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竜の女王  作者: M.D
2169年秋
5/688

05

 衝撃的なエレナ様との出会いがあった次の日、母さんと話をしてまた驚いてしまった。


「うちの近くにこんな設備の整った病院なんてあったっけ?」

「何言っているの。こんな立派な病院が国分寺にあるわけないじゃない。ここは都市国家東京よ。」

「都市国家東京!?」

「そうよ。」

「どおりで高価な検査装置があるわけだ。」

「そうなのよ。母さん、東京シールドの中には入ったことがあるけれど、地下都市には入ったことがなかったのよ。やっぱり、都市国家東京の病院はやっぱりすごいわね。」


「でも、どうして僕は都市国家東京の病院に入院なんかしてるんだろう?」

「樹もはじめは国分寺の病院に入院していたのよ。龍野家の当主様が都市国家東京の病院に龍野さんを転院させる、ってことになったときに樹も一緒に転院してきたの。」

「僕も?」

「そうよ。なんでも龍野家の当主様は龍野さんを探していたんだけれど、見つからなくて困っていたらしいのよ。そんなとき、樹が倒れていたところに龍野さんも倒れていたらしく、一緒に病院に入院したことを聞いて、龍野さんを見つけられた恩返しに樹も都市国家東京の病院に転院させてくれたの。」

「龍野家って、あの魔法使い御三家の?」

「そうなのよ。母さんと父さんが直接会ったのは執事の人だったけれど、感動したわ。まさか魔法使いの関係者とお近づきになれるなんて思ってもみなかったから。」


 この後、母さんから入院と転院の経緯の詳細を聞いて、魔法使い御三家の力のすごさを改めて認識し直した。


「初めて地下都市の中に入るのが入院だなんて。」

「いいじゃない。樹がこの病院に入院しているおかげで、母さんは1ヶ月間の通行証をもらえたから、お見舞いのついでに都市国家東京で買い物ができて嬉しいわ。」

「買い物のついでに見舞いじゃないの?」

「そんなことないわよ。さすがに都市国家東京は国分寺じゃ買えないようないいものがたくさんあるわね。高いけど。」

「そりゃ、国分寺と比べたら物価は高いだろうな。」

「それに、都市国家東京に行くって言ったらみんなから羨ましがられて。今日もいろいろ買い物を頼まれちゃったわ。」

「そうなると思ったよ。都市国家東京に入るための通行証なんてめったなことじゃ申請がおりないから。」

「そうなのよ。こんな機会なんて滅多にないんだから。」


 息子に問題がないと医師から聞いたのであろう。息子の心配よりも買い物のほうに関心がいっているようで、ウキウキしている。


「もう大丈夫だし、すぐ退院できそうだから、次は退院の日でいいよ。」

「何言っているのよ。入院しているかわいい息子が心配だから明日もお見舞いに来るわよ。」

「買い物しにだろ。」

「・・・じゃぁ、母さんもう帰るけれど、必要な物とか、食べたい物があったら電文してね。買ってきてあげるから。」

「了解。」


 そう言って、母さんは帰っていった。



「龍野家の当主様と関係があるくらいだから、やっぱり龍野さんも魔法使い?」


 隣の龍野さんに聞いてみる。


「魔法使いの家系出身だけど、まだ魔法使いとしては認められてないの。」

「そうなんだ。魔法使いの家系ということは、都市国家東京に住んでいるの?」

「3年前まではそうだったんだけど、父が『私の心臓が弱い原因は都市国家東京にいるからだ』と言って、今まで東京シールドの外で暮らしていたの。」

「そうだったんだ。」

「心臓の方は森林君のおかげでもう大丈夫。」

「よかったね。僕は何もしてないけど。」


(そうでもないのじゃ。美姫を治したのはワレじゃが、樹の演算領域を借りねば無理じゃったのじゃから。)

(勝手に使われただけで、貸した覚えはないですが?)

(いいではないかのう。そのおかげで美少女と話ができているのじゃから。)


「龍野さんのお父さんってやっぱり魔法使い?」


(露骨に話題を変えおったのう。)


「そう、魔法使い。父の名前は龍野圭一って言うの。」

「えぇっ!?龍野圭一って言ったら、第2次悪魔大戦の英雄じゃない!全国統一試験でも問題にでたよ!」


 龍野圭一。先の第2次悪魔大戦では六条武とともに勝利に貢献して”大戦の英雄”と呼ばれる人物である。


「実際の父はちょっと冷たい感じのする普通の人なの。それに、大戦の英雄って呼ばれるのはあまり好きじゃないみたい。」

「そうなんだ。でも、歴史に名前が残るような人の娘さんと会ったなんて、国分寺に帰ったら自慢しよう。」

「私も英雄の娘って呼ばれるのはあまり好きじゃないから、やめてもらえるとありがたいかな。」

「龍野さんが嫌がるならやめておくよ。それに、そんなこと言っても信じてもらえないし。」

「ありがとう。」



 検査は午前中だけのことが多く、午後は龍野さんも時間があったためいろいろな話をした。


(そろそろ慣れた?)

(ずっと何もしないでいる、というのがこんなに苦痛だとは思わなかった。龍野さんもそう思わない?)

(私も同感ね、って、病院での生活の話じゃなくて、エレナ様や私と心の中で会話するのに慣れた?という意味だったんだけど。)

(あぁ、そっちか。最初はなれなかったけど、今は違和感がなくなったかな。)


(良かった。私は生まれた時からエレナ様とずっと一緒で、エレナ様と会話できるということが普通のことだと思っていたから、森林君が拒否反応を示さないか心配だったの。)

(いや、エレナ様と会話できることは普通じゃないから。)

(そうなの。両親にエレナ様のことを話したときに幻聴なんじゃないか、ってすごく心配されたのよ。両親はエレナ様と会話できないってことを知って、私もこのことが普通じゃないって気が付いて以来、誰にもエレナ様のことを言わないようにしていたの。)

(それが賢明だと思う。僕も最初は頭がおかしくなってしまったのかと思ったし。)


(だから、私以外でエレナ様と会話できる人がいるって分かった時には、秘密を共有できる同志が見つかったみたいで嬉しかったの。)

(まぁ、このことは他の人には言っても信じてもらえないから、秘密を共有している、っていうのはそうかもしれない。)

(でしょ。2人だけの秘密だね。)


 龍野さんは嬉しそうに微笑んでいた。

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