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「それでは上尾愛さんと美姫中尉はこちらへいらして下さい。」
魔法軍本部に着くと上尾愛と美姫は魔法軍の職員に案内されて、事情聴取を行う部屋に向かっていった。
「俺たちは捕まえた魔法使いの様子でも見に行くとするか。」
「了解。」
大和大佐と連れだって魔法使いが拘束されている場所に向かうと、何やら騒がしい。
「詩織大尉、どうした?状況を報告しろ。」
「はっ。部屋の中に監禁していた晋造が魔封錠を壊して逃げ出しましたので、再度捕まえて上級魔法使い用の魔封錠をつけて拘束したところであります。」
「報告は正確にしろ。逃げ出した魔法使いを拘束したのは士紋中佐だな?」
「はっ。申し訳ありません。」
「士紋中佐、手間をかけさせた。」
「いえ、小官のいる方へ逃げてきたため少々お手伝いをさせて頂いた程度ですので、お気遣い無用です。」
士紋中佐は大和大佐に笑顔で応じた。
「それで、再拘束した魔法使いはどうしている?」
大和大佐は詩織大尉に再び問う。
「はっ。士紋中佐の魔導盾による拘束から逃れようとした際に魔力を使い果たしたのか、ぐったりした様子です。」
「そうか。しかし、俺が上空で身柄を確保した時の感じからは、上級魔法使い用の魔封錠を必要とするような輩には見えなかったのだが。」
「小官も同意見です。昔から晋造は出来る方ではありましたが、魔封錠を壊されるとは想像だに出来ませんでした。」
「それに、詩織大尉を振り切って逃げられるとは思えん。」
「小官の不徳の致すところであります。」
「そのあたりの事情聴取は、魔法使いが回復してからだな。」
「はっ。警護の人数を増やして晋造が再度逃げ出すことがないよう万全を期します。」
大和大佐と詩織大尉が話をしている横で、士紋中佐が僕に話しかけてきた。
「今回は樹少尉のお手柄だったね。」
「大和大佐に報告するために追ってきた魔法使いから逃げていただけです。実際に魔法使いを捕まえたのは大和大佐ですし。」
「それでも、小官なら遠方に小隊の姿が見えた時点で追うのを諦めるが、あの魔法使いはついてきた、ということは、樹少尉が魔法使いを誘導したのだと小官は思うのだが、どうだろう?」
「食いついてくれるよう最後に少しだけ飛行速度を落としたことは認めます。」
「ギリギリのところでその状況判断が出来るところに樹少尉の非凡さがあるんだろうね。」
(僕もグレンさんがいなかったら、最後まで全力で逃げていましたけど。)
(それは、言わぬが花、というやつですな。)
(言っても信じてもらえないでしょうし。)
「詩織大尉は捕らえた魔法使いのことを知っているのだったな?」
「はっ。」
「事情聴取をする前に、あの魔法使いについての情報を共有しておくべきだろう。空いている会議室で話を聞こう。樹少尉も同席するように。」
「了解。」
「では、小官はこれで失礼します。」
「士紋中佐、先程の助力に感謝する。この礼はいずれさせて頂こう。」
「それでしたら小官ではなく美姫中尉と樹少尉にお願いします。」
「そうか。だったら2人は一層厳しく鍛錬せねばならんな。ガッハッハッ。」
士紋中佐と別れて別室に移動する。
「詩織、話をしてくれ。」
「はっ。晋造は――――」
「ここには俺と詩織と樹の3人しかいない。だから、そんな形式ばった話し方はしないでいいんだぞ。」
「しかし、、、」
詩織大尉はチラリと僕の方を見た。
「詩織の普段の態度も軍の規律があるから公の場では我慢しているのだし、俺は堅苦しいのが嫌いなんだ。樹もざっくばらんな感じの方が楽でいいだろう?」
「・・・はい。」
「はぁ、、、分かったわ。」
いつものことなのか、すぐに諦めた詩織大尉は肩から力を抜いて表情も柔らかくなった。
「話の流れからすると、大和大佐と詩織大尉は親子だったりしますか?」
「こんなのが父親とか絶対にイ・ヤ。」
「おいおい、いきなりくだけた口調で全拒否かよ。」
即答した詩織大尉の様子に、僕も大和大佐に禿同である。
「叔父さんが、いつもどおり遠慮なしに話そう、って言ったんじゃない。」
「それにしても言い方というものがあるだろう。目上のことは敬ってほしいのだが。」
「それは敬われるようなことをしている人が言うことよ。叔父さんが私に敬われるようなことをしたことがある?叔父さんがやらかしたことの尻ぬぐいや押し付けれらた書類仕事に忙殺されている私が、どうやったら叔父さんのことを敬えるのか教えてほしいくらいだわ。」
「・・・ごもっとも。」
憤慨しながら正論を言う詩織大尉に、大和大佐は頷くしかない。
「それで、大和大佐と詩織大尉の関係はどのようなものなのでしょうか?」
「詩織は俺の妻の姉の娘だ。」
「いわゆる姪というやつね。そのせいで、成り手がいなかった花梨中佐の後任として叔父さんの面倒を押し付けられているのはいい迷惑だわ。」
「詩織も今のうちにいろいろ経験しておけば、花梨のように他の小隊に隊長として転属しても苦労は少なくて済むぞ。」
「私は叔父さんを押しのけて第一小隊の隊長になるからいいんです。」
「それは頼もしいな。しかし、そう簡単には隊長の座は譲ってやらんぞ。ガッハッハッ。」
自分を超える意欲を示した詩織大尉を見る大和大佐の目は優しげだった。




