02
ピンポーン
呼び鈴が鳴ったので扉を開けると、そこにいたのは案の定、美姫だった。
「ザグレドはもう迎えに行ったの?」
「肯定。そこで丸まってる。」
「ザグレド、おいで。」
部屋に上がった美姫が呼ぶと、
「美姫ニャ。」
ザグレド(猫)は美姫に寄っていき、撫でられて気持ちよさそうにしている。
「迎えに行けなくてごめんね。」
「急用が入ったんだから仕方ニャ。」
「聞いたところによると、真綾様がいなくなったから亜紀様の負担が増えて大変らしいね。」
「そうなの。私も見ていられずにお手伝いをさせてもらっているのだけれど、今日みたいに突発的に仕事が発生したりするのよね。」
「龍野家の用事で辛くなった時には、ザグレドで癒されればいいと思う。」
「そうね。早速、癒されちゃおうかな。」
そう言って、美姫は猫じゃらしを取り出し、ザグレド(猫)の前で振った。
「そんな餌には釣られない、、、ニャ、ニャ。」
言葉と裏腹に、ザグレド(猫)は猫じゃらしと捉えようと手を伸ばす。
「見事に釣られてるwww」
「く、悔しいニャ。でも、体が勝手に、、、、ニャ、ニャ。」
「ほらほら、こっちよ。」
「ニャ、ニャ。」
ザグレド(猫)は美姫に完全に遊ばれているようだ。
「これは届くかな?」
「ニャー。」
美姫が立ち上がって高く掲げた猫じゃらしを、ザグレド(猫)は驚異的な跳躍力で捉える。
「やったニャ。」
「ふふふ。ザグレドの身体能力はすごいね。」
満足したのか、美姫は猫じゃらしをおいて再びザグレド(猫)を撫で始めた。
「こうやって見ると、ザグレドが魔獣だなんて思えないよね。」
「同感。言葉を喋る以外は普通の猫だし。」
「そんなことないニャ。こんなことも出来るようになったニャ。」
そう言って、ザグレド(猫)は尻尾を振った。
「ただ尻尾を振っているだけにしか見えないけど?」
「よく見るニャ。」
「・・・おぉ!尻尾が2つある!」
「そうニャ。仮初の魂の器というらしいニャ。ピアリスが暇している時に教えてもらったニャ。」
「ピアリスさんは寮長をしているだけあって、面倒みがいい。ザグレドはピアリスさんにお礼を言ったか?」
「言ったニャ。」
「ザグレドも仮初の魂の器を使えるようになって良かったね。」
「ニャ。でも、まだ作れるのは尻尾1本だけニャし、尻尾を振らないと生やせないニャ。」
「それは練習あるのみだよ。」
「頑張るニャ。」
ピンポーン
また呼び鈴が鳴る。
「きっと和香ね。だから、ザグレドは喋っちゃ駄目よ。」
「分かったニャ。」
扉を開けると、和香が部屋の中を覗き込んだ。
「美姫様、やはりこちらでしたか。」
「和香、お屋敷の方で不測の事態でも起きたの?」
「いえ、今晩の献立について相談しようと思いまして。」
「なんだ、それだけ?うーん、夕食はどうしようかな、、、」
美姫が悩みながらザグレド(猫)を撫でているのを見て、
「羨ましい。私も猫になったら美姫様に撫でて頂けるのでしょうか?」
和香が猫のような仕草をしながら呟くと、
「あいつ、あほニャ。」
駄目だといったのにザグレド(猫)が喋ってしまった。
「・・・美姫様、今、その黒猫が喋りませんでした?」
「そ、そんなことないニャ。」
咄嗟に美姫が語尾に”ニャ”を付けて返事をすると、
「美姫様でしたか。しかし、美姫様にしては口が悪かったような、、、」
訝し気にザグレド(猫)の方を見ながら和香は首をかしげた。
「和香は疲れているんじゃない?私がそんな口悪なこと言うはずないでしょ。」
「・・・そうですね。恥ずかしながら、引っ越しの荷解きなどで溜まった疲労が抜け切れていないのかもしれません。」
「それじゃ、今日も夕食は外で済ませましょう。」
「しかし、昨日も外食でしたので、今日は私の手料理を食べて頂こうと思ったのですが、、、」
「疲れているときに無理する必要はないよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
何とか誤魔化せたようだ。
(危なかったね。)
(肯定。ザグレドは罰として夕食抜きだ。)
(それは酷いニャ。)
(ん?ザグレドは思考伝達もできるようになったの?)
(これもピアリスに教えてもらったニャ。)
(そうだったの。益々ピアリスさんに感謝しないといけないね。)
(今度、お礼に獲物を狩ってピアリスに持っていくニャ。)
(・・・それは止めた方がいいよ。)
(そうニャ?)
(うん。ピアリスさんには私たちからもお礼をしに行くから、その時に一緒に行きましょう。)
(分かったニャ。)
それからひとしきりザグレド(猫)と戯れた後で夕食に行き、帰り際に美姫は猫缶を買ってザグレドに与えたのだった。
(美姫はザグレドに甘い。)
(そんなことないニャ。優しい美姫は好きニャ。)




