる場所のどこか、ということ?)

(そうだと思うよ。)


「ロジャー教授はエリドゥ遺跡がギルガメシュ叙事詩のどの部分と関係があると考えておられるのでしょうか?」

「美姫さんは話が早くて助かるんよ。結論から言うと、エリドゥ遺跡はマーシュ山の一部だった、と小生は考えているんよ。」

「マーシュ山とは、上は天の基底に触れ下は冥府に達している双子山、なのですよね?」

「そうなんよ。でも、そのマーシュ山の説明はおかしいと思わん?」


 ロジャー教授が言わんとしていることは分かる。


「・・・確かに、山の上とは頂きのことだと思いますが、山の下ってどこのことなのか分かりません。」

「山の麓だとしても、冥府に達する、という表現はおかしいですね。なんとなく冥府って地下にある印象ですし。」

「そう。そこなんよ。小生もそう思っていたんだけれど、マーシュ山は地上は天の基底に触れるほど高く地下は冥府に達するほど深い建造物だったのではないか、と閃いたんよ。」


 ロジャー教授は突飛なことを言い出した。


「マーシュ山が建造物、ですか!?」

「私もロジャー教授からそれを聞かされた時には驚いたわ。でも、マーシュ山の所在は分かっていないのよ。マーシュ山は古代メソポタミアおける聖山信仰の1つなのだけれど、聖山信仰は実在する山を信仰する訳だから、それが失われるとは考えにくいと思わない?」

「そうですね。建造物だとすると今は無くなっていてもおかしくないです。」

「でしょ。」


 百合子さんもロジャー教授の案には妥当性がある、と考えているようだ。


「天の基底に触れるほど高い建造物って、どこかで聞いたことがある気がするんだけど、、、」

「旧約聖書に出てくるバベルの塔じゃない?」

「それだ!」


 僕のふとした疑問に美姫が的確な回答をしてくれる。


「つまり、旧約聖書に出てくるバベルの塔もギルガメシュ叙事詩が原型、ってことですか?」

「いや、ギルガメシュ叙事詩にバベルの塔は現れないんよ。しかし、『エンキ神は1つの言葉を話す人たちの口から出る言葉を変えさせ争いをもたらした』と、古代メソポタミアの別の叙事詩には似たような話が出てくるんよ。」

「成程。旧約聖書って古代メソポタミアの叙事詩を結構参考にして書かれてるんですね。」

「それは旧約聖書の創世記も様々な歴史に拠って立っているからで、ギルガメシュ叙事詩も口承で伝えられてたシュメールの伝承をまとめて文字に起こされたものなんよ。」


「バベルの塔が旧約聖書には登場するけどギルガメシュ叙事詩に出てこない理由は何でしょうか?」

「それは小生にも分からんのよ。粘土板に書ききれなかったのかもしれないし、意図的に落とされたかもしれないんよ。」

「そして、地下部分についてはどちらにも登場しない、と。」

「何やら隠したいことがあるのではないか、と思わん?」


 そう言ってロジャー教授はニヤリと笑った。

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