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「美姫中尉も樹少尉も魔導飛行を習得したようなので、本日は空中戦時における基本動作について学んでもらう。」
「「はい。お願いします。」」
現在は地上1000メートル。雲が下に見える。
「基礎となるのは横転と旋回だ。空中戦時における基本動作はほぼこの2つが組み合わせられた動作となっている。まずは横転。水平飛行中に体の中心軸を固定して回転する。簡単だろう?ガッハッハッ。」
大和大佐が実演しながら動作の解説を行ってくれる。
「次は旋回。旋回には横旋回と縦旋回がある。横旋回は体を傾けて右方または左方へ進行方向を変える。縦旋回は宙返り(ループ)とも呼ばれ、水平飛行から上方または下方へ進行方向を変える。当たり前だが、360度縦旋回すると進行方向は変わらない。」
(縦旋回って意味ある?360度回って進行方向が同じなら、しなくてもいい気がする。)
(そうよね。曲芸飛行じゃないんだから、実戦で宙返りなんか使うのかな?)
「樹少尉は怪訝な顔をしているが、分からないことでもあるのか?疑問があるのなら随時聞くように。」
「はい。縦旋回の使い道が想像できないので、どのような時に使われるのか教えて頂けないでしょうか?」
「いいだろう。縦旋回は高速飛行中の運動エネルギーを高度つまり位置エネルギーに変換してエネルギー損失を抑えたい時、具体的には敵を攻撃中に敵を追い越してしまいそうになった際によく使用される。と言っても分かりにくいだろうから、1つ1つ説明しよう。」
「お願いします。」
「飛行中の全エネルギーは速度(運動エネルギー)と高度(位置エネルギー)の総和だ。そして、速度は高度に、高度は速度に変換でき、空気抵抗によってエネルギーは消費される。ここまでは高校で習う物理の範疇だから、樹少尉でも理解はできるだろう。」
「はい。」
「空中戦時には敵を追いかける方が圧倒的に有利であることは自明だと思うが、敵よりもエネルギーを多く持つことによって自分の位置を敵よりも高い自由度で決められ、優位に立てる。だから、俺のように高速飛行できれば敵を追いかけながら一方的に攻撃し続けられるわけだ。ガッハッハッ。」
「しかし、飛行速度が速いと、敵の後ろについても直ぐに追い越してしまわないでしょうか?」
「その時に縦旋回を使うのだ。敵を追い越しそうになったら、縦旋回を行って速度を高度に変換して減速する。そして高高度から下降することで加速して、敵を再び後方から攻撃するのだ。」
「成程。」
「実際に見た方が早いだろうから、美姫中尉に敵の役割をしてもらおう。」
「はい。」
水平飛行をする美姫を大和大佐が後方少し上から追いかけ、追いついたときに急上昇。縦旋回を行って、再び後方少し上の位置に戻ってきた。
「このように縦旋回は使われる。」
「理解できました。ありがとうございました。」
「それから、先程のように、敵の後方少し上からの攻撃が一番当たりやすい。それは、的としての面積が大きいからだ。そのため、敵に追われているときには横転して敵に背中や腹を見せないようにすることが肝要だ。これも、体感した方がよく分かるだろうから、今度は樹少尉に敵の役割をしてもらうことにしよう。」
「はい。」
水平飛行をする僕の後方少し上から大和大佐が魔導弾を撃ってくる。
「ぐはっ!」
弱い魔導弾であっても、直撃すると普通に痛い。
「もう一度魔導弾を撃つから、今度は横転して90度体を傾けて飛行してみろ。」
「はい。」
大和大佐の指示通りに飛行すると、魔導弾が腹を掠めて下方に抜けていった。
(おぉ!当たらなかった。)
(今のは大和大佐がわざと外してくれたんだろうけれど、上方から見てると体を傾けると的が小さくなって当てづらくなるのが良く分かったよ。)
「このように、横転することによって敵の攻撃を回避することもできる。しかし、そもそも敵に後ろをとられた時点でほとんど負けが確定していると思った方がいいだろう。だから、常に周囲の状況を確認し把握しておくことが重要だ。」
「「はい。」」
「今のでいいことを思いついたのだが、2人は魔導飛行を習得したばかりだから、敵を攻撃するより攻撃される方が多いだろう。なので、回避動作によく使われる基本動作から覚えてもらうことにしようと思う。」
と、大和大佐はニヤリとしながら言った。
(嫌な予感がしない?)
(肯定。魔導弾をぶつけられてボコボコになる未来しか見えない。。。)
「まずは旋回。横転と同様、旋回も立派な回避動作だ。空中戦時にはお互いに高速移動しているため、
敵が我々の現在位置を狙って魔導弾を撃ってきたとしても、魔導弾が到達したときには我々は別の位置に移動してしまっている。そのため、敵は現在の我々の位置と動作から未来位置を予測して攻撃してくる。そこで、緩急をつけて旋回をしたり、上下方への移動も織り交ぜながら旋回すると攻撃が当たりにくくなる。これも実感してもらった方が良いだろう。」
僕と美姫は同時に逆方向に旋回しながら大和大佐の撃つ魔導弾を避けるよう言われたのだが、
「ぐはっ!」
大和大佐は的確に僕たちの位置を捉えて魔導弾を当ててくる。
(結構軌道を変えながら飛んでいるのに照準が正確すぎる。。。)
(旋回するときに体を傾けるけれど、そこを上手い感じに狙われるのよね。)
(かといって、体を傾けないと旋回できないし、、、)




