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「うっ、頭が痛い、、、」
受験勉強として朝から数学の過去問を解いていると頭痛がしてきた。
(たった2時間しか勉強しておらんのに、樹の脳ミソは軟弱じゃのう。)
(樹は数学が苦手だからかもしれません。)
(肯定。数学科に進学するわけじゃないんだから、頭痛を起こしてまでこんな難しい数学の問題を解く力を養ったところで、この先使うことなんてないはず。)
(それは魔法工学を専攻しようとしている者の言うことではないと思うがのう。)
(エレナ様の言うとおりよ。樹は東大で魔力を流す経路を機械に組み込む方法を研究するんでしょ。その時にも数学が必要なんだから、この勉強も無駄にならないと思うよ。)
(そうかな?)
(ワレとグレンの力を当てにしておるのかもしれんが、それはお門違いじゃ。)
(そうよ。それに樹は頑張ればできる人だと私は思っているし。)
(美姫は僕に期待しすぎ。)
(でも、苦手な数学の勉強して疲れているから樹はそう思ってしまったんじゃないかな?)
(多分。)
(だったら、もうお昼の時間だし、気分転換に今日は外に食べに行かない?)
(賛成。)
さっそく準備をして寮の玄関まで行くと、ちょうど美姫も来たところのようだった。
「今日はまた変わった鞄を持ってるね。」
「可愛いでしょ?偶然見つけて、黒猫の方のザグレドに似てたから衝動買いしちゃったの。」
美姫が斜め掛けにしているのは、黒猫が肩から顔を出しているように見える鞄だ。
「いいと思う。」
「そうでしょ!」
(樹がいいと思っているのは、鞄の帯が胸の間に挟まっておるからじゃろう?あまり美姫のことをエロい目で見るでないのじゃ。美姫が汚されるのじゃ。)
(否定。それはエレナ様の勘違いです。)
(本当にそうだと樹は言えるのかのう?)
(・・・肯定。エレナ様が穢れているからそんな風に感じるんですよ。)
(なんじゃと!)
(別に私は樹にだったらそんな風に見られてもいいですけど。)
えっ!?
(ワレのかわいい美姫が。。。)
放心しているエレナ様は放っておいて寮の玄関を出ると、
「ニャー。」
「ザグレドはこの鞄どう思う。」
「似合っているニャ。」
「よしよし。ザグレドもそう思うのね。」
ザグレド(猫)を見つけ、しゃがみ込んで美姫が頭を撫で始めた。
「そう言えば、珠莉がザグレドのことを『なかなか触らせてくれないって有名』って言ってたのを思い出した。」
「へぇ、私はそんなこと聞いたことないよ。それっていつのこと?また私に内緒で珠莉と出かけたりしたのかな?」
「否定。1年くらい前に東京駅の百貨店で美姫と会ったことがあったでしょ。あの時。」
「ふーん。そういうこともあったね。」
「ニャー。」
美姫の平坦な声に、ザグレド(猫)も足の間に尻尾を丸め、恐怖を感じているようだ。
(樹の不用意な発言が悪いのじゃ。)
(反省。)
(罰として、今日は樹のおごりじゃ。美姫もそれでよいじゃろう?)
(はい。)
(了解。。。)
「それで、ザグレドは触られるのが嫌なの?」
「美姫と樹以外に触られるのは嫌なのニャ。」
「もしかして、ザグレドは人見知りする方?」
「人を警戒しているだけじゃない?」
「母様から人間には注意するように言われたニャ。」
「そっちだったか。」
「ザグレドは魔獣だもの。人を警戒するのは当然よね。」
「ニャー。」
美姫はひとしきりザグレド(猫)を撫でた後、
「それじゃ、帰りにお土産買ってきてあげるね。」
「やったニャ。待ってるニャ。」
ザグレド(猫)にお土産を約束して立ち上がる。
「どこに行くか決めてなかったけれど、どうする?」
「うーん、、、とりあえず駅前に行ってから決める?」
「そうね。そうしましょう。」
美姫と学校近くの駅前に向かうことにした。
「部屋に閉じこもって受験勉強ばかりしているより、こうやって外に出ると気分がいい。」
「でも、外に出て歩くと、まだまだ暑いね。」
「同意。もうそろそろ夏が終わる頃なのに。地上より涼しいことが救いだけど。」
空を模した天井から降り注ぐ光もまだ少し強い。
(そう言いながら、涼しくなれば美姫が薄着ではなくなることを樹は残念に思っておるのじゃろう?)
(今の会話のどこを聞いたらそういう結論になるんですか?)
(ワレ程度になると、樹が心の奥底で思っていることが手に取るように分かるのじゃ。)
(エレナ様は凄いですね。)
(美姫、エレナ様の話を真に受けちゃダメだ。)
(樹は黙っておるのじゃ。)
(・・・これと同じ会話を以前しませんでした?)
(そうじゃったかのう?)
(エレナ様のそのすっ呆けた感じからするとあったんですね。)




