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竜の女王  作者: M.D
2172年秋
443/688

07

「美姫ちゃん、驚いたかしら?」

「はい。とても。」

「そうでしょうね。私は、遂にしでかしたか、って感じだけれど。」


 左衛門さんも部屋を出ていき、2人だけになってから亜紀様が美姫に話しかけた。


「折角だから、龍野家当主家が厳重に保管してきた魔法具について教えておくわ。」

「お願いします。雄平大将閣下も魔法具が盗まれたと聞いて大変驚かれていましたが、龍野家当主家が保管しているのは余程重要な魔法具なのですね。」

「そうよ。美姫ちゃんは”神話級”と呼ばれる魔法具があるのは知っているかしら?」

「はい。ロンドンのペンドラゴン家が保有するエクスカリバーが”神話級”の魔法具の一つではないか、と言われていると純一先生の補講で教えてもらいました。」

「龍野家当主家が厳重に保管してきた魔法具が、その”神話級”の魔法具の一つなのよ。」


 えっ!?


「そうなのですか!?」

「そうよ。と言っても、ペンドラゴン家が保有するエクスカリバーのように歴史に登場するような有名な物ではなく、龍野家当主家が代々秘密裏に受け継いできた物が”神話級”の魔法具だった、と魔法技術が日本に伝わった時に分かった、ということなのだけれど。」

「そのような魔法具がここに保管されていたなんて知りませんでした。」

「龍野家当主とその娘にしか伝えられていないことだから、美姫ちゃんにもそろそろ教えないといけないと思っていたところだったのよ。」

「でも、雄平大将閣下が大変驚かれていた、ということは、雄平大将閣下も龍野家に”神話級”の魔法具が保管されていることをご存じだったのではないですか?」

「ううん。保管している魔法具を魔法軍には”特上級”と申請してあるし、”特上級”の魔法具も日本に数個しかないから、雄平さんが驚いたのはそのせいよ。」

「そうだったのですか。」


「それじゃ、保管場所に行きましょうか。」

「はい。」


 亜紀様と美姫は応接室を出てお屋敷の中を歩き、地下への階段を降りる。


「薄暗くて少し不気味です。」

「大事な魔法具を厳重に保管しているのだから、煌々と明かりをつけて『ここにござい』って場所を明らかにするのもおかしいと思わない?」

「それもそうですね。」


 地下の通路を歩きながら、亜紀様が美姫に話しかけた。


「美姫ちゃんは、龍野家を含む東京にいる魔法使いの家系の大半が陰陽師の系譜を継いでいることは知っているわよね?」

「はい。京の優雅な暮らしにうつつを抜かして修練を怠たるようになった陰陽師が多い中、魔を祓う能力や秘術が失われていくのを嘆いて京を離れた陰陽師たちがいて、龍野家もその流れを汲む、と父から教えられました。」

「京を離れ富士山の麓に修練場を開いた陰陽師たちの中には、魔を祓うための道具を作っていた陰陽師もいたわ。そして、その者たちが作り上げた最高傑作が、”神話級”の魔法具である”桜花”だったの。」

「”桜花”ですか。」

「そう。それが龍野家当主家が代々秘密裏に受け継いできた”神話級”魔法具の名前よ。」


「・・・でも、それっておかしくないでしょうか?『魔法具は魔法の腕輪と補助具が一体になったもの』で、魔法の腕輪も補助具も『”魔石”を”銀を主体とする金属”で固めたもの』であるはずですよね?」

「そうよ。」

「”魔石”はリューデリッツ、 パース、 ヒューストンでしか採れないのですから、昔の日本で魔法具が作れたはずはない、と思うのですが。」

「だったら、美姫ちゃんは”神話級”の魔法具と言われるエクスカリバーが古代イングランドにあったことをどう説明するのかしら?」

「・・・言われてみると確かにそうですね。。。」


 美姫が少し考えこむと、


「ヒントをあげるわ。美姫ちゃんが黒鍔村で見たものは何だったのかしら?」


 と、亜紀様が助け舟を出した。


「鬼、、、それを封印していた水晶、、、はっ!封印の結晶は魔石を含んでいました!」

「そう。あの辺りの土地から微量だけれど魔石が採れるのよ。そして黒鍔村は富士山の麓にあって、昔に私たちの祖先が開いた修練場があった場所にも近いの。」

「つまり陰陽師たちは魔石を結晶化することができて、それで魔法具を作っていた、と。」

「そのとおりよ。でも、平和が長く続いて文化が花開いた江戸時代に、陰陽師の若者たちは華やかな江戸の生活に憧れて修練場を出て行ってしまったそうよ。そのため、魔石を結晶化する技術も徐々に伝承されなくなり、最終的に失われてしまったわ。」

「勿体ないです。」

「そうね。イングランドだけでなく世界各地に含有量は極微量だけれど魔石を含んだ石が存在していて、それを結晶化する技術を持った人たちもいたのだけれど、他民族に征服されたり疫病で人口が減ったりして技術が伝承されなくなったのではないかしら。」

「そう考えると、魔石を多く含んだ石がリューデリッツで見つかったことは幸運だった、としか言えませんね。」



「さぁ、ここよ。」


 扉の前で亜紀様が立ち止まった。


「美姫ちゃん、扉に手を当てて頂戴。」

「はい、、、えっ!?魔力が吸われているということは、これって補助具ですか?」

「そうよ。この扉は特殊な補助具で、登録した魔力でしか扉が開かないようになっているわ。そして、魔力の登録は、登録者と一緒に扉に手を当てて、登録者が扉を開いた時に行われるの。」


 亜紀様も扉に手を当てて、扉を開く。


「これで美姫ちゃんの魔力も登録できたから、次からは美姫ちゃんだけでも扉を空けられるわ。」


「中に金庫があります。」

「あれが桜花が収めてあった保管庫よ。扉と同じような補助具だから、美姫ちゃん、また手を当てて頂戴。」

「はい。」


 美姫が保管庫に手を当ててから亜紀様も手を当て、保管庫が開かれると、


「姉上に盗まれたのだから、当然中には何も入っていないけれど。」


 亜紀様の言うとおり、保管庫の中は空だった。

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