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竜の女王  作者: M.D
2172年秋
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 ――――数日後、龍野家当主家。


「・・・以上が平和島制圧作戦の最終報告になります。」

「ありがとう。雄平さんが迅速に魔法軍を動かしてくれたおかげで、私たちも無事に姉上を捕縛できたわ。」

「こちらこそ、龍野家の情報収集部隊からの情報がなければ被害が拡大していたところでした。」

「上海の兵士が使っていた弾丸に魔導力を纏わせる専用魔法銃ね。」

「はい。」


 今日は雄平大将が亜紀様のお屋敷に報告と相談に来ていた。


「東大附属高校が反魔連に襲われたときに使われていた銃と弾丸は、上海で作られたものが平和島経由で反魔連に提供されていたのよね?」

「はい。反魔連が専用魔法銃を開発しているなどどいう情報は全くありませんでしたから――――」

「そのことを見抜けなかったのは、明らかに国防軍の失態ではないかしら?」

「お叱り、ごもっともです。統合参謀本部の情報部とは別に独自の情報戦略隊を持つ魔法軍の司令長官としてお詫び申し上げます。」


 亜紀様のきつい言葉に雄平大将は平謝りするしかない。


「詫びはいらないわ。今後どうするのか教えて頂戴。」

「はい。情報部と情報戦略隊の連携を密にし――――」

「国防軍上層部は、それで本当に同じようなことが起きないと考えているのかしら?」

「・・・いえ、抜本的な対策は必要と考えていますが、まずは出来るところから手を付けようとしているところです。」

「地位に固執して無難な選択にとどまるようなことがないことを切に願うわ。」

「承知しました。心しておきます。」


 亜紀様は雄平大将の回答にとりあえず納得して紅茶を一口飲んだ。


「それにしても、反魔連が専用魔法銃の代わりに提供したのが独自に開発した人魔薬だったけれど、その製造方法までは流されていなかったのは不幸中の幸いだったわ。」

「もしそうなら、我々の被害はもっと大きなものになっていたでしょう。」

「反魔連が提供した人魔薬を使った兵が撃った弾丸は魔導盾を貫通したそうね。」

「それは検証せねば分かりませんが、初見で弾丸を受けた少なくない魔法使いが負傷しました。幸いすぐに対処出来たようですが、あれは魔法使いにとって脅威となりえます。」


「そうね。東大附属高校が反魔連に襲われたときと違って、人魔薬の効果が多く人に認知された今回の件が、第1次悪魔大戦で表舞台に上がった魔法使いの歴史の転換点になるかもしれないわね。」

「はい。まだ人魔薬の副作用がどのようなものか分かっておりませんが、広く普及するようになれば魔法使いの優位性がなくなってしまいます。」

「そうなれば激動の時代がやってくるわ。」

「はい。銃はいつの時代も歴史を大きく動かします。」

「中世ヨーロッパにおいて、小銃と大砲の登場が戦術の変化をもたらし、それまで優位であった騎士を中心とした騎馬戦術を過去のものとしたように、魔法使いも同じ道を辿るのかしらね。」

「今のところ”楯系”の魔石はヒューストンが独占していますから直ちに世界の秩序が崩れるようなことはないでしょうが、魔法連合国の攻勢が予想されますので荒れると考えられます。」

「そうね。」


「”楯系”と言えば、美姫さん、樹君は回復して良かったですね。」

「次の日から寝込んだと聞いて心配していたのだけれど、もう大丈夫なのかしら?」


 雄平大将と亜紀様が美姫に話しかけた。


「はい。樹もお義母様に心配をおかけして申し訳なく思っているようでした。」

「そんなふうに思う必要ない、と美姫ちゃんから樹君に言っておいて頂戴。私が美姫ちゃんを連れて行くと決めた時点で樹君も一緒に来ることが分かっていたのだから、樹君が寝込んだ原因は私にあるともいえるのだし。」

「そんなことはありません。樹を連れて行きたいと思ったのは私なのですから。」


「今回の件で、樹君がPTSD(心的外傷後ストレス障害)になっていなければよいのですが。」

「そうね。樹君にとっては初めての本格的な戦闘だったのだし、これまでのことから大丈夫だと思った私も甘かったわ。」


(言えない。樹が寝込んだ理由が、ザグレドさんから”エレナ様がいかに素晴らしいか”について延々と聞かされたことが心労になったから、だなんて絶対に言えない。)


「美姫ちゃん、深刻そうな顔をしているけれど、やっぱり樹君はPTSDとか困難を抱えているのかしら?」

「いえ、そうなった樹を想像して嫌な気分になっただけです。」

「それならいいわ。でも、樹君だけじゃなくて美姫ちゃんも違和感を覚えたらすぐに言って頂戴ね。」

「はい。ありがとうございます。」



「しかし、今回の件で真綾様側についた魔法使いは多くありませんでしたね。」

「えぇ。付き従ったのが姉上派の魔法使いの1割に満たないだなんて、姉上も当てが外れたでしょうね。」

「しかも、その魔法使いの半数が脅されたことが理由ですから、やはり上海との共闘には拒否感が大きかったのかもしれません。」

「姉上もそれくらい分かりそうなものだけれど、上海の男にいれあげて目が曇っていたのよ。」


(そうなるよう仕向けたのはお主の部下たちじゃろうがのう。)

(そうなのですか?)

(左衛門とやらが以前『真綾様が堕落されたのは真綾様自身の弱さゆえ、ですので。』と言っておったことを憶えているかのう?)

(はい。)

(ワレの推測じゃが、奴らが亜紀を龍野家当主とするために真綾を堕落させた結果が今回の件につながったのじゃろう。)


「それでは、真綾様に付き従った魔法使いの内、脅されて従った者についてはお咎めなし、でよろしいでしょうか?」

「えぇ。龍野家の内輪揉めに魔法軍を巻き込むことは私の本意ではないわ。」

「ありがとうございます。我々としても貴重な魔法使いを魔法軍から追放せずに済んで助かりました。」

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