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「魔法連合国に関する説明の続きをしようか。」
「お願いします。」
「魔法連合国が秘密裏に魔法使いを誘拐したり、魔法の腕輪の製造方法を手に入れたりするための手段として反魔連を使っている、というところまで話した、でよいだろうか?」
「はい。」
「魔法連合国が反魔連の支援を行っている理由の一つは、彼らに陽動を任せるためだ。反魔連が騒ぎを起こしている間に、魔法の腕輪そのものやその製造技術を盗み出したり、魔法使いを誘拐したりしているんだ。」
「反魔連は魔法連合国に体よく使われているように思えるのですが、彼らはそれを良しとしているのでしょうか?」
「魔法連合国をうまく使って支援を引き出している、と思わされている、というのが専門家の間では一般的な見解だね。主義主張に凝り固まると周りが見えなくなって体よく使われる、というのはいつの時代にでもよくあることなんだ。美姫さんや樹君も、常に視野を広くして自分で考えるようにしないといけないよ。」
「分かりました。」
「魔法理事国も悪魔への対応が最優先で治安にまわせる人材も有限だから、反魔連に破壊行動を起こされたときにそちらに戦力をまわしてしまうと、結果的に魔法連合国の動きを察知できなかったり、対応が遅れてしまったりする。魔法連合国も証拠が残らないように入念に準備をしているから、魔法理事国も対処に苦慮しているんだ。」
実際に魔法連合国が関わったと思われる事件が電子黒板に映し出されている。
「このように魔法連合国は様々な事件に関わっていると考えられているが、これらの事件から見えてくるのは、彼らが欲しているのは”楯系”の魔法使いや魔法の腕輪だ、ということだ。」
「どうして”楯系”なんでしょうか?」
「理由は2つ。1つ目は悪魔との戦いは防衛戦のため、都市を守り切るには”大砲系”や”銃剣系”よりも”楯系”の方が重要だ、ということを第二次悪魔大戦で再認識したから、という理由。」
「確かに”楯系”は防御系の魔法なので、都市を守る、ということであれば攻撃系の”大砲系”や”銃剣系”よりも優れているように思います。」
「魔法連合国の考えも同じなんだろう。そして2つ目は、”楯系”の魔法系統は歴史が浅い、ということと、魔法理事国が情報統制しているため魔法理事国以外には広まっていない、という理由だ。まだ、樹君には魔法使いの歴史を詳しく教えていないけれど、”楯系”の魔石は2003年に見つかったばかりなんだ。」
「その前に、魔石って何ですか?」
「魔力を魔導力に変換するための触媒みたいなものよ。」
「美姫さんの言うとおり、魔法の腕輪は”魔石”を”銀を主体とする金属”で固めたもので、実際に魔力を使って魔導力を生み出しているのは魔法の腕輪の中の魔石なんだ。銀を主体とする金属は魔力を効率よく魔石に伝えるためにあって、それぞれの魔法系統について金属の種類や配合率が異なっている。
そして、”大砲系”や”銃剣系”は長年の研究で最適な金属の種類や配合率が分かっているけれど、”楯系”の魔石は見つかったばかりだから様々な組み合わせの研究が続けられていて、最近ようやく最適と思われる金属の種類や配合率が分かりつつある、という段階でしかないんだよ。」
「だから、魔法連合国はその金属の種類や配合率を探るために、魔法理事国から魔法の腕輪を盗んだり、 魔法使いを誘拐したりしている、というわけですか。」
「そういうことだ。」
「でも、そんなことをしたりせずに魔法連合国も自分たちで研究すればよいと思うのですが、何故そうしないのでしょうか?」
「以前も話したように、”楯系”の魔法の腕輪に適性のある魔法使いでなければ”楯系”の魔法を効率よく使うことができない。魔法に関する研究についても同様で、”楯系”の魔法の腕輪について研究するためには、”楯系”の魔法系統に属する魔法使いでなければ魔法が発動されたときの効果や魔法の腕輪の魔力効率は調べられないんだよ。
魔法の腕輪への適性の7~8割は母親から受け継がれるから、手っ取り早く”楯系”の魔法の腕輪に適性の高い女性を誘拐して”楯系”の魔法使いの家系を作り上げたいと魔法連合国は考えているんだろう。」
「ひどい話ですね。」
「それだと龍野家は”銃剣系”で”楯系”ではないので、私たちが追跡された理由にはならないんじゃないでしょうか?」
「その理由が龍野家の中で重要な問題になっているんだ。亜紀様から聞いたとは思うけれど、美姫さんは”楯系”の魔法の腕輪についてもかなり高い適性を示している。あの状況を鑑みると、誘拐を目的としていたと考えるのが妥当だから、美姫さんの適性がどこからか漏れたとしか考えられない。」
「先生も私の適性をご存じだったんですか?」
「美姫さんの魔力検査をしたのは私だからね。最も、私は魔力検査の前から美姫さんの適性についてはある程度聞かされていて、それが漏れないよう魔力検査の結果に細工をするために病院に派遣された、というほうが正しい。」
「それで急に病院にいらしたんですね。」
「急だったものだから事前に連絡できなくて、驚かせてしまったね。退院してから学校で魔力検査をする予定だったんだけれど、亜紀様が美姫さんの適性が漏れると危険なことに巻き込まれかねないと考えられたようで、急遽左衛門様から私のところに連絡が来たんだ。」
「狙われたのは本当に私なんでしょうか?」
「おそらくそうだろう。魔法連合国が誘拐を企てるのは女性の魔法使いがほとんどだし、美姫さんの魔法の腕輪に対する適性を知っていれば尚更だ。樹君という可能性もないわけではないが、現時点ではどの魔法系統に適性が高いか分からないから、除外しても良いと思う。」
「そうですね。僕が襲われる理由はないと思います。先生、という可能性はないんでしょうか?」
「私の能力はそれほどでもないから、可能性はないね。」




