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「”楯系”の魔法の腕輪に適性を示したどの家系もハーデス家の血を取り込みたい、と考えたというわけですか。」
「そのとおり。しかし、魔法の腕輪への適性の7~8割は母親から受け継がれる、ということもあり、ハーデス家は自分たちの優位性を失わないよう、男性しか外に出さなかった。例えば、東京で最も”楯系”に高い適性を示した桐生杏樹と結婚したのがグレン・ハーデスだった、という風に。」
「ハーデス家もしたたかですね。」
「そうだね。グレンを招き入れた桐生家は、その後も積極的に海外の家系と婚姻を結ぶことで”楯系”の魔法の腕輪に対する適性を高めてきた。桐生家は子供に欧米風の名前をつける習慣があったり、桐生家の外見が日本人のそれとは違うのはそのせいだね。」
「確かに、同じクラスの”楯系”の生徒は日本人には見えなかったんですが、そういう理由だったんですね。」
「第1次悪魔大戦が始まったのは2015年5月だから、2003年からそんなすぐに都市を守れるようになるものでしょうか?」
「ジャネットは”楯系”の魔石を発見しただけでなく、それを使用することで都市防衛ができるとの発想を魔石の発見からすぐに得て、都市への悪魔の侵入を防ぐための”楯系”魔法を展開できる防衛装置を7年で開発するという偉業をやってのけたことが、人類を救ったと言える。」
「7年で開発してしまうなんて、すごいです。」
「彼女は天才的な研究者としても有名だからね。都市防衛装置以外にも発明品は多いんだが、それについては今後授業で習うだろう。」
「当時は”楯系”の魔法使いはほとんどいなかったと思うのですが、どうやって都市防衛装置を動作させたのでしょうか?」
「それはジャネットが狙ったのかどうか議論が分かれるところだが、”楯系”の魔石を組み込んだ当時の都市防衛装置は”銃剣系”の魔法使いも効率は悪いが少しは魔法を発動させることができたから何とかなった、と言わざるを得ない。」
「またしても偶然かもしれないと。」
「そのとおり。当時の都市防衛装置は”銃剣系”魔法使いも”楯系”魔法使いの1/20程度の効率でしかないが魔法を発動することができるようになっていたから”銃剣系”魔法使いたちも都市防衛に加わることができた。つまり、人海戦術で都市防衛装置を動作させて悪魔が都市に侵入するのを防ぎきった、というわけだ。」
「ジャネットさんがいなかったら人類は滅亡したかもしれない、と考えると恐ろしい。」
「そうね。奇跡に近い確率だと私も思うよ。」
「ジャネットは”楯系”の魔石を発見する前から魔法の腕輪の優秀な研究者だった、という幸運もあって、彼女のおかげで今我々はこうしていられる。そのあまりにも大きな功績がハーデス家を今でも魔法使いの盟主として君臨させている理由の一つなんだ。」
「でも、それだったら魔法連合国は”楯系”魔法使いを誘拐してまで、”楯系”の魔法使いの家系を作り上げなくてもよくないでしょうか?”銃剣系”魔法使いが沢山いればよいような気がするのですが。」
「それは魔石の発見から100年以上の間の研究期間を経て、今の”楯系”の魔法系統に最適な金属の種類や配合率が当時とはかなり違うものになっているからだろう。
第1次悪魔大戦の時点で都市防衛のための魔法が発動できたのは直径5kmの円内だけだったんだが、今では直径20kmの円内まで広がっている。その代り、今の都市防衛装置では”銃剣系”の魔法使いはほとんど魔法を発動できなくなっているから、広い範囲を守ろうとするとどうしても”楯系”の魔法使いが必要になってくるんだ。」
「その直径20kmの円内が東京シールドなんですね。」
「正解。さらに言うと、今もそうだけど”楯系”の魔石はヒューストン近郊でしか採掘されないから、輸出規制のかかっている”楯系”の魔石を使った都市防衛装置も魔法連合国では作ることができない。それに、古い都市防衛装置も新しい都市防衛装置と併用され廃棄されることはないから、古い都市防衛装置ですら魔法連合国は十分な数をそろえることができないんだ。」
「それで自国を守るためには、なりふり構ってられない、ということですか。」
「そういうことだ。」
「どうして魔法理事国は情報統制や輸出規制までして、”楯系”の魔法使いや魔法の腕輪を守っているのでしょうか?」
「そうね、少しでも悪魔から守れる人数を増やしたほうが人類のためになると私も思います。」
「それは魔法使いや魔法の腕輪が悪魔にだけに有効なわけではないからだよ。強大な力を持った者が他人を屈服させたいと考えたときに、魔法を使おうと考えても不思議ではない。」
「確かに、そう考える人達がいないとは言い切れませんね。」
「昔は核兵器という大量破壊兵器があったが、それも拡散されないように輸出規制がなされていた。それと同じだよ。人間同士の戦争に魔法が使われることがないようにしなければならないから、魔法理事国は”楯系”の魔法が外に漏れるのを防いでいる。」
「人間同士の戦争になったら、都市防衛装置を持っている魔法理事国が有利になるので、他の都市国家が戦争を仕掛けようと思わなくなり、戦争がおきなくなる、という論理ですか。」
「魔法連合国もそれが分かっているからこそ、反魔連を支援しているんだろうね。」
「外から攻められないなら内から、ですか。戦争をしないための方策が破壊活動につながっているなんて皮肉ですね。」
「昔からテロ行為はあったからね。人は生まれた時から平等ではない、ということを認めなければ、また、楽をして人よりも良い暮らしをしたい、という欲求を抑えなければ、戦争や破壊活動はなくならい。」




