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「さて、美姫中尉も見つかったことだし、魔法軍本部に戻るとしようか。」
「上尾愛さんはどうされますか?」
「所属会社には魔法軍本部から連絡を入れてもらうとして、事情聴取もせねばならんから一緒に連れていく他なかろう。」
「了解しました。」
美姫が上尾愛の背中と膝裏に腕を回して抱き上げ、空に舞い上がる。
(樹はイヤらしいことをするからダメじゃ。)
(何も言ってないのに、勝手に上尾愛を僕が抱えたいようなことを言わないで下さい。)
(目は口程に物を言う、と言うしのう。物欲しそうな顔で見ておったのじゃ。)
(そんな風に見てません!)
(本当に?)
(美姫まで、、、)
(ふふふ。冗談よ。)
美姫が抱えている上尾愛への影響を考慮して、速度を落として飛行していると、
「うっ!」
上尾愛が気を取り戻し、
「・・・ここは?」
「空の上です。」
「えっ!?・・・龍野さん?・・・うわっ!本当に空を飛んでる!」
周囲を見渡し、下を見て、美姫に抱えられて空を飛んでいると認識したようだった。
「ど、どうして、、、私は野外会場でアンコールに答えて、、、」
「正体不明の魔法使いに連れ去れたところを取り戻しました。」
「龍野さんが?」
「はい。樹も協力してくれましたよ。」
「そう、、、」
上尾愛は僕の方をチラッと見たが、直ぐに美姫に視線を戻し、うっとりした表情で、
「これから龍野さんのことを”美姫様”と呼んでも良いでしょうか?」
などと、訳の分からないことを言い出した。
「急にどうしたのですか?」
「美姫様が私を助けて下さったのですよね?でしたら、美姫様は私の命を救って下さった恩人ということになります。その命の恩人を”龍野さん”などと他人行儀で呼ぶことを下賤の身である私自身が許すことなどできるでしょうか?いえ、できません。それから、私のことはどうか”竜胆”と呼び捨てにして下さい。」
(上島さんはもともと表現が過剰で濃かったけど、キャラまで濃くなってしまった。。。)
(私はどうしたらいいと思う?)
(うーん、、、断ると面倒なことになりそうだし、いきなり”美姫様”はないから”美姫さん”あたりで妥協してもらうとか。)
(それしかなさそうね。)
「私のことは”美姫さん”と呼んで下さい。私も上島さんのことを”竜胆さん”と呼びますので。」
「・・・美姫様がそう仰るのなら普段は”美姫さん”と呼ばせて頂きます。ただし、可能な状況では”美姫様”と呼ばせて下さい。それと、私にはきつい感じの命令口調で話して頂けると嬉しいです。」
「分かりました。」
「・・・。」
上島さんは、美姫に命令口調を目で訴えかけた。
「許してあげるよ!」
「はい!これからもよろしくお願いします。」
(上島さん変わりすぎじゃない?これで良かったのかな?)
(良かったんじゃない?)
(もう、他人事だと思って適当なことを言う。)
(いつもは僕が被害を被っているんだから、たまには美姫が同じ目にあっても罰は当たらないと思うよ。)
「ガッハッハッ。美姫中尉は面白いことになっているようだな。」
「こちらの方はどなたでしょうか?」
「魔法軍第一航空戦闘隊副部隊長兼第一小隊隊長の大和大佐です。」
「”空鮫の撃墜王”!」
「ほう。上尾愛さんは小官のことをご存じでしたか。」
「はい。私は魔法使いの情報を集めるのが趣味の1つみたいなものなので、こんなところでお目にかかれて光栄です。」
(上島さんって、趣味の小説を書くために魔法使いの情報を集めてたんじゃなかったっけ?)
(情報を集めるうちに目的と手段が逆転して、それが趣味に変わったんじゃない?)
(成程。分かりみが深い。)
「それで、どこに向かっているのでしょうか?」
「魔法軍本部に向かって飛行中です。形式だけの物ですが、一応、事情聴取もしないといけませんので。」
「私は何も覚えていないのですが、、、」
「でしたら、聞き取りをする者にそう言って下さい。」
「私の事情聴取を美姫さんにして頂くことは可能でしょうか?」
「分かりました。そのように取り計らいましょう。」
「ありがとうございます!」
(大和大佐と竜胆さんの会話が普通過ぎる。)
(そうね。竜胆さんも表現が過剰じゃないし、大和大佐も一般の人には丁寧な対応ができるのね。)
「美姫中尉と樹少尉は、良からぬことを考えていないか?」
ギクッ!
「そ、そんなことはありません。」
「同じく。」
「そうか?俺の悪口でも考えているように感じたが、まぁいいだろう。これで2人も空中戦の実戦を経験できたことだし、本格的に第一小隊の鍛錬に参加しても問題なさそうだな。ガッハッハッ。」
「美姫様は大学1年生だから高校を卒業したばかりなのにもう中尉で、さらに魔法軍最強の航空小隊と言われている第一航空戦闘隊第一小隊と鍛錬が出来るようになるなんて、素晴らしいです!あぁ、この素晴らしさを誰かと共有したい。。。」
大和大佐の言葉を聞いて興奮しだした竜胆さんの目が狂気をはらんでいるように見えた。




