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竜の女王  作者: M.D
2170年冬
45/688

30

「美姫ちゃん、樹君、またいらっしゃいね。」

「はい。亜紀様のご都合の良いときにまた伺います。」

「今日はありがとうございました。」


「では、玄関までお送りします。」


 左衛門さんに連れられて玄関まで来たときに、


「美姫様、少しお時間よろしいでしょうか?」

「何でしょうか?」

「お時間は取らせません。お願いを聞いて頂きたいのです。」

「・・・分かりました。」


 玄関近くにある別の応接室に移動して、左衛門さんの話を聞いた。


「先程の亜紀様のお話ですが、亜紀様のご希望を叶えて頂きたく、私からもお願い致します。」

「流川さんまでどうしてそんなことをおっしゃるのですか?」

「私のことは、左衛門とお呼び下さい。側仕えの者に敬称は不要です。」

「分かりました。そうします。」

「ご質問の回答と致しましては、亜紀様も言われましたとおり、現在の亜紀様を支えているのは、美姫様の存在だからです。これは私も含め亜紀様に使える者達も同じ気持ちでおります。」


 左衛門さんの雰囲気が、普段の柔和な感じとは異なっていた。


「どういうことでしょうか?」

「亜紀様にお子様がいらっしゃったことはご存知でしょうか?」

「はい。」

「では、お子様が亡くなられた原因についても?」

「事故で亡くされたと聞いています。」

「今から申し上げることは他言無用でお願い致します。樹様も、よろしいですか?」

「「はい。」」

「表向きは事故となっていますが、亜紀様の長女である佑香様は実際には殺害されたのです。」


 えっ!?


「あれは、亜紀様が2人目のお子様を妊娠されているときのことでございます。ある日、佑香様がおられなくなるという事件が起こりました。

 佑香様の侍女もいなくなったため、誘拐と判断した私共、亜紀様に使える者達は、そのことを他に知らせず秘密裏に捜索を開始しました。しかし、手掛かりを何も見つけられないまま、2日後に事故に見せかけて殺害された佑香様が発見されたのです。」

「知りませんでした。」

「表沙汰にならぬよう秘密裏にことを進めましたから、真相を知っている者はごくわずかです。そして、その後も捜査を続けたのですが、犯行の痕跡を見つけて追いはするものの結局犯人まで辿り着くことはできませんでした。」

「黒龍会の犯行でしょうか?」

「いえ、黒龍会の手によるものだとすると、追えるような犯行の痕跡を残さないでしょう。そして、侍女の行方もつかめず犯人も捕まえられなかった私共は、当時の龍野家本家筋の方々から厳しく叱責されましたが、亜紀様が私共のことをかばって下さり処分を免れました。」


「処分ですか。。。もしかして、左衛門さんは魔法能力喪失者なのでしょうか?」

「はい。美姫様のおっしゃるとおり私は魔法能力喪失者で、流川というのは龍野家に関わる魔法能力喪失者がつける名字です。」

「そうだったんですか。」

「私も魔法能力喪失者であることが分かった時には将来に絶望したものですが、亜紀様に使えさせて頂いて、生きていて良かったと思っていますので、お気遣い無用です。」

「分かりました。」


(左衛門さんが百合子さんの言っていた魔法能力喪失者だったなんて。)

(私も、もしかしてと思って聞いてみたけど、そうだと知ってビックリしたよ。)


「話を続けますと、佑香様が殺害されたことに衝撃をうけられた亜紀様は2人目のお子様を流産なされ、それが原因で体調を崩してふさぎ込みがちになられました。ふさぎ込みがちになりお部屋からほとんど出てこられないようになった亜紀様を、私共も心配しておりましたが、手だてが見つからず亜紀様を支え続けることしかできませんでした。

 私共では何ともできかなった亜紀様が立ち直られるきっかけになったのは、美姫様がお生まれになったことでした。」

「私が、ですか?」

「はい。妹君のおられない亜紀様は、年下の親戚の中でも美姫様のお母上である麻紀様を実の妹のようにかわいがっておいでで、麻紀様が妊娠されたと聞いて我がことのように喜ばれました。美姫様がお生まれになってから、亜紀様は麻紀様のご自宅に通われるためにお部屋から出て来られるようになり、徐々に元気を取り戻していかれました。このことは我々にとっても嬉しいことでした。」


「そして、2度目の転機が訪れます。」

「私の母の死、ですか?」

「そうです。麻紀様が亡くなられたときには、美姫様はまだ小さく、圭一様もすでにお年でした。それゆえ、亜紀様は圭一様が亡くなられらた時のことを考え、美姫様を守ることができる環境を整えようと考えられました。」

「それが私を養女とすることだった、と。」

「はい、その通りでございます。しかし、本家筋の養女になるということは次期当主候補となることと同じこと。本家筋の方々から許可が出るとは思えません。実際に、麻紀様もその魔力量を見込まれて、麻紀様のご両親が不慮の事故でお亡くなりになった際に様々な駆け引きが行われたのですが、最終的に分家筋にあたる圭一様のお母上に引き取られる、ということがありました。」

「母が養女として引き取られたことは聞いていましたが、そのような経緯があったなんて知りませんでした。」

「裏事情というものは、伏せられていることが常であります。そういったこともあり、亜紀様は美姫様を守るために自分の養女として引き取るにはどうしたらよいか考えられました。そして出された結論は、亜紀様が龍野家当主となり他の本家筋の方々に文句を言わせないようにする、というものでした。」


「今日の話はそんな昔から考えられていたことだったんですね。」 

「そのとおりでございます。しかし、それもまた厳しい道でした。亜紀様には3つ年上の姉君がおられることはご存知でしょうか?」

「真綾様ですね。」

「そうです。真綾様は亜紀様よりも魔法使いとしての能力があると自分では思われており、亜紀様を見下される傾向にありました。さらに、真綾様はなかなか女児に恵まれず、1人目から女児を設けられた亜紀様に嫉妬されていたようでした。」

「もしかして、亜紀様のお子さんを誘拐させたのは――――」

「それ以上は口になされない方が良いかと思います。」

「分かりました。」


(左衛門さんがそう言うということは、そうなんだろうな。)

(龍野家の内部に主犯がいるとしたら情報が筒抜けだから、誰にも知られず誘拐して足取りをつかめないことにも納得がいくね。)

(でも、物的証拠を掴めなかったから状況証拠だけで龍野家本家筋の人間のことを悪く言うことはできないと。)

(そういうことだと私も思う。)


「亜紀様が龍野家当主になろうと決断されたとき、次期当主様は真綾様で決まりかけており、亜紀様が巻き返す余地などないと思われていたのです。それを覆すために亜紀様は大変な苦労をなされ、様々なことがあり、亜紀様は龍野家当主となられたのです。」

「様々なことってどのようなことでしょうか?」

「おぉ、もうこんな時間ですか。長い間お時間を取らせて申し訳ありませんでした。ただこれだけは言えます。亜紀様は誰も殺めるようなことはなさいませんでした。真綾様が堕落されたのは真綾様自身の弱さゆえ、ですので。」


 強制的に退室を促すような圧力を左衛門さんから感じた。


「私が申し上げたかったことは、亜紀様は美姫様のことを大事に思っておられる、また、亜紀様が立ち直ることができたのは美姫様のお陰であることに対して感謝申し上げたい、ということです。」

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