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さらに翌週、魔法軍本部司令長官室にて、
「本日をもって魔法軍司令長官直属の独立小隊を新設し、美姫中尉を大尉に昇進させ同小隊長に、樹少尉を中尉に昇進させ同副小隊長に任命する。」
「「拝命致します。」」
雄平大将が辞令を読み上げると、僕たちが持つ情報端末に辞令が送信され、表示される。
「今までは2人は形式として魔法軍参謀本部の所属だったが、これからは正式に私の直属となり、美姫大尉には独自の判断で動くことを許可しよう。更に、私への報告は事後でも良いから、必要だと判断したときには魔法の腕輪や補助具の持ち出しも許可する。」
「了解しました。」
(和香も独立小隊の所属になって、今のところ隊員は3人か。)
(必要であれば増員してくれるらしいし、なんか待遇が良くなりすぎて怖いよね。)
「2人ともよくやってくれた。」
儀式が終わった後、促されて来客用の席に座ると、雄平大将は破顔して言った。
「身柄を拘束した黒龍会の魔法使いである晋造元少尉は以前に魔法軍に所属していたのだが、統合参謀本部の連中に晋造元少尉を引き渡す前に情報を引き出せたことで、我々の面子を保てて助かったよ。」
(『麻由美元大将閣下に引き上げられた”銃剣系”の将官の多くが魔法軍外に出されてしまった』と花梨中佐から聞いていたけれど、その内で統合参謀本部にいった人たちが現魔法軍幹部の失点をつこうとしたみたい。)
(その統合参謀本部にいる”銃剣系”の将官からの横やりを”銃剣系”の美姫と僕が防いだのだから、”大砲系”の雄平大将としては、仲間内でつぶしあった感があって喜びもひとしおなのかも。)
(でしょうね。お義母様からは何も言われなかったけれど、”銃剣系”の私たちとしてはモヤっとした気持ちになるよ。)
(同感。)
「それ程功績をあげた訳でもないのに昇進させて頂けるのは心苦しいです。」
「それに階級の上がり方が早すぎる気がします。」
「ハハハ。何を言っているんだ。樹中尉は晋造元少尉の捕縛に対して最も功績が大きく、美姫大尉は上尾愛さんを奪還し、尋問によって晋造元少尉から黒龍会の拠点の1つを聞き出した功績を魔法軍は大きく評価している。信賞必罰は武門のよって立つところだ。階級の上がり方を気にする必要はない。」
「承知しました。」
ここで否定しても意味がないので、素直に頷いておく。
「ところで、美姫大尉と樹中尉は黒龍会の拠点を急襲したときのことは聞いているか?」
「はい。もぬけの殻だったとか。」
「そうだ。美姫大尉が晋造元少尉から黒龍会の拠点を聞き出してすぐに大和大佐の判断で第一航空戦闘隊第一小隊が出動したわけだから、黒龍会の拠点を知る者は美姫大尉と樹中尉と第一小隊の隊員しかいない。それにもかかわらず、拠点には黒龍会に関する情報となりえるものは何もなかったそうだ。」
「つまり、魔法軍の中に他に黒龍会の構成員がいて情報を漏らしていると?」
「そうだ。2人と第一小隊の隊員以外は晋造元少尉を拘束したことを知っている者は少ないから、そのの中に黒龍会と通じている者がいるのだろう。」
(一昨年に真夏元中尉が黒龍会の構成員だと分かった時も魔法軍内部で調査が行われたのだけれど、巧妙に情報隠蔽されているのか全員シロだったのよね。)
(今回は対象者が絞り込まれているから詳細な調査をして見つかるといいのだけど、、、)
「捕らえられなかった真夏元中尉の行方はどうなのでしょうか?」
「そちらについては全く足取りを掴まえられていない。」
「一昨年と同様ですか。」
「あぁ、そうだ。真夏元中尉は魔法軍では実力を隠していたのだろう。魔法軍内部では、上級魔法使い程度の実力があると考えて対処するしかない、との意見でまとまりつつある。その真夏元中尉から上尾愛さんを奪還したのだから、美姫大尉の評価は魔法軍内部でもうなぎ上りだ。」
「そうですか、、、」
「そういうことだから、美姫大尉と樹中尉の今後の活躍に期待しているぞ。」
「「はっ。」」
雄平大将との話を終え、司令長官室を出ると、詩織大尉が立っていた。
「私たちを待って下さっていたのですか?」
「えぇ、2人が司令長官室を出てきたら直ぐに連れてくるよう大和大佐から言われたのよ。人使いが荒いったらありゃしないわ。それと、美姫”大尉”は私と同じ階級だけれど、小隊長なのだから私に畏まった言い方をする必要はないのよ。」
「しかし、年上の方にタメ口というのもどうかと、、、」
「美姫大尉は私のことをおばさんだと言いたい訳ね?」
「いえ、そんなことは、、、」
「冗談よ。美姫大尉の楽な話し方でいいわ。さぁ、行きましょう。遅れたら大和大佐に鍛錬の上乗せをされるわよ。」
「「はっ。」」
詩織大尉とともにいつもの鍛錬場所に向かうと、大和大佐がニコニコ顔で待っており、
「美姫大尉は小隊長に、樹中尉は副小隊長になったことだし、これからは小隊運用の鍛錬も2人には必要だから、今日は手始めとして小隊同士の模擬戦をしよう。ガッハッハッ。」
と、ご無体なことを言い出し、遅れてもないのに問答無用で鍛錬の上乗せではきかない第一小隊との模擬戦をさせられ、もちろんボコボコにされたのだった。




