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竜の女王  作者: M.D
2170年春
52/688

01

 東京大学附属高校では、高校1年生の春に普通科と魔法科の交流を図るため、1泊2日で日光へ修学旅行に行くことになっている。


(修学旅行楽しみだね。)

(夕食の時も話をしていたし 、美姫さんは本当に修学旅行に行きたそうにしているね。)

(樹君は楽しみじゃないの?)

(日光は初めてだから修学旅行に行きたい気持ちと、あまり団体行動が好きじゃないから行きたくないと思う気持ちの半々。)


 夕食後にそれぞれの部屋に戻ってから、思考伝達で話をするのが日課になりつつある。


(入学式の時も同じようなことを言ってなかった?)

(入学式とかの行事も団体行動だから、あまり好きじゃないんだ。美姫さんもあまり好きじゃないって言ってなかったっけ?)

(私は大人数で行動をするという環境からしばらく離れていて、どちらかというと慣れていないから不安、という感じかな。でも、友達と泊りがけで旅行に行くなんて久しぶりだから、修学旅行は楽しみにしているよ。)

(修学旅行に出かけてしまえば楽しいのかもしれないけれど、行くまでが憂鬱なんだ。美姫さんはどう?)

(私も出かける直前はそうだけれど、それまでは旅行の計画を立てたりとか楽しいよ。)

(僕も、日光東照宮はどんなところだろう、って想像するのは楽しいけれど、、、)


 配られた修学旅行の栞を見ると、1日目は日光東照宮、2日目は中禅寺湖に行くことしか決まっておらず、基本は自由行動のようだ。


(でしょう。それに今回は自分たちで行動を決められるから、みんなとどこを見て回ろうとか考えるのって楽しいじゃない。)

(気心の知れた仲間と一緒の旅行なら計画を立てるのも楽しいんだろうけど、今回は普通科の知らない生徒と一緒だから気乗りしない。)

(そんなこと言ったら『魔法科2、3名と、普通科から選ばれた5、6名で班を作り、日光の名所を見て回りながら友好を深める』という修学旅行の趣旨が意味なくなるよ。)

(彼らはエリート意識が高いっていうし、どう接したらいいのか不安なんだ。)


(樹は消極的じゃのう。せっかく美姫と旅行ができるんじゃから積極的に楽しもうという気はないのかのう?)

(そうですよね。エレナ様も楽しみにしているみたいだし、折角遠くまで行くんだから樹君も楽しまなきゃ損だよ。)

(エレナ様と一緒、というのも不安なところなんだよなぁ。)

(ワレと一緒のどこが不安なのじゃ?)

(エレナ様と一緒だと”絶対に”面倒なことに巻き込まれるじゃないですか。今までだって、崖から落ちるわ、麗華さんに絡まれるわ、車ごと狙われるわ、この短期間に3回もですよ。それに、修学旅行は東京シールドの外に出るから、いつもより危険な目にあいそうな気もするし。)

(何を言っておるのじゃ。そうそう事件なんぞおきはせんのじゃ。)

(だといいんですけど。)


(でも、樹君が短期間に3回も厄介事に巻き込まれたのは、確かに不幸としか言えないよね。)

(待つのじゃ美姫。樹が崖から落ちたのはワレらと出会う前ではなかったかのう?)

(言われてみるとそうですね。)

(危うくワレらのせいにされるところじゃったのう。)

(あの場所にエレナ様もいたんですから、僕が崖から落ちたのはエレナ様の影響力を受けたせいではないか、と考えられなくもないと思いますけど。)

(なんじゃと!持って回った言い方で屁理屈を言いおって。)


(普通科の生徒と一緒、というのが不安なのは分からなくもないけれど、魔法科の生徒も少なくとも1人は一緒だから、少しは安心だと思うよ。)


 不穏な空気を感じ取った美姫さんが話を元に戻した。


(魔法科は男女2人で選ばれるから、美姫さんと同じ班になれたりしないかな?美姫さん以外の女子とはあまり話をしたことがないし、全員知らない人と組になって修学旅行中一緒に行動するだけで気疲れしそうだし。)

(私も同じ学級で気兼ねなく話をできる男子は樹君だけだから同じ班になれたら、と思っているの。でも、くじ引きで決めるみたいだから、運を天に任せるしかないんじゃない?)

(ここにエレナ様って言う天界からきた神様がいるから、運を天に任せるってことはエレナ様に任せるってことであって――――)

(今のワレは何もできんぞ。)


 お願いをする前から即断だった。


(そうよ。エレナ様にもできないことくらいあるって、前にも言われてたじゃない。それに、今まで助けてもらってきたんだから、私はそれだけで十分。)

(美姫はええ子じゃのう。)


(でも、確率操作くらいだったらできるのではないか、と期待したんですが。)

(本来の姿に戻れば可能なのじゃが、今のワレは美姫の魂と結合しておる状態じゃからのう。物理現象を捻じ曲げるような力は使えないのじゃ。)

(そうなんですか?)

(なんじゃ、その怪しそうな感じを醸しだした言いようは。)

(最近エレナ様が神様だって信じられなくなってきたので、ここらへんで奇跡でも起こして信用させてくれるのかと期待したんですが、はずれですね。)

(ぐぬぬぬ。そこまで言われたらワレも黙ってはおれんのう。樹、覚えておくのじゃ。)


(期待できるんだろうか?)

(樹君、この前エレナ様に腕を折られたのに懲りないね。)

(学生寮に入ってから、鍛錬と称して何度も気絶させられてるから、最近は痛みに鈍感になってきたのかな。腕を折られるくらいじゃ、どうってことないような気もしてきたんだ。)

(それって良くない傾向だよ。)

(痛みを我慢できれば、たとえ怪我をしていても美姫さんを守れるようになるし、悪くはないと思うけど。)

(でも、痛いのは嫌なんだよね?痛いのが快感だとか言われたら、私困る。)

(僕だって痛いのは嫌だよ。さすがに痛みを快感と感じるような性癖はないから、安心して。)

(良かった。期待外れとまで言われて、『覚えておくのじゃ』で済ませられるんだから、何だかんだ言って、樹君はエレナ様に気に入られてるんだと思うよ。)

(どうだろう?)

(きっとそうよ。)

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