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「そうだな。」
「そうだな、って、、、宗リンはお母様が龍野家当主になれなくなった私を用済みだと捨てるつもりなの?」
「いや、そうするつもりなら彩音と一緒にここにいない。」
「じゃぁ、宗リンはどうしてそんなに落ち着いていられるのよ?」
「真綾様に無理矢理連れてこられたと言えば彩音も謹慎程度で済むだろうし、美姫様がいなくなれば彩音の次期龍野家当主就任は間違いないのだから、俺が彩音と別れる必要なんてないだろう。」
「・・・ふふふ。そうね。」
彩音さんは悲壮的な面持ちを一転させ笑顔になった。
(彩音さんは気持ちの切り替えが早いね。)
(同感。でも、うーん、、、)
(樹、どうしたの?)
(真綾様と彩音さんは上海に逃げてから龍野家当主の資格があると主張するつもりだったとして、その後はどうする予定だったのだろう、と思って。)
(確かにそうね、、、真綾様が本物の桜花を持っていたとしても、誰も上海にいる真綾様を龍野家当主だと認めないよね。。。)
「あの、1つ質問をしていいですか?」
僕が手を挙げて質問を求めると、
「はぁ?下賤なものが私たちの会話に割って入るなど、許されません。」
と、彩音さんが吐き捨てるように言った。
「彩音、そう言ってやるな。樹君の質問を聞いてやろうじゃないか。」
「・・・分かったわ。宗リンは心が広いわね。許してあげるから、早く言いなさい!」
「真綾様と彩音さんは上海に行かれる予定だったのですよね?それと真綾様が龍野家当主になることが繋がらないのですが、、、」
「はぁ、、、樹は馬鹿なの?何処にいようと、龍野家当主家が長年厳重に保管してきた魔法具を持っている者が龍野家当主なのよ。」
「その魔法具を持っている者が龍野家当主であると主張したとしても、上海にいるのであれば東京にいる魔法使いは誰もそれを認めないのではないでしょうか?」
「そうかしら?もし、樹の言うとおりだとしても力で認めさせればいいのよ。」
「そんなことをしたら戦争になりますよ。」
「ならないわ。現に上海の連中もお母様の力を認めて素直に軍門に下ることを選んだのだから、東京にいる魔法使いも同じようにするわ。上海の連中もそう言っていたし。」
(絶対に騙されてる!)
(そうよね。真綾様はそうではないと思うけれど、彩音さんは上海の言うことを信じてそう。)
(彩音さんの頭の中はやっぱりお花畑だったか、、、)
(私もこれ程とは思わなかったよ。)
「・・・。」
「納得できたかしら?」
「宗則さんも同じ考えでしょうか?」
「いや、俺は違う。」
「えっ!?宗リン、違うの!?」
宗則さんの言葉に彩音さんが驚く。
「俺は真綾様の計画が失敗すると以前から思っていた。だからこそ彩音に、真綾様と一緒に上海へ行くのは止めるように、と言ったんだ。」
「確かに宗リンの指示通りに私はお母様と一緒の船に乗らずにここに残ったけれど、計画が失敗したらお母様はどうなるの?」
「真綾様は彩音が築く新しい龍野家の礎になってもらうしかないだろう。」
「それって、お母様を切り捨てる、ってことよね?」
「そうだ。龍野家当主は時に非情な決断をしなければならない時がある。俺は彩音だったらそれができると信じているんだが、違うか?」
「・・・ううん、違わない。私は宗リンの信用を裏切ることはしないわ。」
「ありがとう。」
不安そうな彩音さんを宗則さんは抱き寄せた。
(宗則も上手く彩音を飼い慣らしているようですな。)
(それに『担ぐ神輿は軽い方が良い』と思っていそうじゃのう。)
(毎度のことですが、エレナ様は何処からそんな言葉を憶えてくるのですか、、、)
「それにしても、宗則さんが以前から真綾様側の魔法使いであったのなら、この計画が失敗すると思っていながら止めようとしなかった理由は何故ですか?」
「知れたこと。真綾様が事を起こせば、亜紀様は美姫様を連れて真綾様の捕縛に向かうでしょうから、その途中で美姫様が脱落すればそれで良し、そうでなくてもここで俺と彩音が美姫様を倒せば美姫様を排除することができるのですから、止める理由なんてありますか?」
「宗則さんが私のことをそれ程邪魔者に思っているとは知りませんでした。」
「美姫様が体の弱かった昔のままであれば気に留める必要もありませんでしたが、今では回復して亜紀様の養女にもなり次期龍野家当主の最有力候補だ。このままでは彩音を龍野家当主にすることができないとなれば、美姫様には退場してもらうしかないでしょう。」
(宗則さんは彩音さんを愛しているから彩音さんを龍野家当主にしたい、というより、そうすることで己が権勢をふるいたい、と思っていそうね。)
(同意。でも、そのためには美姫の存在が邪魔だと。)
(だから、真綾様の計画を利用して私を排除しようと考えたのね。)
「長々と話をしてしまったが、真綾様と亜紀様の話し合いが終わるまでにはこちらも決着をつけないといけないから、そろそろ始めるとしようか。」
「そうね。」
2人は突撃銃型補助具を手に取って僕たちに向ける。
「どうしても戦わなければなりませんか?」
「美姫が龍野家当主にならないと宣言して国外に退去するのなら見逃してあげるわよ。」
「それはできません。」
「なら、戦争ね。」




