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竜の女王  作者: M.D
2173年春
510/688

02

 午前10時50分。僕たちが搭乗した飛行機が動き出し、


『皆様、当機は間もなく離陸致します。シートベルトを今一度ご確認下さい。』


 機内にアナウンスが流れた。


「いよいよ出発か。途中、烏魯木斉ウルムチで給油するんだっけ?」

「そうよ。専用機だったら補助燃料をつけて北極圏周りでロンドンまで直行するんだろうけれど、GUAL(Global Union Air Line、地球連邦航空公社)の東アジア-ヨーロッパ間の便はほとんど烏魯木斉で給油するみたい。そのために、各都市国家が魔法使いを出し合って烏魯木斉を魔獣、特に空亀から守っているのよ。」

「北極圏周りだったらオーロラを見れたかもしれないのに残念。」

「昼に東京を出発するとロンドンまでずっと昼間だから、北極圏周りだったとしてもオーロラは見えないと思うよ。」

「だったら烏魯木斉経由でもいいけど、ロンドンに着いたら東京時間ではもう深夜だから美姫はすぐに寝てしまいそうだ。」

「また私のことを子供みたいってバカにしてる。お昼寝すれば起きてられるから大丈夫よ。ふんだ。」


 お昼寝する、とか言っている時点でお子ちゃまっぽいと思っていると、


 ゴー!!


 エンジンが唸りをあげる音が聞こえて飛行機が動き出し、体に加速度がかかった後、フワッと浮き上がる感じがした。


「離陸経験は2回目だけれど、まだ緊張するね。」 

「同感。お尻の辺りがゾワッっとなったような感覚にも慣れそうにもない。」

「ふふふ。前も同じこと言ってたよね。」


 離陸直後の座席の背もたれに若干押し付けられるような感覚から、飛行機が機首を上げて急上昇しているのが分かる。


「飛行機に乗って上昇する時と、魔導飛行で上昇する時とでは感じられ方が全然違う気がする。」

「そうね。どちらかというと、魔導飛行で上昇する時の方が安心かな。」

「同感。未だに金属でできた飛行機が空を飛ぶことに対して、理論的には理解できていても感覚としての違和感が消せないから。」


 ポンッ


 しばらくしてシートベルト着用の警告灯が消えた後、


『皆様、本日も地球連邦航空公社をご利用頂きありがとうございます。機長の鈴木です。当機は定刻どおり東京空港を離陸し、現在水平飛行に入っております。――――』


 機長のアナウンスがあり、


「さて、水平飛行に移ったことだし、通信室に行きましょう。」

「了解。」


 シートベルトを外して美姫と通信室に向かう。


「上空の状況はどうでしょうか?」


 状況を聞くと、通信使が僕たちの方を振り返った。


「今のところは周辺に魔獣はいないようです。これも”空鮫の撃墜王”が精力的に東京周辺の魔獣を狩って下さっているおかげです。東京周辺は魔獣がいなくて安心だ、と他の都市国家の軍部でも評判ですから。」

「あんな大和大佐でも他の都市国家の評判はいいんですね。」

「二つ名を与えられるくらいだから当然じゃない?」

「御二人は大和大佐に魔導飛行を習っていらっしゃるとか。頼もしい限りです。」

「ご期待に添えるよう頑張ります。」


 そうは言ったものの、初めてで緊張が顔に出ていたのだろう。


「そのように気を張って頂かなくても大丈夫ですよ。」


 通信使が僕たちに朗らかに告げた。


「??」

「そういえば、御二人は陸上を飛ぶのは初めてだったのでしたね。ご存じだとは思いますが、空亀は空鮫と違って好戦的ではありませんので、我々が進路を妨害をしたり攻撃したりして空亀を怒らせなければ襲ってくることはまずありません。」

「それでも憤怒状態の空亀と鉢合せしたら危険なことには変わりないのではないですか?」

「そうなのですが、空亀の甲羅にある線の色を見れば怒っているかどうか分かりますし、警戒状態や憤怒状態の空亀を見つけたら、気付かれないよう我々が大きく迂回すればいいだけのことです。」

「そうでした。」


(空亀の甲羅にある線の色は、通常状態が緑色、警戒状態が黄色、憤怒状態が赤色なのは忘れてないないよね?)

(肯定。授業で習ったときに、まるで信号機みたいだ、と思ったのを覚えてる。)

(皆そう思うよね。)


(でも、空亀を怒らせないように迂回すればよいのだったら、各都市国家が魔法使いを出し合って烏魯木斉を守る必要なんてなくない?)

(空亀は時々地上に降りてくるらしいよ。そして、空亀は巨大だから降りてくる時や地上を移動している時の進路と烏魯木斉が重なることがままあるんだって。烏魯木斉は動かせないから、魔法使いが空亀から烏魯木斉を守るしかないみたい。)

(成程。)

(そうなった時も空亀を怒らせずに進路を変えさせる方法は確立されているらしいから、烏魯木斉にいる魔法使いも昔ほどは多くないんだって。)

(だったら、安心。)


 現在においては、空亀は厄介ではあるが脅威ではない。


「魔獣への対処のために随行の飛行魔法使いの方に搭乗頂いていますが、この空路には空亀以外に危険な魔獣はほとんどいませんから、御二人は気楽にして頂いて問題ないと思います。」

「了解です。」

「では、私たちは席で待っていることにします。」

「そうして下さい。魔獣を発見しましたら連絡します。」

「お願いします。」


(美姫と交代で通信室に詰める予定だったけど、のんびりしていていいなんて幸運。)

(樹がそんなことを言うと、空亀と会遇しそうじゃのう。)

(そうですな。樹君は巻き込まれ体質ですからな。)

(エレナ様もグレンさんも不吉なことを言わないで下さい。不安になるじゃないですか。)

(そうですよ。もし本当に空亀と出会ってしまったらどうするんですか?)

(ワレとグレンがおるのじゃから、心配する必要はないのじゃ。)

(それに、空亀との遭遇戦も一興ですしな。)


 グレンさんが怖いことを言うが、途中で通常状態の空亀を発見したものの迂回に成功し、烏魯木斉を出てから鳥の魔獣を1回排除しただけで、ロンドンまで辿り着くことができたのだった。

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