01
「美沙と聡に会うのは久しぶりだね。」
「肯定。2人とも魔法軍の演習場でずっと初期研修していて会えなかったから。」
今日はファミレスで東京シールド内に戻ってきた2人と会う予定だ。
「「お疲れ様です、大尉殿、中尉殿。」」
ファミレスの個室に入ると、先に来ていた美沙と聡が敬礼して僕たちを迎えた。
「ちょっと美沙、今日は友人として会いに来たんだから、軍の階級で呼ぶのは止めて。」
「それは上官命令でありますか?」
「だから、止めてってば。」
「ふふふ。冗談よ。ちょっとからかってみただけ。」
「2人とも早めに来てたんだ。」
「大尉殿と中尉殿を待たせるわけにはいきませんので、当然であります。」
「聡も止めれ。」
「初期研修で上官に対する態度について散々教え込まれたから、癖になってしまったんだよ。」
「嘘つけ。」
「バレたか。ハハハ。」
冗談を言い合った後、席について注文し、互いに近況を話す。
「・・・へぇ、初期研修ってそんなに大変だったのか。」
「軍の厳しさを嫌という程叩き込まれて、毎日肉体的にも精神的にも一杯一杯だったんだ。」
「本当にそうよね。もう2度とやりたくないわ。」
「でも、そのおかげか2人とも精悍な顔つきになったように見える。」
「体重も落ちたんじゃない?」
「あぁ、俺は5kgも減った。美沙も――――」
「女性に体重と年齢の話題を振るのはご法度よ。ふふふ。」
聡の言葉に被せて笑いながら言う美沙だったが、目は笑っていない。
「そう考えると、大学に進学した私たちは恵まれてるね。」
「魔導翼の使い方を教えてくれるのが大和大佐じゃなかったら尚良かったんだけど。」
「”空鮫の撃墜王”に教えてもらえるなんて光栄なことよ。」
「そうだぞ。望んでもそんな機会が与えられることは滅多にないんだからな。」
「だったら、2人とも魔導翼に適性があったら一緒に鍛錬できるよう大和大佐に頼んであげる。」
「賛成。一緒に第一小隊との模擬戦でボコボコにされよう。」
「・・・私たちは魔導翼の適性検査はこれからだけれど、来週にも所属部隊が決まって配属になるから、残念ながら2人と一緒に鍛錬は出来そうにないわ。」
「それに、俺は遺伝的に魔導翼に適性はなさそうだから、魔導翼に適性があった2人が羨ましい。」
美沙と聡は全然残念とか羨ましいとか思っていない口調だった。
「2人はどこの部隊に配属になるのか、もう知っているの?」
「私はまだ知らされていないわ。」
「俺もまだ知らされていないけれど、治安維持軍の魔物警邏隊だろうと思っている。」
「魔物警邏隊に配属されて警邏中に魔物と遭遇して危険を感じたら、可能な限り助けに行くから僕たちに連絡してほしい。」
「樹の言うとおり、東京シールド周辺だったら直ぐに飛んでいけるから、魔物の討伐に協力できるよ。」
「そういえば、美姫さんと樹は独立小隊の隊長と副隊長で、独自の判断で動くことを許可されているのだったわね。」
「それに、もう大尉と中尉だぞ。このままいくと、史上最年少の少佐が誕生するのは間違いないな。」
「10代で少佐だなんて、異例中の異例ね。魔法使い御三家本家筋のボンボンたちでもそこまで早く階級が上がることはないのに。」
「そのせいで、やっかみとかも多くて嫌になるよ。」
「同感。僕なんて、実力もないくせに美姫の腰巾着だから階級を上げてもらっている、という陰口を聞こえるように言われたこともあるし。」
「東大附属高校魔法科は士官学校も兼ねていることになっているから、俺たちが入隊後に准尉に任官されるのも一般の兵からは良く思われていないのに、2人はそれ以上だから、反発する者は多そうだな。」
「でも、美姫さんと樹君なら実力で黙らせられると思っているわ。」
「そのためにも結果を出し続けないといけないのよね。」
「東大に進学できたのに、軍関係で功績を上げろ、とか勘弁してほしい。」
「そうなのか?2人だったら簡単なことだと思うが。最近だって、上尾愛を救い出したり、黒龍会の拠点を割り出したりしてただろ?」
聡は、訳が分からん、という表情だ。
「あれは偶々上手くいったのよ。」
「肯定。結構ギリギリだったから、あれが簡単なことだと思われると困る。」
「そうなの?上尾愛が誘拐されることを事前に察知した美姫さんと樹君が野外ライブ会場に潜入して、攫いにきた魔法使いを撃退した、って噂だったけれど違うのかしら?」
「それに、樹は2人組の魔法使いの内の1人を生け捕りにすることに成功して、美姫さんは尋問に苦戦していたところを簡単に成功して黒龍会の拠点を割り出した、って聞いたぞ。」
「全部、大嘘よ。」
「同意。誇張されすぎ。僕は魔法使いから逃げていただけで、生け捕りにしたのは大和大佐だから。」
「そうだったんだ。美姫さんと樹君の言うとおりだったとしたら、魔法軍が宣伝のために大袈裟な話題にしたのかもね。」
「だとしても凄いことだから、同級生だった俺たちとしては誇らしい。」
「そうね。でも、そうだとすると、2人は上尾愛と知り合いだったのかしら?最前列正面は非売品の関係者用だったはずだから、2人がそのチケットを入手できたのなら上尾愛かその関係者から入手するしかいないはずなのよ。」
「そうだな。倍率が高くて俺も応募したけど落選したし、潜入するのなら確実にチケットを手に入れる必要がある。」
美沙と聡の目が怪しげなものに変わった。
「・・・知り合いといえば知り合いかな?」
「黙秘。」
「上官殿、そこを何とか教えてほしいであります。」
「そうであります。というか、吐け!俺も上尾愛に会わせてくれ!」
聡が身を乗り出して僕を揺さぶる。
「無理。」
「そうよ。上尾愛さんも面が割れて普段の生活に影響が出るのは嫌らしいの。」
「だったら、ライブのチケットで手をうつわ。それならいいでしょ?」
「おぅ。俺もそれなら文句はない。」
「・・・分かった。頼んでみるよ。」
「「やった!」」
美沙と聡は満面の笑みでハモった。




