01
もちっと続くのじゃ
「あら?寮を出て行った樹君が何用で戻ってきたのかしら?」
「晴海さん、分かってて言ってますよね。」
「ふふふ。冗談よ。」
今日は寮の管理室でこっそり飼ってもらっていたザグレド(猫)を引き取りに来たのだ。
「ザグレド、迎えに来たぞ。」
「樹ニャ。」
丸まっていたザグレド(猫)がトテトテと僕の方に寄ってくると、晴海さんはザグレド(猫)を抱き上げた。
「夜に寮の見回りをしていた時にザグレドを見つけてビックリしたのが昨日のように思えるのに、もう2年半も経つのね。」
「その次の日に晴海さんが融合者だと知った僕たちの方が驚きましたが。」
「私だって、エレナ様が地球に降りてきて美姫さんと魂の結合したり樹君と魂の絆を結んだりしている、なんて露も思わなかったわよ。」
「そのおかげか、晴海さんからいろいろ教えてもらえたので助かりました。」
「それにしても、ザグレドがいなくなると寂しくなるわね。」
「ニャー。」
晴海さんはザグレド(猫)に名残惜しそうに頬ずりする。
(阿保の方のザグレドはいなくなってせいせい――――)
(何だとコラ!)
悪魔の方のザグレドが出てきて食い気味に反応した。
(エレナ様を褒め称える以外でザグレドが出てくるのは珍しいですね。悪魔どうして気が合うからでしょうか?)
(それもあるでしょうな。しかし、ザグレドもピアリスに揶揄われているのをいい加減学習するのですな。)
(そのくらい分かっている。オレがピアリスに合わせてやっているだけだ。)
(どっちが。まぁ、何度もザグレドを表に呼び出したおかけで、あなたの能力分析はそれなりにできたから別にいいわ。)
(ちょ、おま、そんなことをしていたのか!?)
(そうよ。それに気が付かないザグレドは間抜けなのよ。グレンさんの方はしっかり情報遮断されていたから結局分からずじまいだったのだし。)
(グレンも知っていたのなら教えてくれよ。)
(ザグレドの情報も重要な部分はワシの方で遮断してあるから、知らせなくても良いと思ったのだ。)
(なんだよ。そうだったのか。心配して損したぜ。)
(だから、『ザグレドもピアリスに揶揄われてる』と言っているのだ。)
(グレンはうるせぇなぁ。その言葉は耳にオクトパスなんだよ。)
(どうしてタコだけ英語?というか、『耳に胼胝ができる』の”タコ”って海に住む”蛸”じゃない。)
(そうなのか?オレは悪魔だから人間の言葉は苦手なんだよ。)
(そんな言い訳の仕方、初めて聞いた、、、)
(そんなことより、早く行こうぜ。)
(どうしてザグレドが仕切っているのかしら?)
(誰も言い出さないから、オレが言ってやったんだよ。)
(いいわ。最後くらい、あなたに花を持たせてあげる。)
(オレが消滅してしまうような言い方をするな。まだまだオレはグレンに融合されてしまう気はないからな。)
(グレンさんに主人格を奪われたくせに偉そうね。)
(何だとコラ!)
晴海さんに揶揄われて怒るザグレド。
(なんか元に戻った感があります。)
(このままだと永遠に繰り返しそうですから、もう行きますかな。)
(了解。)
どれを持って帰るべきか管理室を見渡すが、
「ザグレドの物はまとめて袋に入れてあるから、それを持って行ってくれればいいわ。」
「感謝。」
もう用意してくれていたようだ。
「ザグレド、また遊びに来てね。」
「また来るニャ。」
ザグレド(猫)には鞄に入ってもらって、袋を持つ。
「では、晴海さん、ザグレドがお世話になりました。」
「樹君も何時でもいらっしゃい。美姫さんと喧嘩したときには私が慰めてあげるから。」
「そんなことをしたら火に油を注ぐことになるので遠慮しておきます。」
「ふふふ。さぁ、学生が戻ってくる前に戻ってしまいなさい。」
「了解。失礼します。」
寮を出て新しく借りた部屋のある建物に向かう。
(樹君の部屋は美姫さんの部屋の隣でしたかな?)
(肯定。ザグレドを引き取るつもりだったので動物を飼うのを禁止していない物件を探したら、偶然、美姫も隣の部屋を借りていたんで驚きました。)
(偶然、ではないのでしょうな。)
(正解。どうも、僕がその部屋を借りるよう誘導されていたようなんです。)
(その物件は御剣財閥の系列会社が管理しているのでしょうな。)
(やっぱり分かります?)
(美姫さんが住むのですから、龍野家の制御下にある物件以外は考えられないのですな。)
(僕は美姫が亜紀様のお屋敷に引っ越すのだとばかり思ていましたから、そこまで深く考えられませんでした。。。)
(樹君はこういう駆け引きが苦手のようですから、今後は改善していかねばなりませんな。)
(了解。)
建物の玄関の扉を解除して中に入り、4階に上がって部屋の扉を開ける。
「さぁ、新しい部屋だぞ。」
「ニャー。」
部屋に入って鞄からザグレド(猫)を出すと、一度部屋を見渡した後、座布団の所までトテトテ歩いて行って、そこで丸くなった。
「そこが気に入ったのか?」
「ニャー。」
猫が気に入りそうな小さな箱も用意していたのだが、お気に召さなかったようだ。
(普通の猫と魔獣では好みが違うのでしょうか?)
(変わらないはずですな。猫は気分屋ですから、そのうち使うこともあるでしょうな。)
(そうだといいんですが。)




