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『皆様、当機は只今ヒースロー空港に着陸致しました。現在の時刻は16時丁度。定刻通りの到着となります。当地の気温は摂氏15度でございます。――――』
ヒースロー空港に着陸し、機内アナウンスが流れた。
(無事に到着できて良かったね。)
(同感。エレナ様やグレンさんが余計なことを言いだしたときには、どうなることやらと不安になったけど、何事もなくて良かった。)
(ワレとしては空亀との遭遇戦をしてみたかったのじゃがのう。)
(そうですな。美姫さんと樹君のかっこいいところを見てみたい、と思っていたのですがな。)
(グレンさん、飲み会の席でのノリみたいに言わないで下さい。)
飛行機を降りた後、入国審査を受け、荷物を取り出して進路を進むと、ロンドン駐在武官である陽菜さんが待っていた。
(ん?あれは・・・)
その横に見知った顔を見つけ、
「Miki! I love y うがっ!」
チラリと僕の方を見た後、美姫への愛をほざきながら駆けて来ようとしたジョージさんの首根っこを横にいる女性が掴んで止めさせた。
「リリーナ、何をするんだ?」
「明日にも共に結婚式を行う女性が隣にいるというのに、他の女性への愛を叫ぶなどあり得ないわ!」
「美姫は別腹――――」
「〇ね!」
「ぐはっ!」
リリーナさんの裏拳が炸裂した。
(あの人がジョージさんのお相手のリリーナさんみたいね。)
(きつい感じがするけれど、綺麗な人だ。)
(ジョージさんは論外として、隣に私がいるというのに他の女性に気を散らす樹もどうかと思うよ。)
(謝罪。。。)
(樹は女心が分かっておらんのう。)
(全くですな。)
単に感想を言っただけなのに、この責められよう。解せぬ。
「美姫大尉殿、樹中尉殿、お久しぶりであります。」
「お久しぶりです。というか、陽菜さんに畏まられると変な感じなので普通に話して下さい。」
「一応、軍の階級としては2人の方が上だから公式の場ではあれが普通なのよ。でも、私も堅苦しいのは嫌いだから、普段は楽に話させてもらうことにするわ。」
陽菜さんと挨拶を交わしながら、言い争いをする2人を横目で見る。
「あの御二人はいつもあんな感じだから、気にしないほうがいいわよ。」
「そうなのですか?仲がよろしいのですね。」
「「どこが!?」」
美姫に反論したジョージさんとリリーナさんが綺麗にハモった。
「喧嘩するほど仲がいい、と言いますから。」
「ジョージとは政略結婚で、私としては優秀な遺伝子さえもらえれば良いのですから、仲よくする理由なんてないわ。」
「そんなことを言って、『私のお婿さんはジョージじゃなきゃ嫌なの!』とか我儘を言っていたのは、どこの誰さんなのだろう?」
「むっきー。それは過去の汚点よ。早く忘れなさい!」
「俺は記憶力が良いから、それは無理だな。」
「だったら、――――」
またしても言い争いを始めた2人には呆れるばかりだ。
「ここで立ち話をしていても時間の無駄ですから、アフタヌーンティーを用意していますので、ホテルにチェックインした後でお店に向かいましょう。」
「ありがとうございます。ロンドンに来たからには体験したいと思っていたんです。」
「それは良かったわ。早速行きましょうか。」
「はい。」
「ジョージ様、リリーナ様、我々はここで失礼致します。」
陽菜さんがジョージさんとリリーナさんに一言告げると、
「・・・もう行ってしまうのか?」
ジョージさんは寂しそうな顔になった。
「はい。御二人もこの後のご予定が詰まっているのではありませんか?」
「そうなのだが、折角、美姫に会えたというのに、リリーナのせいでろくに話もできなかったからな。」
「何ですって!」
「美姫も樹も俺たちの結婚式のために遠くからロンドンまで来てくれてありがとう。」
ジョージさんはリリーナさんを制して感謝の言葉を紡いだ。
「結婚式に招待頂きありがとうございました。また、空港まで来て頂いたのにお礼もしておらず申し訳ありませんでした。」
「いいんだよ。リリーナが俺に突っかかってきたせいだから。」
「だから、どうして私のせいになるわけ?」
(ジョージさんはいちいちリリーナさんを煽るようなこと言う。)
(リリーナさんも毎回それに素直に反応するよね。)
「リリーナは抑えておくから3人はもう行ってくれ。では、また明日。」
「はい。失礼致します。」
ジョージさんとリリーナさんを残して、僕たちは駐車場へ向かった。
「あれで良かったんでしょうか?」
「良かったんじゃないかしら。ジョージ様とリリーナ様は結婚式の前日でご多忙だから、時間を使わせる方が悪いわ。」
「そうですね。」
「それに、元々出迎えは私1人の予定だったところに、直前になって御二人がいらしたところを鑑みると、美姫さんの顔を見たかっただけだと思うから。」
「ジョージさんはともかくリリーナさんまで美姫を見に来る必要はないような気がします、、、」
「結婚相手が好意を寄せる女性を気にするのは当然よ。樹君もこのくらいは思い至るべきじゃないかしら?」
(樹は女心が分かっておらんのう。)
(全くですな。)
またしてもエレナ様とグレンさんに責められてしまった。




