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竜の女王  作者: M.D
2173年冬
502/688

30

 翌週、鍛錬のために魔法軍本部を訪れた際、沈んだ様子で歩いている詩織大尉を見つけた。


(あの様子を見るに、悩み事でもあるのかな?)

(捕縛した魔法使いは詩織大尉と同級生だったらしいから、そのことで考え込んでいるのかも。)

(その人って樹を追いかけて行った魔法使いよね?)

(肯定。とりあえず状況を聞いてみる。)


「詩織大尉、魔法使いの事情聴取はどうでしたでしょうか?」


 声をかけると、詩織大尉はハッとした表情で僕たちの方を見た。


「美姫中尉と樹少尉でしたか。今日は早いですね。晋造の事情聴取は上手くいっていません。」

「そうでしたか。宜しければ概況を教えて頂くことは可能でしょうか?」

「この件については美姫中尉も樹少尉も関係者であるわけですし、鍛錬までまだ時間があるようだから別室で説明しましょう。」

「お願いします。」


(事情聴取の結果を聞こうと思って魔法軍本部に早めに来て正解だった。)

(そうね。私も樹から話を聞いて気になっていたし。)


 空いている会議室に移動すると、詩織大尉は現状を説明してくれた。


「今のところ、晋造から黒龍会に関する有効な情報は引き出せていないわ。上尾愛さんを連れ去ろうとしたことについては認めるようになったのだけれど、黒龍会のことになると『知らない』とか『話せない』と言って口を噤んでしまうの。」

「成程。」

「このままだと埒が明かないと判断されて、明日にも統合参謀本部の公安部に引き渡されてしまうのよ。そうなったら自白剤を使ったりして強引に聞き出そうとするだろうから、晋造の精神が壊れてしまうわ。」


 そう言って、詩織大尉は顔をしかめる。


(それで沈んだ様子だったのね。)

(詩織大尉が辛い気持ちになるも分かる。)

(上尾愛が魔法使いに連れ去られるところを多くの人に目撃されているし、国防軍としては何としても事件を解決しないと魔法使いに対する風当たりが強くなるから、統合参謀本部が解決に乗り出してきたのよ。)

(今まで情報を引き出せないでいる詩織大尉としても苦しい立場なんだろう。)

(私も関わっていて手助けしたいと思うから、情報を整理するために詳しく聞いてみない?)

(同意。)


「いくつか質問させて頂いて良いでしょうか?」

「いいわよ。今の手詰まり状態を打開する糸口になるかもしれないから、何でも聞いて頂戴。」


「まずは、上尾愛を連れ去ろうとした理由については何と言っているのでしょうか?」

「それについては、『自分は妨害してくる魔法使いの排除が役割で、拉致の目的については知らない』とのことよ。」

「そうですか。黒龍会は情報を必要最低限の魔法使いにしか伝えていないんですね。」

「えぇ、情報漏洩防止の基本よ。そう考えると、晋造は黒龍会にとって使い捨ての駒みたいなものだったのかもしれないわ。」


 詩織大尉は少し悲しそうに言った。


「それでは、私が追った魔法使いについては供述したのでしょうか?」

「最初は『知らない』と言っていたけれど、美姫中尉が言っていた真夏元中尉ではないのか、と問いただしたところ、『話せない』と言ったわ。」

「それは真夏元中尉だと言っているようなものですね。」

「えぇ、魔法軍でもそう考えているわ。だから、今回の件に黒龍会が絡んでいるのは確実ね。」


(であれば、真夏とやら以外にも黒龍会には悪魔入りの人間がおるのじゃろう。)

(そうなのですか?)

(真夏とやらの中にいるのは下級悪魔のようじゃからのう。晋造とやらに悪魔の呪いをかけることは不可能なのじゃ。)

(そうですね、、、でも、そんな組織が露見せずに存在しているのは大変なことですよ。知っていることを聞き出さないといけませんね。)


 美姫が詩織大尉に質問を続ける。


「魔導翼への適性がなかったにもかかわらず魔導飛行ができるようになった理由については話をしたのでしょうか?」

「『”あの方”に会って潜在能力を引き出してもらった』そうよ。『俺の能力を見抜けなかった魔法軍は無能ぞろいだ。それに比べて、俺に魔導飛行の能力があることを一瞬で看破した”あの方”は素晴らしい!』って、”あの方”なる人物に心酔している様子だったわ。」

「”あの方”って、明らかに怪しいですね。”あの方”については他に何か言っていましたでしょうか?」

「名前については『知らない』と言っているけれど、昔から知っていて直接会って会話したときには感動した、というような矛盾すること話しているから、名前を言えないように心理的操作を受けているのではないか、と魔法軍では解釈しているわ。」


「そうですか。魔導飛行についての潜在能力を引き出してもらったことについてはどうなのでしょうか?」

「嘘か誠か不明よ。そんなことできるとは私には思えないけれど、現に晋造は魔導飛行が出来ているのだから、大和大佐が言われるように『他の都市国家が保有する魔導翼にたまたま適性があった』ことを利用されたんじゃないかしら。」

「手品師や詐欺師のよく使う手ですね。」

「えぇ、そんなのに引っかかるなんて、晋造も情けないわ。はぁ、、、」


 詩織大尉は溜息をついた。


(普通に考えるとそうなのでしょうけれどな。)

(奴が悪魔の呪いを受けておることは追われているときにグレンが感じておるし、魔導飛行ができるようになったことついても悪魔の呪いによるものじゃろうのう。)


(つまり、”あの方”は中級悪魔以上と融合しているか契約している、ということか。)

(”あの方”とは誰なんだろうね。)

(昔から知っていたみたいだから結構な有名人なのは確かなんだろうけど、、、)


(それから、悪魔の呪いを受けた際に心理的操作もされたのでしょうな。)

(そうじゃろうのう。人間が耐えられる限度ギリギリまで精神エネルギーを増加させて精神を揺さぶり、出来た隙間に思考をねじ込んだり制限をかけたりしておるのじゃろう。悪魔の呪いの面白い使い方を思いつくのう。)

(ここはワシらが一肌脱いでやるべきかもしれませんな。)

(美姫と樹の妨害によって計画を崩されたことを恨んで報復に来るかもしれんから、先んじて叩いておいた方が良いかもしれんのう。)


(ということは、エレナ様とグレンさんが黒龍会について聞き出して下さるのでしょうか?)

(奴が知っている範囲でじゃが、美姫から聞き出せるようにしてやるのじゃ。)

(ありがとうございます!)


 エレナ様とグレンさんの協力を取り付け、美姫は俄然やる気になったようだ。

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