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竜の女王  作者: M.D
幕間2
51/688

02

「お待たせ。」


 百合子さんが戻ってきた。


「待ってませんけど。」

「樹は待ってくれていたわよね?」

「えぇ、まぁ、、、」


 ゴン!ゴン!


(痛い、痛い。美姫さん、足を蹴らないで下さい。)

(なによ、もう。)

(これって百合子さんの言うことを否定しないたびに回数が増えていくとか?)

(どうかなー?)


「樹はもう食べ終わってたの?だったら、私のポテト食べる?はい、あーん。」


 百合子さんがポテトにケチャップをつけて差し出してくる。


「いや、いいです。」

「そう?つれないわね。」


「百合子さんも留学を目指しているんだったら、こんなところにいないで寮で勉強でもしていた方がいいんじゃないですか?」

「大丈夫よ。大学の入学試験くらいだったら合格できるから。それに、息抜きも必要でしょう?」

「すごい自信ですね。」

「あれ?知らなかった?私、成績は中学からずっと1番よ。」


(何が『 成績は中学からずっと1番よ』よ。私たちは高校から編入してるんだから、そんなこと知らないよ。)

(美姫さん、落ち着いて。)


「でも、中学からずっと1番だったんなら、どうして飛び級して大学に行かなかったんですか?まさか、去年は落ちたとか。百合子さんに限ってそんなことはないですよね。」

「そうなの。去年は今一歩及ばなかったのよ。」

「本当なんですか?」

「えぇ。でもそのおかげで樹と巡り会えたんだから、運命を感じるわ。神様のお導きかしら。」


(神様、ってエレナ様?)

(エレナ様、そんなことしてないですよね?)

(残念ながら今のワレにそんな力はないのじゃ。)

(そうですよね。)


「そんなことないと思いますけど。」

「でも、私は樹と巡り会えたのには意味があると思っているわ。」

「そうですか。百合子さんがどう思おうと私には関係ありませんが。」


「百合子さんは何処に留学するつもりなんですか?」

「私が目指しているのはヒューストン大学のロジャー・デイビス教授っていうじじぃの研究室で、ロジャー教授は魔法使い研究の第一人者。でも、あのじじぃ、学生は毎年一人しか採らないのよ。それで、入学試験の後に候補者を絞るための小論文と面接があって、残念ながら去年は面接の段階で落とされてしまったの。」

「面接で余計なことを言ったんじゃないんですか?」

「面接が始まる前に私のことを舐めまわすように見てきたから、『この、クソエロじじぃが』って呟いたのを聞かれてしまったわね。どんだけ地獄耳なんだか。」

「それで面接に落ちたんですね。」

「違うわ。その直後に『いい!君、合格!』って言われたんだけど、臨席していた准教授にたしなめられて、そのあとは普通に面接をしたのよ。ちゃんと受け答えはできたと思っているから、私よりも優秀な論文を書いた学生がいたんでしょうね。」


「天才と変人は紙一重、って言いますけど、ロジャー教授も例にもれず、という感じですか。」

「そうね。でも、前にも話したように私は魔法使いと普通の人を区別するものについて研究したいと思っているから、ロジャー教授の下で研究するのが一番なのよ。それで、去年書いた小論文は今まで私なりに考察してきた結果をまとめたものだったんだけど、ダメだったの。

 でも、ロジャー教授から、『もう少し別の視点からも考察を進めれば良い論文になる』って面接で言われたから、今年は視点を変えた考察について追記して小論文を提出しようと思っているの。」

「それと、樹君と出会えたことと、どう関係するんですか?」

「分からないかしら?樹みたいに高校生になる直前に突然魔法使いの能力が発現した例を私は知らないわ。つまり、樹は私が今まで考察してきた内容から逸脱した存在で、樹についていろいろ調べれば別の視点から研究を進められるのではないかと思ったのよ。これが、樹と巡り会えたのには意味があると思っている理由ね。」


「ロジャー教授ってすごい人なんですか?」

「魔法の腕輪への適性が7~8割は母親から受け継がれる、という話は知ってるわよね?」

「はい。」

「それを矛盾なく説明できる仮説を提唱したのがロジャー教授なのよ。」

「すごいじゃないですか。」


「どんな仮説なんですか?」

「順を追って説明するわね。過去には母親からのみ受け継がれるミトコンドリアに起因するのではないかってことで、研究が進められていたことがあったのよ。」

「でも、それは間違いだった、ということですか?」

「その通りよ。魔法使いと普通の人のミトコンドリアの遺伝子を調べてみても違いは見つけられなかったのよ。それで、細胞内の他の組織が原因ではないか、と考えて研究を行う人達と、核DNAとミトコンドリアDNAの相互作用が原因ではないか、と考えて研究を行う人達の2つの勢力が主流派となっていったの。」

「急に難しくなりましたね。」

「研究ってそんなものよ。深くなれば普通の人には理解してもらえなくなるものだから。」

「そんなものですか。」


「そして、そこに一石を投じたのがロジャー教授。ロジャー教授は、魔法使いの女性が24,5歳になる前に生んだ子供が魔法使いになる確率が極端に低いことから、魔法の腕輪への適性が7~8割は母親から受け継がれる、というのは、胎児が育つ過程で母体から受ける影響も要因の1つではないか、という内容の論文を発表したのよ。」

「純一先生の補講でも、そういうような説が有力だって言ってたことを思い出しました。」

「有名な話だからね。それで、今は胎児が母体からどのような影響を受けているのか調べる研究が主流を形成しているわ。ホルモンの影響だというのがその中でも有力ね。」


「ロジャー教授ってすごい教授なんですね。」

「まぁね。ロジャー教授は趣味で魔法使いの歴史についても研究しているから、ロジャー研究室に所属していると言えば、一介の学生では見ることができないような歴史資料や研究物を見せてくれたりすることがあるくらい影響力もあるわ。」

「そんな教授の研究室に入ろうとしているだったら、百合子さんが飛び級で大学に入学できなかった理由にも納得がいきますね。」

「私のこと見直した?」

「えぇ、まぁ、、、」


 ゴン!ゴン!ゴン!


(美姫さん、勘弁して下さい。)

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