29
「美姫も樹もありがとう。2人がいなかったら、ダービルを倒せていなかった。」
エレナ様の要望で血液を採取するためにダービルの側にいた僕たちに、ジョージさんが話しかけてきた。
「私たちの方こそ、あの程度しかできませんでしたが、ジョージさんの援護ができて良かったです。」
「そうか?ダービルの心臓が右側にあると考えた、ということは、一度左胸を貫いてダービルを負かしたが滅しきれなかった、ということではないのか?」
「そうです。」
「だとしたら、俺たちが来なくても2人だけでもダービルを打倒できたのではないか?」
「いえ、あの時は私たちも危なかったので、来て頂いて助かりました。」
「そうだったのか。2人の手柄を横取りしてしまったのなら心苦しいところだったから、そう言ってもらえるのは俺としても有難い。」
「そんなことはありません。現に、ダービルを討伐したのはジョージさんとエクスカリバーなのですから。」
「そうよ。ジョージは誇っていいのよ。」
僕たちの話を聞いていたリリーナさんがジョージさんに励ましの言葉をかけた。
「そうだな。エクスカリバーさえあれば俺でも悪魔に勝てる気がする。」
「えぇ、きっと勝てるわ。」
「これでペンドラゴン家にも”神話級”の魔法具の担い手である特級魔法使いが現れたわけですね。しかし、あの一撃は圧倒的でしたから、一度エクスカリバーをじっくりと見せて頂きたいところです。」
オリスさんは興味深そうにエクスカリバーを見つめている。
「すまないが、それはできない。エクスカリバーはペンドラゴン家にとって最重要機密事項だからな。」
「そうね。オリスのところも未来視の魔眼やウワスを私たちにじっくりとは見せてくれないでしょう?それと同じよ。」
「・・・勝利に酔った勢いで見せてくれるかと思いましたが、やすやすとは騙されてはくれませんでしたか。」
「分かってて言ったのね。オリスには油断も隙もあったものではないわ。」
「ふふふ。都市国家を代表する魔法使いの家ともなれば、このくらいの腹芸は出来ないといけませんよ。」
「肝に銘じておくわ。」
(エクスカリバーは見せてくれないのか。)
(それそうよ。桜花だって龍野家で厳重に保管しているんだから、”神話級”の魔法具を他家には簡単には見せてくれないのよ。)
(残念。)
(でも、エレナ様はエクスカリバーのことをご存じのようだから、エレナ様から聞けばいいんじゃない?)
(成程。)
(お主たちがエクスカリバーと呼ぶ妖精剣のことを話してやるのはやぶさかではないが、今は2人とも疲れておるのでないかのう?)
(肯定。勝ってほっとしたのか、もうフラフラのねむねむです。)
(私も早くホテルに帰って眠りたいです。)
(では、話は明日じゃ。)
「あらあら、美姫さんと樹君はお疲れの様子ね。かく言う私も、疲労困憊だけれど。」
オリスさんは僕たちを気遣ってくれたようだ。
「私はそうでもないわよ。」
「リリーナはまだ精神が高揚してるからでしょう。興奮が冷めたらバタンキューよ。」
「そうね。そんな姿は見られたくないし、ここはペンドラゴン家と魔法軍の魔法使いに任せて、私たちも帰りましょう。」
「あぁ、そうしよう。」
歩き出そうとしたとき、
「最後に一言だけ言わせて。オリス、美姫、樹、本当にありがとう!」
リリーナさんが僕たちに頭を下げた。
「俺からも感謝を。ダービルを倒せたのは皆のおかげだ。この借りはきっといつか返す。」
「いいのよ。他家の”神話級”の魔法具が使用者と契約するところなんて見たくても見れないのだから、貴重な体験をさせてもらったのだし。」
「そうですね。それに、エクスカリバーの使い手がジョージさんだと分かったので、今後、力添えをお願いすることもあるかもしれませんから、その時に返してもらえると助かります。」
「その時は利子をつけて返して頂けると、なお助かります。」
「ふふふ、樹、欲のかきすぎは良くないわよ。」
「そうだな。樹と美姫は1組と見なして、借りを返すのは1回で良いかもしれん。」
「そんな、、、」
僕たちが部屋を出ると、陽菜さんが僕たちのところに駆け寄ってきた。
「美姫さん、樹君、無事なのね?吸血鬼相手に、このくらいの怪我で済んでほっとしたわ。」
「陽菜さんにはご心配をおかけしました。」
「それで、リリーナさんたちも無事なところを見るに、ダービルは倒せたのね?」
「はい。最終的にジョージさんの一振りが決定打になりました。」
「流石、ジョージきゅん。素敵♡。」
久しぶりに陽菜さんが『ジョージきゅん』と言うのを聞いたな、と思いながら陽菜さんの目線を追うと、
「よっしゃー!!」
「勝ったどー!!」
リリーナさんとジョージさんを取り囲んでいたペンドラゴン家とロンドン魔法軍の魔法使いからも歓声が上がっていた。
「この後はどうするか聞いてる?」
「はい。ペンドラゴン家とロンドン魔法軍の魔法使いに任せるそうです。」
「それじゃ、リリーナさんとジョージさんに一声かけてから、私たちはホテルに戻りましょうか。」
「はい。」
「長い一日だったね。」
「禿同。」
ホテルに着くなり、僕たちは泥のように眠ったのだった。




