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竜の女王  作者: M.D
2173年冬
473/688

01

(樹、接続できた?)

(多分。会場の様子が映っているから、正しい方に接続できているはず。美姫は?)

(私も大丈夫。でも、事前に送られてきていたURLが間違っていることを直前になって通知するのはどうかと思うよね?)

(同意。それだけ混乱している、ってことなんだろうけど。)


 今日1月6日は東京大学の入学式の日で、そろそろ入学式が始まる時間なのだが、僕たちはまだ部屋の中にいる。


(突然の緊急事態宣言だったから仕方ないのかもしれないけれど、折角なんだから会場に行きたかったよ。)

(僕は映電での入学式で十分。)

(樹はあまりこういう行事は好きじゃなったよね。。。)

(それに、上海肺炎は感染力が強いらしいから、会場に行って感染するより部屋にこもっている方が安全。)


 昨年の10月に上海で初めて発症者が見つかったとされる新型肺炎は、現在では全世界中に蔓延していた。


(そうね。上海肺炎は、罹ると高確率で肺に血栓ができて、後遺症も厳しいって聞くし。)

(致死率も普通の肺炎より高いっぽい。)

(治療薬もそう簡単には作れないだろうから、感染予防しないとね。)

(だから、重症者数が少ないうちに緊急事態宣言を政府が出して、感染者数を抑え込もうとしたのは良い判断だったと思う。)

(厳しすぎる、という人も多いみたいだけれど、私も樹と同意見よ。)

(さっきは、入学式の会場に行きたい、と言ってなかった?)

(それはそれ、これはこれよ。)

(総論賛成各論反対ってやつですか。)

(もう、、、あっ、入学式が始まるみたい。樹もちゃんと聞いておくのよ?)

(了解。)


 美姫に都合の良い時旬で入学式が始まった。



「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。心よりお祝い申し上げるとともに、新たな東京大学の仲間として皆さんを迎えられることを大変嬉しく思います。

 さて、上海肺炎の感染が拡大し、制御が難しい状況となったため、政府による緊急事態宣言の発令に伴い、この入学式も直前に映電での開催を決断せざるを得ない事態となり、急なことでご迷惑をおかけすることになってしまいました。――――」


 情報端末の画面越しに総長が入学式の式辞を読むのを見ている。


(式辞を読む総長の様子がぎこちない感じがしない?)

(肯定。ギャランドゥな会場だと誰に向かって式辞を述べているのか分からなくなるから、総長が戸惑うのも無理ない気がする。)

(そうね。)


 美姫は”ギャランドゥ”が”がらんどう”の言い換えだと突っ込んではくれなかった。。。


(それにしても、東京でこれ程までに上海肺炎が急速に広がるなんて、誰も想像だにしてなかったよね。)

(同感。出所は真綾様派の魔法使いだったっけ?)

(そう。上海の兵と一緒に私たち戦った魔法使いが最初の感染者よ。)

(だとすると、上海の兵からうつったと考えるのが妥当かも。)

(東京では皆そう思っているけれど、上海が発生源ではない、として、上海政府はそのことを明確に否定しているみたい。)

(だから、上海肺炎と呼んでくれるな、と言っているそうだけど、治療薬とワクチンの開発をしておいて、よく言う。)

(上海で感染を疑われた者は捕らえられて火葬場に連れていかれてしまう、とも言われているし、強制的に感染をなかっことにしているのよ。)

(酷い話だ。)


「――――最後に、この状況下にあって、未開の領域を切り開く研究を行っている大学の存在価値がますます大きくなると考えられます。そして、今日から皆さんは東京大学の一員です。ともにこれからの東京大学をつくり、社会貢献できるよう尽力していきましょう。」


 そうこうしているうちに総長の長い話が終わり、その後直ぐに入学式も終わった。


(これで入学式も終わりか。あっけない感じだった。)

(それは、映電での開催では一体感が感じられないからじゃない?)

(多分。美姫の言うとおりかも。)

(だったら、樹も会場に行ければ良かったと思うでしょ?)

(否定。)

(もう、強情なんだから。)


(この後は、新入生向けの説明会があるんだっけ?)

(そうよ。樹はどの講義を受けるかもう決めた?履修要項や時間割りは事前に送付されてきていたでしょ。)

(金曜日は魔法軍での鍛錬が強制されるから、それ以外の日で、できるだけ楽して簡単に単位がとれる講義は何か調査中。)

(そんなことだと思った。私はだいたい決めたから、登録する予定の講義を送るね。)


 直ぐに美姫から電文が届き、その電文を開くと、


(うわっ!びっしり詰まってる。)


 送られてきた予定表には、金曜日以外のほぼ全てのコマが埋められていた。


(これだと、2年で必須講義以外の単位はほとんどとれてしまう計算だ。)

(東京大学だと4年生を飛び級して大学院に進むためには、1年生の時にこのくらい講義をとっておかないといけないのよ。ただでさえ、週の1日は丸々魔法軍での鍛錬でつぶれるんだから。)

(もしかして、2年でヒューストン大学を卒業して、今年から大学院に進んだ百合子さんに対抗心を燃やしているとか?)

(そんなことないよ。)


 美姫の声色はそれが嘘だと告げていたが、そのことを告げるのは止めておく。


(大学改革で研究が重視されるようになって卒業に必要な単位が少なくなったのに、これじゃ大学生活を満喫できな――――)

(樹、大学は遊ぶところではなくて、研究や学問をするところよ。)

(・・・了解。)

(それじゃ、樹も私と同じ講義を受けるってことでいいのね?)

(えっ!?そんなことは一言も言ってないけど、、、)

(私と道は重なっているんじゃなかったっけ?)

(ぐっ、美姫は余計なことだけ覚えてる。。。)

(それでどうするの?)

(・・・美姫と同じ講義を受けます。)

(ふふふ。これからもよろしくね。)


 結局、美姫に押し切られ、大学1年目は忙しくなる事が確定した。

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