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竜の女王  作者: M.D
補講2
49/688

04

「ふぅ。」

「樹君、やったね。10回連続で魔力隠蔽の成功よ。」


 腕には魔力検査の時と同じようなベルトが巻かれており、ベルトにつながった装置に表示される数字が0になれば魔力隠蔽は成功だ。


「樹君も魔力隠蔽ができるようになったし、そろそろ魔法の腕輪をつけた訓練をしてみようか。」

「はい。お願いします。」

「樹君、良かったね。」

「ここまでこれたのも美姫さんのおかげだよ。ありがとう。」

「どういたしまして。」



「まずは魔法の腕輪の基本的な使い方から始めよう。樹君、この魔法の腕輪をつけて。」

「はい。」


 魔法の腕輪をつける。


「魔法の腕輪は魔法使いから吸収した魔力量に応じた魔導力を放出する、ということは覚えているかい?」

「はい。」

「最初のうちは魔法の腕輪は魔法使いから魔力を吸収するのであって、魔法使いが魔力を注入するわけではない、という認識でいると魔法の腕輪を扱いやすい。つまり、吸収される魔力量を制御することで、放出する魔導力を調整するわけだ。ここまではいいかい?」

「はい。」

「じゃあ、今樹君がはめている魔法の腕輪は、樹君の魔力を吸収しているかい?」

「あれ?魔力を吸収していない。」

「そんなことないよ。私とした微小な魔力を感じる訓練を思い出して。」


 微小な魔力が感じられるよう、意識を集中する。


「本当だ。集中しないと分からない程度に魔法の腕輪が魔力を吸収しているのを感じる。」

「でしょ。」

「でも、魔法の腕輪が魔力を吸収しているんだったら、魔導力が放出されていてもおかしくないはずなのに、何も起きない。」

「ちゃんと魔導力は放出されているよ。魔法の腕輪が吸収している魔力量が微小だから、放出されている魔導力も微小だし、ただ放出されているだけだから樹君には感じられないだけなの。」

「そうなんだ。」


「でも、それだと、どうやって大きな魔導力を生成させるんでしょうか?」

「いい疑問だ。大きな魔導力を生成するためには、魔法の腕輪内の魔石を励起させて、魔力の吸収量を上げなければならない。そこで必要となるのが呪文の詠唱だ。」

「呪文の詠唱ですか。ん?でも、魔法実技の訓練では皆呪文なんか唱えていませんでしたが。」


「その答えを知るためには、呪文に関する歴史を知る必要があるから、順を追って説明しよう。

 魔法使いが関わったと思われる伝説は多く、昔から魔法を使える者がいたと考えられているが、近代魔法の歴史は、1570年代に”大砲系”の魔石がアフリカのリューデリッツ近郊の村で初めて発見されたことから始まる。その魔石を使っていた現地の魔法使いは呪文を詠唱して魔法を発動させていたそうだ。しかし、その呪文は非常に長かったため、儀式としてしか使えないものだったんだよ。

 魔石を発見した宣教師たちは、ローマ教皇の特別な許可を得て、秘かに魔法の秘密を解き明かそうとした。ローマでは様々な実験が行われたんだが、呪文についてだけ言うと、魔法の腕輪をつけた腕全体を特殊な箱で覆うと、例え呪文を詠唱したとしても魔法が発動しないことが判明した。しかし、理由は分からなかった。

 その後、錬金術や魔術の研究が盛んだったロンドンで、1690年代に呪文の詠唱による振動が空気を伝って魔石に影響を及ぼしていることが判明したんだよ。」


「ということは、呪文に意味なんてない、という事ですか?」

「物語では話を分かりやすくするために呪文に意味を持たせているけど、実際には単なる音の羅列で意味なんかなかったんだ。そして、この発見を期に呪文の解析が加速し、魔法を発動するための呪文の大幅な短縮が行われたことが重要なんだよ。」

「呪文の短縮なんて可能なんですか?」

「呪文の短縮は、長い呪文から魔法の発動に必要な部分のみ取り出すことで可能になったんだよ。アフリカの魔法使いたちは長い時間をかけて魔法を使うための呪文を完成させた結果、魔法の発動に必要のない無駄な部分も含めて口頭で伝承されてきたんだろう、と考えられている。」


「1877年に蓄音機が発明されたときには、早速それを応用して針を魔法の腕輪につけたところ、魔法が発動したために、魔石に特定の振動を与えれば呪文を詠唱しなくてもよいことは分かったんだが、装置が大きすぎて使い物にならず、呪文の詠唱以外に魔石に振動を与える方法がそれ以降ずっと見つからなかった。

 しかし、2011年にMEMS技術を使った半導体を魔法の腕輪に組み込むことで、魔石に特定の振動を与えることができるようになり、ようやく呪文を詠唱することなく魔法を発動することが可能となったんだ。」

「原理はよく分かりませんが、その何とかという技術で、今は呪文の詠唱が必要なくなった、ということは分かりました。」


「でも、呪文の詠唱なしにどうやって複数の魔法を発動させるんでしょうか?」

「まだこの時には魔法の腕輪にボタンが取り付けられており、そのボタンを押す組み合わせによって発動する魔法が変わるようにしていたんだ。

 そして2056年に、魔法の腕輪に吸収されている微小な魔力を開放・抑制することにより発生する魔導力の変化を利用してMEMS半導体に命令を送り、発動させる魔法の種類を選択する方法が発明され現在の形に落ち着いた、というわけだよ。長々と説明をしてしまったが、理解できたかな?」

「なんとなくですが。」


「では、最初はゆっくりでいいから、魔法の腕輪におくる命令規則を覚えていこう。」

「はい。」

「何もせずに魔法の腕輪に微小な魔力が吸収されている状態が開放状態。そして、魔力隠蔽により魔力を抑えた状態が抑制状態だ。その2つの状態を特定の規則で入れ替えることによって、魔法の腕輪に命令を送る。慣れると魔法の腕輪付近の魔力だけを抑えることができるけれど、今の樹君は腕全体の魔力を抑えることに集中すればいい。やってみて。」

「はい。」


 純一先生に命令規則を教わり、魔力隠蔽によって魔力を開放・抑制して魔法の腕輪に命令を送るが、魔法が発動しない。


「この方法で難しいのは、ゆっくりでもいいから、魔力の開放や抑制が続く状態と、開放と抑制が入れ替わる状態を一定の時間周期で行わなければならないことだ。樹君が魔法を発動できないのは、時間周期がバラバラだからだね。」

「難しいです。」

「最初は誰しもそうだよ。これは体で覚えるしかないから、練習あるのみだ。」

「分かりました。」


 それから1時間くらい練習したところで、小さくて密度の低い魔導弾だったが、魔法の発動に成功した。


「で、できた。」

「樹君、やったね。おめでとう。」

「樹君、おめでとう。この命令規則は訓練用の魔法の腕輪にあらかじめ登録してあるもので、”銃剣系”の魔法使いの誰しもが最初に発動させる魔法だ。当分の間は、この魔法を発動させるための命令を素早く入力できるよう訓練しよう。」

「はい。」

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