15
(あっ!いいこと思いついた。)
美姫が魔導力を右側に寄せながら姿勢を水平になるように保つと、横方向に滑るように移動して大和大佐の魔導弾を回避した。
(やった!)
(すげー。)
「ほう。横滑りか。教えてもいないのに横滑りを思いつくとは、美姫中尉は空中戦に向いてるかもしれんな。」
「ありがとうございます。」
「大昔だったら、の話だがな。ガッハッハッ。」
上げて落とすとは大和大佐も酷いことをする。
「どういうことでしょうか?」
「美姫中尉は音速で飛行する敵を正確に視認できるのか?」
「・・・いえ、不可能です。」
「そうだ。どうやっても人間の動体視力では普通は無理だ。では、視認できない敵にどうやって魔導弾や魔導砲を当てるのだ?」
「それは、、、頭護具に表示される情報から敵の未来位置を推測します。」
「・・・なんだ、美姫中尉は頭護具のことを知っていたのか。」
「はい。ヒューストンへ行く途中で空鮫と交戦したときに士紋中佐から教えてもらいました。」
「そうか、美姫中尉と樹少尉は主を撃破していたのだったな。俺は何度も太平洋を飛んでいるが、主と遭遇したことが一度もないのだ。出会っていれば俺が屠ってやったものを。」
(腕に自信がある人は皆、主を自分が討ち取りたかった、って言うよね。)
(同感。でも、実際に戦った経験からすると、主を1人で討伐するなんて絶対にあり得ない。)
(そうよね。徹甲魔導弾ですら主が纏う魔導力によってはじかれるんだから。)
「話がずれた。2人とも高校で習ったと思うが、敵の位置や動きなどの情報を察知するには魔力を探る魔力探知が用いられる。頭護具に供えられた魔力探知の補助具によって索敵を行い、その情報を味方の魔法使い間で共有することによって戦闘空間全体を俯瞰する”神の目”を作り出し、最適な位置に魔導弾や魔導砲を撃つことで命中率を上げるのだ。」
「1人の場合はどうするのでしょうか?」
「小型の遠繰機を複数飛ばして情報収集する。まぁ、俺くらい経験を積めば遠繰機など無くても勘でなんとかなるがな。ガッハッハッ。」
(勘かよ!)
(なんか、大和大佐って無茶苦茶よね。)
「重要なことは、敵を早期に発見し正しい時旬に正しい位置にいることだ。そのために、敵の進路を予測し、そこに先回りできるような経路を演算器が魔力探知結果から割り出し誘導てくれる。今はもうそういう時代なのだ。」
「だとすると、今やっている鍛錬は何のためにあるのでしょうか?」
「最初に言っただろう?『本日は空中戦時における基本動作について学んでもらう』と。単に基本動作を繰り返すよりも、実戦形式で学んだ方が身につくのが早い。それに、頭護具をつけていないときや壊れてしまったときに敵と接触する可能性も考えておかねばならないからな。」
「了解です。」
「では、基本動作に戻って、バレルロールについて説明しよう。軌道を上に向けながら横転する。そうすることで、樽の内壁をなぞるように螺旋を描きながら飛行できる。横転と比べると軌道も変わる分だけ敵の射線をずらしやすく、速度も落ちることを利用して敵に追い越させることも可能だ。」
これも大和大佐が動作の実演をしてくれる。
「次はシザーズ。敵を振り切るために急旋回する際に、敵と同じ進路ならば後ろにつかれたままだが、左右に切り返しながら敵と交差する進路をとることで射線を外すことができる。ただし、旋回方向の切り返しは必ず敵の射線から離れた状態で行わなければ、自ら敵の照準に入っていくことになるから注意するように。これは2人で交互に敵役を交代して動作の確認をしてみてくれ。」
「「はい。」」
シザーズを実際に行ってみると、美姫の方が飛行速度は速いのだが、進路が交差して離れた後に旋回半径が大きくなってしまい、追いついてくるまでに時間かかってしまうことが分かった。
(速度が速いと遠心力で小さく旋回できないみたい。もっと魔導翼の使い方に熟練すれば魔導力で強引に旋回できるんだろうけれど、今の私じゃ難しい。)
(同感。シザーズと減速を上手く組み合わせると美姫に追い越させることもできるし、意外と速度が遅くても逃げられる。)
(そうね。追う方も上手く位置取りしないと優位性を失ってしまうし。)
「以上が回避動作によく使われる基本動作だ。この他にもシャンデル、イメルマンターン、ウィングオーバー等の縦旋回系の基本動作や、攻撃動作によく使われるハイヨーヨーやローヨーヨー等もあるが、これらについては後日説明しよう。」
「「はい。」」
「空中戦の最大の目的は敵を撃墜し生き残ることだが、美姫中尉と樹少尉はまだひよっこだ。敵は2人より強い。だからこそ、今は生き残るための技術を身に着けることに全力を注いでほしい。今日はこの後も回避動作の習得に励んでくれ。」
「「はい。」」
その後は美姫と2人で回避動作を繰り返していたのだが、
(樹、この命令規則を試すのじゃ。)
と、エレナ様が普段は魔導翼の解析ばかりで行えない命令規則の試行をここぞとばかりに僕だけに依頼してくるものだから、
「うわっ!」
急加速したり魔導翼の制御を失って落下したりたので、大和大佐に、
「樹少尉はまだ魔導飛行を完全には習得できていないようだから、もっと鍛錬に時間を割くべきだな。
・・・いや、実戦に投入すれば否が応でも慣れざるを得ないか・・・ならば、模擬戦はどうだ?俺が相手なら実戦よりも2人を鍛えられる。」
などと不穏なことを考えさせてしまったのだった。




