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最上階への階段を昇り、扉から中の様子を伺うと、複数の魔法使いが倒れている。
(淳二中尉が言っていた、真綾様の護衛たちかな?)
(多分。『物音がしなくなってしばらくします』とも言っていたし、もう戦闘は終わってるようだから、倒れているのが演技じゃなければ大丈夫そうだ。)
(お義母様は無事だと思う?)
(肯定。そうじゃなかったら、エレナ様やグレンさんが何も言わないはずないし。)
(それもそうね。)
中に入ると、宗則さんが椅子に座っていた。
「美姫様、樹君、少し遅かったですね。ここにいた魔法使いは私と亜紀様で倒してしまいましたよ。」
「そのようですね。」
「亜紀様に本気を出させることも出来ない不甲斐ない輩どもでしたが。」
「ところで、お義母様は何処にいらっしゃるのですか?」
「亜紀様ならあの扉から真綾様がいる部屋に入られました。」
美姫の問いに答えるように、椅子から立ち上がりながら宗則さんが後ろ側の壁を指差す。
「壁の一部が扉になっていたのですね。」
「そうです。あの扉は壁と同化していて取っ手がないため、こちら側からは開けられないようになっているのです。ですので、いつでも駆けつけられるよう、今は少し開けています。」
「それで、宗則さんはお義母様の護衛であるのに、お義母様と一緒に真綾様がいる部屋に入らなかったのはどうしてですか?」
「亜紀様が、真綾様と2人だけで話をしたい、と言われたからです。」
「お義母様がそう言われたのであれば、仕方ないですね。」
「それから、当初から亜紀様をお連れするのはここまでで、小官はここで美姫様と樹君を待つつもりでしたから、亜紀様の要望は好都合でした。」
「私たちを待っていたのは、何のためにですか?」
「圭子と一真が御二人に負けることは分かっていましたから、その後始末のためです。」
「やっぱり、宗則さんお義母様を裏切って、真綾様側についていたのですね。」
「いえ、元から真綾様側の魔法使いですから、亜紀様を裏切ってなどいません。」
「・・・どういうことですか?」
「こういうことよ。」
物陰から出てきた女性が宗則さんの方に手を置く。
「彩音さん!?」
「驚くことはないでしょう。お母様がここにいらっしゃるのだから、私がここにいてもおかしくないわ。」
(何故、彩音さんが宗則さんと一緒にいるんだ!?)
(私も2人がただならぬ関係だったなんて知らなかったよ。)
「俺と彩音は愛し合っているのです。」
「そうだったのですか。知りませんでした。」
「だって、亜紀様の護衛である宗リンとお母様の娘である私が愛し合っているなんて知れたら事だもの。秘密裏に逢瀬を重ねていたのよ。」
「しかし、これからはもう、そうする必要もありません。」
「そうね。お母様が龍野家当主になれば、私たちの関係を隠しておく必要もなくなるわ。」
彩音さんが宗則さんに熱い抱擁をする。
「真綾様が龍野家当主になられることはありません。」
「それは美姫の願望よね?龍野家当主家が厳重に保管してきた魔法具を現在有しているお母様が龍野家当主になるのは当然のことよ。」
「彩音さんはその魔法具がどういうものか知っておられるのですか?」
「えぇ。龍野家当主の資格を与えるもの、でしょ。眉唾だけれど、その魔法具が龍野家当主を選ぶ、なんて話もあるわ。」
「そうではなく、魔法具の名前や形などです。」
「龍野家当主とその娘にしか伝えられないから、と言って、お母様は私には教えて下らなかったわ。」
「真綾様は、辛うじて一線は超えなかったのですね。」
「何ですって!?美姫、あなた、まさか知っているの!?」
「はい。お義母様から教えて頂きました。」
「美姫は養女とはいえ龍野家当主の娘だったわね。だけど、それが何?私がそれを知らなかったから、ってバカにしたいわけ?もしそうなら、完全な負け惜しみね。」
「そうではありません。」
「じゃぁ、どういうことかしら?」
「真綾様は魔道具が収めてあった保管庫を開けた時に何か仰っていませんでしたか?」
「お母様が保管庫を開けた時?そうね、、、何も言っていなかったわよ。でも、魔道具が入っていた袋を開けた時に息を呑んでいたような気もするわ。」
「そうですか。」
(やっぱり。真綾様は保管庫に入っているのが本物の桜花ではないことが分かったのね。)
(そうだとして、持ち去った魔法具を手土産に上海に逃げようとしたのだったら、偽物だと露見した時が問題じゃない?)
(偽物も本物ほどではないけれど、きっとそれなりに強力な魔法具なのよ。)
(成程。)
「美姫は何が言いたいのかしら?ハッキリ言って頂戴。」
「私は真綾様が盗まれた魔道具は偽物だったのではないか、と考えています。」
「盗んだなんて言い掛かりを言わないで!不当な持ち主から返してもらっただけなのだから。・・・ちょっと待ちなさい、、、偽物ですって!?」
「はい。」
「そんなはずないわ!そんなことを言って、美姫は私を動揺させようとしているのね?」
「違います。」
「じゃぁ、美姫がそう考えた理由を言いなさい!」
「龍野家当主家が長年厳重に保管してきた魔法具を盗まれたにしては、お義母様が冷静だからです。」
「確かに、亜紀様は驚いたご様子でしたが、焦ってはおられませんでした。」
「宗リンまで美姫の言い分を認めるの!?」
「当時の状況を振り返ると、美姫様の言われるとおりだ、と思っただけだ。」
「そんな!もし美姫の考えが正しければ、お母様は破滅よ。。。」




