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竜の女王  作者: M.D
2173年春
517/688

09

 ペンドラゴン家の邸宅に入ると、リリーナさんが出迎えに出てきてくれていた。


「当家の者が失礼をして申し訳なかったわね。」

「いえ、厳重警戒されているようですから仕方ありません。それで、何が起きたのでしょうか?」

「それはジョージがいる部屋で説明するわ。」

「分かりました。」


 案内された部屋に入ると、ジョージさんだけが待っていた。


「美姫、樹、よく来てくれた。陽菜も来てくれたのか。」

「はい。今夜は2人の部屋に泊まっておりましたので。私は席を外した方が宜しいでしょか?」

「いや、その必要はない。3人とも座ってくれ。」

「はい。」


 席に座ると侍女がお茶を持ってきて、その侍女が部屋を出ると、


「起こった現象だけを端的に言うわね。当家に封印されていた吸血鬼がいなくなったわ。」


 予想だにしなかった単語がリリーさんの口から飛び出した。


「吸血鬼!?」

「そうよ。大昔、欧州を恐怖に陥れていたダービルという吸血鬼をペンドラゴン家のご先祖様が打ち倒すことに成功したの。でも、滅することはできなかったから、秘かに屋敷の地下に封印したのが始まり。それ以来、私たちペンドラゴン家は代々、ダービルを滅することのできる力を持った魔法使いが現れるのを待ちながら、封印が解かれないよう守ってきたのよ。」


 リリーナさんが吸血鬼とペンドラゴン家の関係を手短に説明してくれる。


「その封印が破られて吸血鬼が逃げ出した、と。」

「えぇ。私たちの結婚式の警備に人員を割いたため当家の警備が手薄になったところを狙われた、というのがお母様の見立てよ。」

「そうなると、計画的な犯行と考えられますね。」

「そのとおりよ。ダービルは滅せられないまでも棺桶の中に封印されて無力化されていたら、自ら封印を解くことはできないわ。だから、警備が手薄になる結婚式の日を狙って封印を解いた者がいるのよ。」

「手薄になったとはいえ、警備はしっかりとされていたんですよね?」

「勿論よ。封印の部屋の警備を担当する魔法使いは上級に手が届こうかという中級魔法使いだったし、やすやすと封印を解かれるとは思えないわ。」


 だったら、考えられる犯人は1人だ。


「その警備を担当していた魔法使いが封印を解いた、とか?」

「それはない。なぜなら、血を吸われて干からびた姿で見つかったからだ。」

「!?」


 僕の問いにジョージさんが答えた。


「おそらく、ダービルは封印が解かれた後、その者の血を吸って力を回復させたのだろう。」

「ダービルは封印を解いた者の血は吸わなかったのでしょうか?」

「それは分からん。しかし、封印を解いた者は後のことも考えていただろうから、血を吸われないような準備はしていたのだろう。」

「成程。」


(エレナ様とグレンさんはどう思われますか?)


 リリーナさんとジョージさんの話を聞いて、捜査の知恵を借りようと思ったのだが、


(人間が長年、吸血鬼を封印しておったとは興味深いのう。)

(さらに、滅することができなかったところを鑑みると、ダービルは真祖の吸血鬼だったのでしょうな。)

(そうじゃろうのう。そのような者が復活したのなら、会って話してみたいものじゃ。)


 2人は吸血鬼の方に興味を持ったようだ。


(いや、そんな呑気な話ではなくてですね、、、)

(そうです。真祖の吸血鬼ならば下級悪魔と同等の強さを持っているのですから、早く見つけないと多くの犠牲者が出てしまうかもしれないじゃないですか。)

(『急いては事を仕損じる』と言うじゃろう。そう急かすでないのじゃ。)

(そうですな。まだ何も分かっていない状況ですから、まずは現場を見ることから始めましょうかな。)

(了解。)


「ここで議論をしていてもこれ以上の案は出てこないと思うので、取りあえず現場を見てみたいですね。」

「・・・今更だけれど、それって、いなくなったダービルを探すのを協力してくれる、ということかしら?」


 リリーナさんが確認の意味を込めて問うと、


「吸血鬼捜索への協力だなんて危険すぎます!」


 即座に陽菜さんは反対した。


「陽菜、それは重々承知よ。でも、今は戦力が少しでも欲しいの。」

「そうだ。それに、美姫と樹は悪魔との交戦経験もあって、上級魔法使いに昇格することが確定している。申し訳ないが、そのような戦力が近くにいるのに遊ばせておく余裕がペンドラゴン家やロンドン魔法軍にはないのだ。」

「しかし――――」


「分かりました。協力させて頂きます。」

「美姫さん!」


 自分の発言を遮って協力の意を示した美姫に陽菜さんが非難の声を上げる。


「私たちが力になれるかどうか分かりませんが、止めることができるのに傍観していることは吸血鬼の手助けをしていることと同じですから、許されないことだと思います。」

「同感。僕たちがロンドンに来たのも何かの縁なのでしょう。一刻も早い問題解決に尽力させて頂きます。」

「樹君まで、、、」


「美姫、樹、ありがとう!」

「協力感謝する。」


 リリーナさんとジョージさんの要請を受け入れた美姫と僕に対し、


「しかし、美姫さんと樹君は東京魔法軍の軍人なのよ。個人としての行動だったとしても、勝手にペンドラゴン家やロンドン魔法軍に協力したら軍規違反になるわ。」


 陽菜さんは尚も食い下がる。


「・・・陽菜さん、私は独立小隊の隊長で、雄平大将閣下から独自の判断で動くことを許可されています。」

「だとしても――――」

「私は陽菜さんよりも軍の階級が上ですから、どうしてもと言われるのなら、命令をせざるを得ません。」

「それは卑怯よ。」

「私も陽菜さんに命令はしたくありませんが、私たちの護衛担当である陽菜さんの立場を悪くしないためには致し方ありません。」

「・・・分かったわ。そのかわり、私もついていきます。」

「危険ですよ?」

「美姫さんと樹君の護衛は私の役割なのだし、2人だけに行かせることはできないわ。」

「分かりました。お願いします。」


 しかし、最終的には美姫の説得に陽菜さんが折れる形になった。


「陽菜も巻き込んでしまってすまないな。」

「いえ、ペンドラゴン家を助けることは、ジョージさんのためにもなりますから、気にしないで下さい。」


 見つめ合うジョージさんと陽菜さんだったが、


「・・・花嫁の前でいい雰囲気になるなんて、2人ともいい度胸ね。」

「そ、そんなことはないぞ。」

「そうです。リリーナさんは気にしすぎです。」


 キレ気味に言ったリリーナさんに慌てて釈明したのだった。

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